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ある日のお出かけ前
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しおりを挟む優は本当にセンスが良い。
自分の好みの服を買ってもたまに何を会わせたら良いのかわからなくなるときがある。いつも選んでもらってばかりでは無いのだが、最終的に優様のお力を借りることが多い。
ちなみに今がそれ。
これからいつもの3人で出掛けるのだが、着たいのがあるのに合わせられない。おれの好みをなんとなく把握している彼はおれのクローゼットを漁り出すと「これとこれ」とものの数秒でセレクトされた服を差し出す。
この時の優にはきゅんとしちゃうよおれ。
「優のイケメン!」と声を上げれば「早くしなよ」と無表情。このクールキャラなかなかぶれない。
そのあっという間の優コーデがハズれたことがなくて、服のいろんな表情が見れる。
「おお、さすが優」
着てみればもちろんイメージピッタリに仕上がる服。
「あと、それにショート丈のブーツ適当にはいてよ」
「んー、黒でいい?」
「うん」
そうして、今度は秋の服決めてやんなきゃ。
なんてちょっと面倒臭そうな顔をする優。それでもちゃんと選んでくれるし、選ぶの好きなのおれ知ってるよ。
肌寒さも一瞬、慣れた手付きでおれの家からお隣の秋の家に突撃。
着たいのが決まっているけど何と合わせようと迷うのがおれなら、秋は悩み過ぎて迷宮入りするタイプだ。
「……うわ」
秋の部屋に入れば足の置き場すらなくなったひどい風景。散らばる服、服、服、服。よく見れば靴下やらリュックやらが混ざってる。
これは、迷宮入りだ。
「いつもスパッと決めてんじゃん」
ため息をつきながら無惨に散らばる服を拾っていく。
そう、秋の性格ははっきりしていて目についた服から選んで行くからほぼ迷わない。ちょっと優がアドバイスしてアクセントを足せば完了なのに。
「真実がひとつとは限らねぇんだ」
どこかで聞いたことあるような、ないようなセリフを吐いて秋はベッドに倒れ込む、ああ、服つぶしてる。
秋は悩み始めると爆発するタイプだ。
「もうパジャマで出掛けてやる」
枕に顔を突っ伏したままもごもご情けない声を出す秋に心底呆れた顔の優が口を開く。
「そのガチのパジャマで?」
「じゃあ、……パンツ?」
その言葉を聞いておれは外の様子を思い出した。
ちらほらと降る雪と冷たい風。
「寒そうだねぇ」
「……問題はそこか?」
え、寒そうじゃん。
「……まぁ、取り敢えず、唯その服貸して」
「ん?はい」
「秋これ着て、潰してるコートと足元にあるジょガーパンツ履いて、黒のね」
「あいあいさー」
「着替えてる間に片付けよ」
「うん」
服とかは貸し合ったりしててだいたい何処に何を戻すかは覚えてるからそんなに困らない。優と一緒に片付ければあっという間だ。
「これで最後、と」
「着替え終わった!」
さすが優様コーデハズレがない。さあさあと椅子に座らせてワックスを手に取った。サッサッと流して束感を作って行く。
「ふむ、カッコいいよ!」
にんまり笑ってヘアスタイルも完璧。今日はツイストヘアにしてみました。秋はさっぱりが似合うよね。
今日は秋の両親も双子ちゃんもいないかった静な部屋を出れば突き刺さるような冷たい風。雪がちらつく今日はどことなくぼやけて見える。
地上へと繋がる階段の前でプルプルしながら歩く秋が思い出したように立ち止まる。
「……てか、今日どこ行くんだっけ?」
「ええー、誘った張本人だよね?」
秋ってたまにおおざっぱなところがあります。
この寒いなか用もなくふらつくのはちょっと地獄だ。
「あ、」
「え、」
おれの秋の一歩後ろにいた優が声をあげる。秋と同時に振り向けば真顔の優。
「買い物に決定」
「え、どしたのいきなり」
「組み合わせの限界」
「うそん」
両手を頬っぺたに当てて秋とショック!のポーズ。鼻で笑われました。
そう言えば最近新しい服買ってない。いくら優プロデューサーでも同じものじゃ限界くるよね。いや、それでもあの組み合わせの多彩さはやっぱりすごいけど。
今日は一応お出かけだから髪とかもセットしたのよみんな。
「おし、じゃあ行くか。優がいると着たいの好き勝手選べるし」
「あのねぇ、俺の身にもなって」
「でも、コーディネートすんの好きでしょ?」
秋の言葉に少し視線をずらして「……まあ、嫌いじゃないけど」と一言。
「ぷっ、優って実はツンデレの素質が」
「秋、唯抜きで行くか」
「そだね」
「ええ、ひどおい!」
やーだーって泣き真似すればはいはい行くよとエラベータに向かうボタンを押すと下にいたエレベーターが上がってくる。
誰か乗っているので端に避けたのに、あれ、動かない。
「……どこいくの、可愛い格好して」
「………え?」
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