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死生契闊
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「今日はナポリタンな」
なんだか今日はソファに座りたくて、みんなの分をソファ前にあるローテーブルへと運んでいく。来夏は相変わらず料理は何も出来ないけどサラダの準備だけは一丁前になってきた。それに盛り付けはさすがデザイナーと言ったところか完璧だ。
「知秋~、ご飯できたけど食えるか?」
結局知秋はすぐに自室に篭ったのでやっぱり外せない用事があったのだろう。知秋の部屋のドアを開けると生返事が来てノートPC片手にこちらに向かってくる。
「そんな無理に来なくても」
「食べながらやる」
消化は悪そうだけど食べないよりは良いか。
またリビングに戻ると来夏がグラスに紅茶を注いでいた。
「お!飲み物サンキュー」
俺がお礼を言うだけで来夏の綺麗な顔がへにゃりと嬉しそうに笑顔に変わる。やっぱり来夏はこれが一番可愛いんだよなぁ。
ソファに座ると俺をサンドして2人も座り、手を合わせてようやく頂きますだ。
「今日もなかなかの出来栄え~」
「うん、美味しい」
「美味い、英羅が料理できんのはマジで謎だな」
知秋が感心するように言ったが俺もそれには驚きだ。実際の俺はしていなかったのだから今の俺が料理出来るのは何故なのだろう。自分の事ながらなんと作り込まれた人格ではないか。タバコを今でも吸いたいと思っているしメイラが作った人格と知った今でも自分の記憶が作りものなんて思えないほど鮮明だ。そんなこと、並大抵の努力で可能かと言われたら催眠術を学ぶより困難じゃないか。
それをメイラは一人でずっと考えていたのか。
ぼんやりしていたせいか来夏が心配しそうに覗き込んできた。
「英羅、本当にもう体調大丈夫……?」
「え、ああ。へーき。頭痛くてさぁ……ちょっとメイラの事について思い出して」
そういうと二人が一瞬反応した。まあ、今までと違って倒れたわけだから二人からしたら気になるのかもしれない。
「初早紀と話したからかな……記憶が引っ張られたのかも」
すると来夏の視線がキッときつくなり俺を通り越して知秋をにらみつける。
「……何でいつもお前はあいつをひょいひょい連れ込むんだよ」
「ワザとに見えんのか?あ?」
「あーハイハイ、言い争いやめ。俺は初早紀に会えてうれしかったよ。なんかこう、プチ同窓会みたいで」
俺が作られてできたことはショックだった、でもこれは本心だ。
あいつに会えてうれしかったし相変わらず優しくていいやつだし。初早紀にしてみればメイラが本当の俺、なのかもしれない。いやでも昔のままというのならば今の俺の方が本来なのか……そもそも本来の俺って、何なんだ。
「……英羅、お前それ食ったら寝ろ。まだ本調子に見えねえ」
「え、あーぼうっとするだけ。半日寝込んでたら仕方ないだろ。でも食欲はある!」
ナポリタンをフォークに目一杯巻き付けて口に放り込んでいく。来夏にも心配そうに見つめられるが休んだところで悶々と考え込んでしまいそうだ。食欲がある、なら大丈夫だ。
そう言えばここにきてから毎日ご飯をこうして食っていたおかげで体重が標準に戻っていた。メイラの奴どんだけ食ってなかったんだ、あれだけ美味しそうな料理が毎日用意してあったというのにメンヘラは闇が深い。
それに初早紀の手紙で気になることが何点かある。
メイラの死にたいという気持ちは今の俺の根本と同じ理由だろう。母さんが死に、父さんまでいなくったせいだ。こればかりは確実にあっているだろうが死ねない理由まで俺と同じなのだろうか。確かに俺だって早くお迎えが来てほしいと何度も思ったことがある。だって父さんと母さんに会いたいから。だけど自分で終わらそうなんて考えにならなかったのは、もし天国に行ってたとしても二人が喜んでくれるなんて思えなかった。きっと怒られるし、悲しませる。父さんも母さんもそれを望まないって分かるからという形のない理由だった。
多分とか予想でしかないのは直接聞くことができないし、そうであって欲しいという期待だけでも生きてこれたからだ。これすらもメイラが作った俺という人格なのだろうか。それに来夏と知秋と会ったいまは両親に会いたい気持ちは変わらないが死にたいなんて思う暇もない。
でもメイラは初早紀に死にたいけど死ねないって言い切っていた。来夏と知秋と一緒に居るのに何でメイラは俺という人格を作るほどの事になってしまったんだろうか。死ねない理由がもっと大きなことだったのだろうか。
来夏と知秋から聞くメイラの様子は確かにその節があったからメイラのまるで死のうとしたことがある言い方に驚きはない。
そして俺が今ここにいるってことは死ねなかったということだ。
でもそれは知秋と来夏が止めるから?止めたとして、あのメイラが止まるのか。
俺の何気ない行動ですらあんな血相を変えてしまう知秋と来夏が本当にメイラを止められたのか。
またフォークが止まった俺を知秋が睨みつける。
「英羅、体調悪いならごまかすな」
「英羅大丈夫……?」
そんなに動揺してしまうのは、止められなかった経験があるんじゃないか。
「……なあもう一回聞くけど、何で俺入院してたんだ?」
なんだか今日はソファに座りたくて、みんなの分をソファ前にあるローテーブルへと運んでいく。来夏は相変わらず料理は何も出来ないけどサラダの準備だけは一丁前になってきた。それに盛り付けはさすがデザイナーと言ったところか完璧だ。
「知秋~、ご飯できたけど食えるか?」
結局知秋はすぐに自室に篭ったのでやっぱり外せない用事があったのだろう。知秋の部屋のドアを開けると生返事が来てノートPC片手にこちらに向かってくる。
「そんな無理に来なくても」
「食べながらやる」
消化は悪そうだけど食べないよりは良いか。
またリビングに戻ると来夏がグラスに紅茶を注いでいた。
「お!飲み物サンキュー」
俺がお礼を言うだけで来夏の綺麗な顔がへにゃりと嬉しそうに笑顔に変わる。やっぱり来夏はこれが一番可愛いんだよなぁ。
ソファに座ると俺をサンドして2人も座り、手を合わせてようやく頂きますだ。
「今日もなかなかの出来栄え~」
「うん、美味しい」
「美味い、英羅が料理できんのはマジで謎だな」
知秋が感心するように言ったが俺もそれには驚きだ。実際の俺はしていなかったのだから今の俺が料理出来るのは何故なのだろう。自分の事ながらなんと作り込まれた人格ではないか。タバコを今でも吸いたいと思っているしメイラが作った人格と知った今でも自分の記憶が作りものなんて思えないほど鮮明だ。そんなこと、並大抵の努力で可能かと言われたら催眠術を学ぶより困難じゃないか。
それをメイラは一人でずっと考えていたのか。
ぼんやりしていたせいか来夏が心配しそうに覗き込んできた。
「英羅、本当にもう体調大丈夫……?」
「え、ああ。へーき。頭痛くてさぁ……ちょっとメイラの事について思い出して」
そういうと二人が一瞬反応した。まあ、今までと違って倒れたわけだから二人からしたら気になるのかもしれない。
「初早紀と話したからかな……記憶が引っ張られたのかも」
すると来夏の視線がキッときつくなり俺を通り越して知秋をにらみつける。
「……何でいつもお前はあいつをひょいひょい連れ込むんだよ」
「ワザとに見えんのか?あ?」
「あーハイハイ、言い争いやめ。俺は初早紀に会えてうれしかったよ。なんかこう、プチ同窓会みたいで」
俺が作られてできたことはショックだった、でもこれは本心だ。
あいつに会えてうれしかったし相変わらず優しくていいやつだし。初早紀にしてみればメイラが本当の俺、なのかもしれない。いやでも昔のままというのならば今の俺の方が本来なのか……そもそも本来の俺って、何なんだ。
「……英羅、お前それ食ったら寝ろ。まだ本調子に見えねえ」
「え、あーぼうっとするだけ。半日寝込んでたら仕方ないだろ。でも食欲はある!」
ナポリタンをフォークに目一杯巻き付けて口に放り込んでいく。来夏にも心配そうに見つめられるが休んだところで悶々と考え込んでしまいそうだ。食欲がある、なら大丈夫だ。
そう言えばここにきてから毎日ご飯をこうして食っていたおかげで体重が標準に戻っていた。メイラの奴どんだけ食ってなかったんだ、あれだけ美味しそうな料理が毎日用意してあったというのにメンヘラは闇が深い。
それに初早紀の手紙で気になることが何点かある。
メイラの死にたいという気持ちは今の俺の根本と同じ理由だろう。母さんが死に、父さんまでいなくったせいだ。こればかりは確実にあっているだろうが死ねない理由まで俺と同じなのだろうか。確かに俺だって早くお迎えが来てほしいと何度も思ったことがある。だって父さんと母さんに会いたいから。だけど自分で終わらそうなんて考えにならなかったのは、もし天国に行ってたとしても二人が喜んでくれるなんて思えなかった。きっと怒られるし、悲しませる。父さんも母さんもそれを望まないって分かるからという形のない理由だった。
多分とか予想でしかないのは直接聞くことができないし、そうであって欲しいという期待だけでも生きてこれたからだ。これすらもメイラが作った俺という人格なのだろうか。それに来夏と知秋と会ったいまは両親に会いたい気持ちは変わらないが死にたいなんて思う暇もない。
でもメイラは初早紀に死にたいけど死ねないって言い切っていた。来夏と知秋と一緒に居るのに何でメイラは俺という人格を作るほどの事になってしまったんだろうか。死ねない理由がもっと大きなことだったのだろうか。
来夏と知秋から聞くメイラの様子は確かにその節があったからメイラのまるで死のうとしたことがある言い方に驚きはない。
そして俺が今ここにいるってことは死ねなかったということだ。
でもそれは知秋と来夏が止めるから?止めたとして、あのメイラが止まるのか。
俺の何気ない行動ですらあんな血相を変えてしまう知秋と来夏が本当にメイラを止められたのか。
またフォークが止まった俺を知秋が睨みつける。
「英羅、体調悪いならごまかすな」
「英羅大丈夫……?」
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