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彼等は

0.瞬間で当たり前に

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赤い光が眩しくて閉じた目を少しずつ開ける。世界は変わらず酸素で満ちていた。


「何、今の……」

零蘭れいらん


いつもはのんびりな雛野ひなのの声がすっと響く。嬉しそうに。

「見て、月と太陽が隣り合ってる」


零蘭は笑っただけで何も答えなかった。

夜だったはずの世界は今は明るい。眩しくて見えないはずの太陽がなぜか見つめられる。
ベランダにいたはずなのに地面は土。小粒の石が混ざった水っけのない乾いた道だった。
左手に感じる体温は雛野に握られた手。

空を見たまま雛野はまた呟いた。

「素敵ね」


顔が見えなくても雛野が何となく笑っているのがわかった。いつもと変わらない美しく可愛らしい顔だろう。

雛野を立たせ砂を払う。自分も同じようにして今度は目を合わせた。やはり笑っている。

「夜が楽しみ」

昼間も月が出るのなら夜の太陽はどうなるのだろう。新しい情報に飛びつく癖は雛野に限ったことではない。零蘭もまた楽しげに笑っている。




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