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5.ドラゴンと戯れる月の出る夜は寒い
しおりを挟む「結構、白熱だな……」
子供が見るには難しいのでは無いかと思うほど作り込まれた映画。そのせいで意外にも酔いはすっかり覚めてしまった。となりで座るレイガもかなり集中しているし、こいつファンタジー好きだったのかな。
「口あいてる」
また口が開いてたからそこにお菓子を突っ込むとモゴモゴと食べるレイガ。
相変わらず綺麗な部屋はインテリアのランプが一つ増えていた。そのランプだけをつけてテレビを見ていると画面も大きいので映画館気分だ。心地の良いソファだし、下手に映画館に行くよりも快適。
「ツバサこういうの好きだったか?」
「んー、まあ、こういう系統昔好きだったからまた見たくなって」
実際はドラゴンを見たからとは言えない。
好きだったのは本当だし、嘘では無いからいいだろう。
「ふーん」
聞いてきた割にこちらに興味はなさそうだ。真剣な眼差しの向こうで映画は佳境に入っていた。ドラゴンの上に乗った主人公が黄金の剣を天に向けて突き刺している。
ドラゴン同士の戦い。それを導く剣士の主人公。ありがちな設定だけど、敵にも味方にもそれにドラゴン側の背景もしっかりあるので感情移入が強くなってしまう。
どちらも負けて欲しく無いと思えるものは貴重だ。ドラゴンに関係なかったとしてもいい映画。やはり主人公が結果として勝つわけだが、味方側に救いの手があってハッピーエンド。簡単にまとめたらそんなものだけど、ジーンと胸が熱くなるいい作品だ。
エンドロールが流れ始めるとようやく力を抜いたように背伸びをしたレイガがおれの足の上に倒れ込む。
「重……お前は好きなのこういうの?」
「んーー、おれ映画は基本何でも好きよ。映画見放題とか登録してるし」
たしかにレイガは映画に詳しかった。よく映画に連れて行かれるし、こうやって家でも開催される。金髪で遊んでそうなのに見た目と私生活はあまり比例しない。そう言えば金の髪はいつからだったか覚えてない。
「まあでもそうねー、ドラゴンは特に興味があるかも」
「え?」
なんでと聞き返したかったのに、膝の上ですやすやと寝ている。お休み三秒でも無いのでこれはもはや気絶だ。ベッドは廊下を挟んで別の部屋で、オレよりコイツ少し背が高いから絶対重いし持ち上げるとかそんな男前な意気込みはない。風呂借りておれも寝よう。ベッドで。
その前にベランダに出るといい月が見えた。このマンション階数あるから月が見やすいのだ。肌寒いけど身を乗り出して見渡すとすぐその姿を発見した。豆粒くらいの形が徐々にこちらに向かってきた。
圧倒されるほどでかいのに羽が作る風圧はそこまでではない。しかも煩くないんだよな。もしかして音立てないように気をつけてんのかなとか考えると可愛いくてたまらない。犬もいいけど、撫でると目を閉じるしドラゴンも最高。
「すっかりお前にメロメロだわ」
こんなに真っ暗でもよくわかる白い皮膚。全体的に硬いのに鼻の辺りだけ少し柔らかいからいつも手を伸ばしてしまう。そう言えばこいつの事驚いたりはしたけど、怖いなんて思わなかった。案外数日でこうして触れ合えていたから自分の適応能力は計り知れない。
触った鱗が冷たい。こんな冷たい夜風の中こいつは寝ているんだろうかと思うと少し心配だ。オレも短い時間なのに流石に寒くなってきた。スエットだけだと身体は一瞬で冷えてブルリと揺れる。
するとゆっくり瞬きをしたドラゴンが器用に鼻を使ってオレを窓の方に追いやった。まるで中に入れとでも言うように。
「え、優しすぎないか?」
そんな事を言う間もぐいぐいと押される。こんな巨体なのに力加減が優しいとかどんな体の構造なんだ。
「分かった、入るから。お前もちゃんと寝ろよ」
夜行性かもしれないけど。
ベランダ用のつっかけを脱いでリビングに身体を入れると、ドラゴンの青い瞳がちかりと輝いた。瞬間羽を大きく広げて飛び立っていく。月の光に照らされて余計に夢見たいな光景だ。
「可愛いんだか、綺麗なんだか」
少し強めの風が入ったせいでソファでレイガが身動いだ。ブランケットをかけてやり、そのまま浴室へ。
シャワーを浴びて、軽く部屋の片付けもしたけどまだソファで夢の中のレイガ。これが最後の声掛け、反応なければソファでこのまま寝かす。
「レイガ、起きろ」
返事はない。
「……ご愁傷様」
「いや死んでねぇから」
ノリのいいツッコミ。
なんだ起きてんじゃんと思ったら寝言だった。
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