オレの魂はいずれドラゴンかアイツに食われるらしいが死んだ後のことに興味はない。

仔犬

文字の大きさ
上 下
3 / 13

3.とりあえずぜんぶ受け入れると穏やかに日々が過ごせる

しおりを挟む


小さい頃はファンタジーにハマるような夢見がちな少年だった。魔法があると信じて疑わなかったし、その時は使えなくても大人になれば使えるようになると思っていた。それでも知らぬ間に現実が体に染み込んで、そんな事はいちいち思わなくなる。

それでも、信じてない訳じゃない。
ファンタジー好きは未知を認めるものであり、その根底だけは今でも受け継いでいる。だからオレは何でもかんでも受け入れる性格に育っていた。
例えば今朝。

「ツバサ、知ってる?すぐ近くの空き家あるでしょう?近所に住むミキちゃん。そこで肝だしして幽霊が出たって怖がってたらしいの。通学で通るし、夜にでも見てきたら?怖いもの見えちゃったりして」

父さんがその言葉にびくりと反応し新聞を読む手を震わせた。にやにやと笑う母さんとしてはオレを脅かしているつもりだろうけど、被害があらぬ方向へ。オレはと言えばそんな未知の噂というものに対して一定の反応を返す。

「見たなら、居るんだろうな」

肯定だ。
何事も否定しない。嘘かどうかなんて調べなくても取り敢えず肯定する。特に確かめようが無いものに対しては肯定的だ。

母さんはつまらない、とため息を吐いた。


「あーあ、ツバサは脅かしてもつまんない。お父さんはビクビクして可愛いのに」

「父さんいじめんのやめなよ母さん」

「うるさいぞ……」

父さん、ガタイ良いのに怖いもの苦手なんだよな。逆に母さんは好奇心旺盛というか、悪戯好きだ。真逆だから相性が良いのだろう。


「って、ツバサ聞いてんのかー!」

「え?追加でしょ。頼めば?」

「一応聞いてんだな……」

オレが今朝の思い出を頭に流していると目の前でビールを持ったレイガがむくれていた。いつになっても素直というか子供っぽいところは変わらない。メニューを差し出すと表情は一転してうまそうと目を輝かせる。可愛げが9割で出来ているような男だ。

「まだ食える?」

「うん、なんでも。あ、卵食いたい」

「おっけー。お姉さーん」

レイガが手をあげると愛想の良い店員さんがこちらに向かってくる。高校生だろうか。この居酒屋始めてきたけど駅近で料理も美味しい。当たりだ。

「また、良いとこ見つけたな」

「だろー鼻がいいからな」

本当に空気を吸うようにして見せるレイガ。
ちょっと口あいてたから枝豆を投げると見事ぱくりとキャッチ。金髪がふわふわしてて身体大きいしなんだか大型犬っぽい。

「お前が犬っぽいから、こんなに長くつるんでんのかなぁ」

「なんだそれ、おれの見た目しか興味なしってか。お前の目にはおれゴールデンレトリーバーとかに見えてんの?」

適当なギャグのつもりだったけど青い目がキッと光る。とは言ってもフリだ。実際はこんな適当な会話も出来るから長い付き合いになる訳だ。

あと、基本的になんだかんだ面倒見がいいコイツは子供っぽい割に世話焼きだ。大学が被った時にぼーっとしたやつ1人にしないで済んで安心したわーとケラケラ笑いながら言われた事をぼんやりと覚えている。

「あーレトリーバー可愛いよなぁ」

「犬欠乏してるからそんな毎日ボーッとしてんの?ツバサくんは可哀想でちゅねー、おれの頭撫でてもいいよ」

「いや、撫でられたいのお前だろ。あとぼーっとしてんのはいつもの事」

「自分で言うのかよ、しかも撫でんのかよ」

ブリーチしててもさらさらだなコイツの髪。心地の良いものを撫でるとドラゴンのお腹も撫でたくなる。

本当に寝心地が良くて読書がひと段落するといつのまにか眠ってるんだよな。
あれは人をダメにするタイプの腹だ。

「本当に犬ならお前はおれを飼う?」

酔ってるのだろうか。変な事を聞いてくるレイガがサワーの泡を眺めながら綺麗な顔を真顔にして言う。

こんな変な事真面目に答える奴は少ないけど、あいにくオレはもしも話が好きだった。しかも犬。
こいつが犬なら?そりゃもう。

「飼うけど」

「マジで……?」

「だって犬の上にお世話してくれそう。最高」

「犬のおれまでこき使う気か!」


こき使った覚えはないけど、世話したがりだから勝手にしてもらっていたと言えば確かにそう。でもレイガが犬なら健気そうだししっぽ振る姿も想像しやすい。


「可愛いから、飼うよ」

「……それがドラゴンでも同じこと言えよな」

「え?」


聞き返してもレイガはサワーを一気に飲み干してお姉さんおかわり!と元気のいい注文。それを聞いたらもうわざわざ聞くのもな、となってそのまま流れてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

愛人をつくればと夫に言われたので。

まめまめ
恋愛
 "氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。  初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。  仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。  傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。 「君も愛人をつくればいい。」  …ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!  あなたのことなんてちっとも愛しておりません!  横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。 ※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…

どうやら貴方の隣は私の場所でなくなってしまったようなので、夜逃げします

皇 翼
恋愛
侯爵令嬢という何でも買ってもらえてどんな教育でも施してもらえる恵まれた立場、王太子という立場に恥じない、童話の王子様のように顔の整った婚約者。そして自分自身は最高の教育を施され、侯爵令嬢としてどこに出されても恥ずかしくない教養を身につけていて、顔が綺麗な両親に似たのだろう容姿は綺麗な方だと思う。 完璧……そう、完璧だと思っていた。自身の婚約者が、中庭で公爵令嬢とキスをしているのを見てしまうまでは――。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

処理中です...