オレの魂はいずれドラゴンかアイツに食われるらしいが死んだ後のことに興味はない。

仔犬

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8.頭に乗るだけで良いなら乗ります

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ランニングか散歩か曖昧だが夜に外に出るのはたまに発生する運動だ。週に3回、多くて5回。
適度に、疲れない程度に、少し体があったまる程度に。なんでも性格は出るもので、レイガはあれでガッツリ鍛える派だから一緒に行った日はだいたい筋肉痛だ。
アイツは誘えとうるさいがこう言うのは突然したくなるのだ。今日も唐突に思い立ち、シャカシャカジャージに着替えて出発。


「さむ」


息が白い。
ポッケに腕を突っ込んで少し早めの歩きから。5分くらいで細い川の上にある橋を渡って車の通りが少ない静かな路地に出る。

月が綺麗な夜は明るくて少ない街頭でも問題はない。その光が一瞬遮られた気がして見上げた空にはやっぱり白いドラゴンがいた。

「おお、今日もGPSバッチリだな」

ついてないと思うけど、それくらい正確にオレの前に現れるドラゴン。

今日もかっこかわいい。何となく目があった気がして、勝てる気もしないが走り出した。追いかけっこどころかペットの散歩気分で。

川沿いに走っていくと障害物が無いから速度を上げられる。それでも飛んでるアイツには歩くくらいの速度かもしれないけど、オレはなんだか疾走感があって楽しくなってきた。

寒さももうなくて、気分も良い。音楽も無いのにドラゴンの翼の音がリズムのように聞こえてくる。

呼吸も乱れてくるとランナーズハイがやってきた。こんなに走ったのは久しぶりかも。適度にとは言いつつもこうやって外に出るからにはなんだかんだ運動は嫌いじゃ無いのだ。

しばらく走ってもう限界が近い。
思いついた公園をゴールに設定して最後の力を振り絞った。ついに公園に入ると広いそこは大きな滑り台がひとつだけ、意味もなくてっぺんまで登りついに力尽きた。


「きもち~~」


仰向けに倒れ、乱れる呼吸を整える。夜空にはドラゴンが旋回していた。しっぽがいつもより大きく揺れていてなんだかあいつも楽しそう。同じ気持ちなら嬉しい、このペットと意思疎通できてる感堪らない。

しばらくするとドラゴンはゆっくりと降りてきた。風が巻き起こるが体が熱いから気持ちがいい。ドシンドシンと音を立ててオレを覗き込むドラゴンの瞳がギラギラと光っていた。


「たのしかった?」


グルルと喉を鳴らした。
しばらくはドラゴンを撫でたり、ごろごろしたりして体力回復を待って、20分くらい経っただろうか。


「……全然帰る気力起きない」


久しぶりの全力疾走に身体が元に戻らない。
とはいっても急ぐような性格でも無いので、ドラゴンの鼻をぺんぺんと叩いた。

「お前先帰ってていいぞ。どこが家か知らないけど」

「……」

当然返事はない。しかもオレを見つめたまま動きもしない。オレはと言えば眠気すら来ていた。


「ちょっと寝てから帰る……」

公園の滑り台で眠る成人男子。ちょっと笑える。
レイガに言ったら耳が痛くなるほど怒られそう。まあ、いっか。まだ暑いし気持ちが良いから風邪もひかないだろう。

目を閉じた。すると脇腹にグッと押される衝撃。
仕方なく体を起こすとドラゴンがグイグイとオレを押していた。

「何、まさか寝るなって?」

コイツマジで優しくないか。ペットに選ぶなら犬とドラゴンが同等レベルで一位になってきた。

だけどいつもは優しい力が突然強くなる。このままでは滑り台から落ちそうだけど、そんなに高くないから良いかと飛び降りようとしたらドラゴンの頭が足元に来た。

まさか、それこそまさか乗れと言っているのか。返事はないと思いつつ聞いてみる。

「乗せてくれんの……?」


グルル。
多分OKって意味だと思う。知らないけど。

頭はそのままだし、とりあえず片足を乗せてみた。振り落とされたらそれはそれでコイツのこと学べるし。

それでもドラゴンは大人しく体勢をそのままにしてくれた。そしてついに全体重で乗るとゆっくりと頭が持ち上がった。頭と首らへんに乗っていたけど顔を上げたせいでずり落ちるが背中らへんで安定する。


そして滑り台から少し離れたドラゴンは羽を広げた。これはつまり……と考える頃には羽ばたき始めものすごい速さで飛び立った。風で目が開けられなくなり、必死に鱗に掴まり数秒。

すぐに安定したドラゴンの身体の上で目を開ける。
どんなタワーよりも綺麗に見えそうな夜景が広がっていた。

「すごー……」


背中は広いし首の付け根あたりにいれば風もそこまで当たらないし落ち着けるほど。癖になりそうなほど良い体験。しかも心優しいドラゴンに思わず話しかける。


「お前の名前、なんていうの?」


何気ない独り言だった。
ドラゴンがいる事すらあり得ないのに背中に乗って話しかけちゃったりして。可笑しくて堪らない。疲れでハイになって笑いが込み上げてきた。背中にごろんと大の字になると綺麗な星が見えた。なんかもう最高の夜かも。


しあわせな気分で目を閉じて風を感じていると声が聞こえた。


「スターだよ」


少し高めの声。風の音が強くても良く通る綺麗な声。やっぱり若い。


「僕の名前、スターだよ」


ドラゴンが首だけ振り返る。
何故か恐る恐る、そんな感じで。コイツ案外表情がある。


「話したら、君が怖がると思って……」

ゆっくり起きあがったオレにさらに居心地悪そうに視線が泳ぐドラゴン。やっぱり可愛いな。ふっと笑ったオレが口を開くと青い瞳にジッと見つめられる。


「何だ、喋れんなら最初から言えって」

「え?」


ただでさえ大きい目がさらに大きく開く。

オレも驚きだ。
ドラゴンに驚かれる日が来るとは。
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