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彼等は

2.美しくて神秘的な

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今時廃工場をアジトにするなんてある意味貴重だな、と誰かが言っていたのを思い出す。廃工場であるメリットと言えばケンカがしやすい。それくらいだ。
人が集まらなければ情報が集まらない、真っ当な道を外れれば外れるほど変に複雑化していくのだ。
ある意味ここの人間は日の当たる道に近かったのだろうなと啅斗は思う。

それに以外にも寝心地のいいソファーを置いている。いい趣味だ。

笑いなんてしないが心は別段暗くない、一般人から見れば近よりもしたくない光景のなか啅斗は静かにソファーに横になり慣れた様子でまぶたを下げる。あとはもう力を抜くだけだ。

そして思う、彼女のことを。





「寝ちゃったね」


声だけならさぞフレンドリーな人かと思えば振り向くと話掛けたのかさえ疑ってしまう無表情の端整な顔。その顔はまるで宝石だ。綺麗なのに飾られたように表情が変わらない。それこそ啅斗の眠さの表情が安心できるくらい。
とは言っても啅斗もまた無表情に近い。

「と、言っていますが。敬紫さんも今日はあまり身が入らないようですね」

じゃり、と砂と小石の音を含んだ足跡が後ろからしたと思えばいつの間にか後ろに立つ青年の姿。まるで王子のような容姿はやはりここにはふさわしくなかった。

「清」

クスクス綺麗に笑う彼に涼が声をかけた、清もまた敬紫に魅せられた者。

「そうだね、ちょっと飽きたかな」

肩までの緩くウェーブのかかった長めの髪をかきあげるとまげた指で唇をなでる。

「どうぞ」

「……」

差し出された煙草に目で見てから緩やかに腕を伸ばす。確かにそれだけど出来ることならあれがいい。清は読み取れる表情に小さくわらった。

「今日はお二人に会われてないですものね」 

「うん」

思ったよりも早い返事に今度は涼と笑う。
敬紫が口にくわえた煙草にすぐさま火を灯し涼は言った。

「今日はもう帰ったらどうですか?」

「ううん、今日は最後まで居る」

「そうですか?」

「今日はね…………」


その時暗闇の中で8つの目が光った。流石にこうも話していたら目立つのは当たり前だ。取り囲むようになおかつ全員で叩き潰すように。


それでも瞬間にすべてを地面へと倒れさせられるのは敬紫だからだ。

相変わらず綺麗だ。

清はこういう場面で微笑んでしまう。彼は、なんて、と。

さらにそれを端からみる涼はなんだかきはずかしくなってしまった。自分もまた啅斗には見惚れる時がある。敬紫も勿論尊敬しているがそれ以上は好みの問題だ。


「多分来ると思うから」

「……は、なんです?……ああ、」


見入っていた清は今の一瞬で言葉の途中だったことを思い出す。彼らにとって一番はあの方々だ。
また、清にとっても涼にとってもそれはそれは大切な人間になりつつある。自分でも驚くくらいすんなりと。やはり彼らはふつうの人間とは何かが違う。

「貴方がそう言うのならそうなのでしょうね」

微笑ましい。

何故か嬉しく思っている自分にまた笑った。



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