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夏の気持ち
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しおりを挟む「あ、あっつい……」
朝、秋が大会近いから今日は死ぬまでダンス練習してくると言っていた、おれと優はバイトを入れたので朝はそのままバイバイ。
茹だる暑さの中バイトから帰ってくるといつでも快適なシェアハウスはさらに天国に感じるほど涼しい。アイスを食べながら夕方の時間を過ごすと次に帰ってきたのは秋だった。
秋の分のアイスを持って出迎えると顔を真っ赤にした秋が玄関で息絶えるように倒れていた。
「おお、茹でタコお兄ちゃんにフルーツアイスをあげます」
「いつも可愛い顔だけどまじ唯が天使に見えるわ~」
ふざけながらもぷるぷる震える腕が伸びてきたので軽く拭いてあげる。その手にアイスを掴ませるともぐもぐと食べ始めた。体調は悪くなさそうなのでとりあえず優と目線を合わせて一安心。
「宣言通り死ぬほど練習した人だねこれは。送り迎えがないなんて珍しい」
「いや、亜蘭さん来てくれてたんだけど追い込むなら走ろうかと思って」
「秋ってたまにこういうとこおバカだねぇ」
「うわ唯に言われると刺さるわ……」
「アイス返してもらうぞこのやろ」
まだ赤いほっぺを突いてやる。
優も秋に苦笑するけど何故か視線は玄関のドアの向こうに行ってしまった。一回瞬きをすると綺麗な顔で小さく鼻で笑う。何か分かってしまったらしい。
「この暑さが予想以上だった上ダンスで体力がだいぶ減ってたから見誤ったね……しかも走るって言った手前亜蘭さんの前で心配かけるわけにはいかないと、最後まで元気全開でいるパワーを出し切り、ここまで帰ってきてついに今倒れたと」
仰向けに転がった秋がアイスをかじり、少し間を置いて逆の手を挙げる。
「だいせーかーい」
親指がビシッと立ったものの数秒で崩れ落ちた。
チームの人たちに送り迎えを大丈夫といってお別れしても誰かしら見守ってくれてるらしい、というのは割とすぐ分かった事なのだ。
多分亜蘭さんも秋の体力作りは邪魔しないようにどこかで見守っていてくれたのだろう。秋の優しさは素晴らしいけどこうして玄関で倒れるのならどっちもどっちだ。秋は頼れるお兄ちゃんだけど同じアホを志すものなのでこういう時がたまにある。
最近買ったモバイル扇風機が玄関に置いたままだったので秋に向けてかけてあげると気持ち良さそうに笑う。
「水分しっかり取ってよね~」
「おー……まあアイスでだいぶ回復してきたわ」
「ここも涼しいけどリビング行けるならいこ。そっちの方が涼しいし……」
優がリビングを振り返ると話の途中で止まってしまう。
おれは秋と目線が合い何事かと同時に首を傾げた。
「せっかくだし、入る?いっつも綺麗な水張ってあるのにまだ一度も遊んでない、あれ」
忘れていた、訳ではないけど機会を逃していた。冬からここにいるからすっかり後回しになっていたのだ。きらきら光を反射させながらそこはようこそとばかりに波打っている。
「天才か」
秋が速攻服を脱ぎ始めたのでおれは思わず吹き出した。
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