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9.喜びは共有した方が楽しい

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あまりにも夜間飛行が楽しくて延長を申し出たらしっぽを大きく振ってOKをくれるスター。こいつドラゴンで優しい上に可愛いとか本当にキュン。


「ところで何で今まで話さなかったの」


風強い中で声量はいつもと変わらないボリュームで話すけどスターは聞き逃さない。ドラゴンは耳がいいのかも。


「……最初に僕を見た時びっくりしてたから」


そりゃ初見は誰だって驚くよな。でも驚いたってのは怖いわけじゃない。


「空想上の生物が目の前で飛んでるわ、あんぐり。の驚きだよそれは」

「怖くない?」

「うん」


今更何を。
じゃなきゃ撫でたりしないのに。
たまにしか近づいてこなかったり、近づく時も暴風を起こさなかったり、たまに来てもしつこくしなかったりしたのはそのせいなのだろうか。

夜でも鱗の白さはよくわかる。広い背中をペシペシと叩くとグルルと喉を鳴らした。

「本当にドラゴン?かわいい性格してるよなぁ」

「……ツバサは人間にしては適当だよね。さっきだってこんな寒い日にあそこで寝ようとしてるし、風邪ひいちゃうじゃないか」


褒めたのにまさかの不貞腐れたような注意のような口振り。ドラゴンにまでそんなことを言われるとは、オレってどんだけ頼りなく見えるんだろう。

「そういえばオレの名前知ってるのな」

「呼んでるのを聞いた……特にアイツが……」


アイツと聞いて思い浮かんだのはレイガしかいなかった。オレの周りで一番登場回数が多いからだ。

「レイガの事?」

まさかのここで無視。
だけど代わりに喉がまたグルルとなった。何だろう、この返事もしたくないほどレイガの話題に触れるなと言うこの感じ。そういえばレイガといる時は特にスターに見られていた気がした。

嫌ってる?
とは言ってもレイガはこいつのこと見えないし。でもこんなに可愛いやつをどうせなら紹介したいものだ。


「レイガもスターの事見えたら良いのに」


小さくつぶやいた。返事も期待してないし、そもそも見える事も期待してない。ドラゴンはオレにしか見えな……。


「……見えるよ」

「え?」


心底嫌そうな顔で、って言っても目が細められた程度だけど。何よりも不満そうな口調で、それでもオレが言うから答えているみたい。いや、どんだけ嫌いなのレイガの事。


「そもそも、アイツは僕の事見えてるから」

「なんだ見えてんの?じゃあ呼ぼう、今」

「え?」

「え?」


2人で聞き合って沈黙。
風の音だけが耳を騒がしくしている。オレは首をかしげた。


「だめ?」

「微塵も会いたくな……じゃなくて!」

いきなりぐいっと振り向くから身体ごとこてんと倒れたオレにスターがあ、ごめんと焦ったように謝る。相変わらず優しいなこいつ。
てか微塵も会いたくないって言ってなかったか今。そりゃまたレイガのやつ豪快な嫌われっぷりで。

そうじゃなくてとまた驚くドラゴン。

「見えてるって信じるの?!」

「え、見えてないの?」

「み、見えてるけど……」

「じゃあ、やっぱり呼ぼう」

「あ、会いたくない……」


また沈黙。
何だこの会話。まとめよう。


「まずスターの言う事は信じる。そんで、オレはオマエのことをレイガに紹介したい。だってオマエ可愛いし、良いやつだし、今も最高の気分で背中の上は気持ちいーからそれ自慢したい。でもスターはレイガに会いたくないと……じゃあ、やめよう」

「え、本当にいいの?!」


だからさっきから何で全部疑うんだスターよ。
こくんと頷くと信じられないと言う目で見てきた。大丈夫か?スターを初めて見たオレより驚いてるけど。


「……てっきり、レイガの方を信じるかと」

「んー?でもオレも見える事隠してたし、見えるって言われたらそうなのかーって感じ」

「……君って本当」


本当、何?と聞こうと思ったら突然高度が落ちてきた。風が強くなって首に掴まっていると、どうやらビルに向かっているらしい。この辺でも特に高そうなビルの屋上は四隅のライトだけが光っていた。

スピードを緩やかに落としてビルの屋上に降り立った。羽をぶわりと広げてから畳む姿は何度見ても見惚れちゃう。

屋上には何もなくて人の出入りも少なそうだ。少しくらい居ても平気だろう。オレはドラゴンの足元までいき、スターを見上げる。目が確かに星みたいに輝いていて名は体を表すとはまさしくこれだろう。

「こんなとこ来てどしたの」

「君が会いたいって言うから、僕はちっとも会いたくないけど叶えてあげるよ」

ちっとも会いたくないのに叶えてくれるの。
ドラゴンってこんなに人間らしい感情持ってるんだなぁ。可愛さと優しさで嬉しくなって思わず笑ってしまう。

「ありがと」

「……どういたしまして」

とは言ってもレイガとここが全く結びつかない。アイツの家がここから見えるかもしれないくらいだ。

「あ、電話する?」

「でんわ?ああ、耳に当てて遠くの人間と話すやつか。ううん、使わない」

「電話は知らないのな」

使わないものは頭に入らないなんてまた人間らしい答えをくれるスター。でもじゃあどうやって呼ぶんだろう。スターとばっちり目があった。


「ツバサ、僕の羽の中に入って。それで耳を塞いで、しっかりね」

「え、あ、はい」

大きな羽はすっぽりどころかひと部屋分の余裕はある。それでも羽の下に入ってしまうと覆われてる感。ちょっとあったかい。

「入ったよ」

「ちゃんとね。耳塞げてない、それじゃあ隙間がある」


羽と身体の間に挟まるオレを心配そうに覗くスター。本当に甲斐甲斐しいドラゴンだ。
そんなことをぼんやり考えているうちにスターのお腹が膨れ上がった。息をあり得ないほど吸い込んで限界まで行くと今まで聞いたことのない鳴き声が夜空に響いた。
耳を手で覆ってても全部何もかも聞こえるくらいの鳴き声はまさしくドラゴンの太くて低くてカッコいい声。普通に話してる時は可愛さすら感じる高めの声なのにこのギャップよ。


一回だけだったその声はすごく長く感じた。きっとこんなにすごいのに他の人には聞こえないのだろう。オレ特等席で聞いてしまった。ちょっと嬉しい。

「すごー……」


ちんけな感想しか出ないけど、感動してるので許して欲しい。羽が持ち上がって少し隙間が開くとスターが覗き込んでいるので鼻のあたりにダイブした。


「今日マジでさいこう……」

「良かった」


スターまで嬉しそうにクスリと笑っている。表情はそんなに変わらないけど声がそんな感じだ。すると突然青い目が輝き始めた。宝石よりも眩しい光、その視線の先をオレも振り返る。

屋上の縁に誰か立っている。
そんなところ危ないのに、片足に重心を乗せて平然と。



「随分、仲良くなったんだな」



その声を知っていた。
スターと同じ青い目を持つ、オレの幼馴染だ。










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