57 / 75
死生契闊
1
しおりを挟む「なんで初早希に会わせたんだよ」
「会わせるつもりなんて無かったって言ってんだろ」
抑えるように話す声が聞こえてぼんやりと目を開けた。ああいつもの部屋だ。真っ白な部屋。
「……また喧嘩してんのか」
「英羅!」
パッと振り向いた来夏がホッとしたような顔をして覗き込んできた。出て行った時のような冷たい来夏では無かった。
綺麗な髪がもう少しで顔につきそうだ。
「体調はどう?医者には見せたから、しばらくは安静にしていようって」
「来夏」
俺が呼ぶとすぐに来夏は口を閉じた。
「嫌な思いさせてごめん」
本当はもっとたくさん言いたい事あるんだけどまだ上手くまとまらなくて、だからとりあえず来夏には謝りたかった。
来夏はすぐに眉を下げ視線を彷徨わせ、そして小さくごめんと呟く。
「なんで来夏まで謝るの」
「英羅が知秋にお願いするのも、タバコも僕が勝手に怒ってる事だから……」
「うん、でも、来夏にもちゃんと聞いたらあそこまで怒らせちゃったりしなかったかなって」
綺麗な髪を撫でると柔らかくてなんだか安心する。メイラはこんなふうに撫でてあげた事あったのかな。しばらく撫でているとジッとこの光景を見ていた知秋がポツリと呟いた。
「また嫌な事でも思い出したのか」
またと言うからにはメイラが今回みたいに倒れたことがあるのだろう。
たしかにショックな事実だったけど、よく考えてみればあんなに頭が痛くなるなんて可笑しい。この身体はメイラのものだから初早希からの手紙を見て何か拒否反応を起こしたのかもしれない。
まあそれでもショックはショックだ。今だって心がじわりと痛い。
だけどこの事実を2人に話すべきなのか、そもそも何をしたらいいのかも分からない。知秋の言葉は頭を横に振って適当に流す。
「いや……俺どれくらい寝てた?」
「半日くらい……今は次の日の昼だ」
「結構寝込んだな……2人はご飯食った?」
俺が聞くとそんな事忘れてたみたいな顔の2人。着替えてるけどそれ意外はもしかしてずっとここに居たのだろうか。
「ダメじゃん、飯は健康の基本だぞ。うしっ、なんか作るかあ」
「ま、まだ寝てた方が……」
「いやでも今は普通に元気よ」
来夏が心配そうに腕を掴んできたけどずっとベッドに居た方が体に悪い気がする。頭が重いくらいでそこまでじゃないし。
「てか2人は今日仕事は?」
「今日は英羅といる日」
「……後でやる」
来夏は即答し、知秋は視線を横にずらした。
お、お前らそれで大丈夫なのか。てか知秋今日出かける日だったけど後でやるってくらいだし急ぎだったのでは……。
「ん、んー、俺のせいだしなんも言わんけど。心配な事あるなら先済ませてこいよ知秋。俺飯作ってる間とかでもさ」
来夏に至っては元々家にいる日だし、一点の曇りも無い眼差しなのでもはや心配しないぞ俺は。相変わらず謎の多い仕事だ。
「……でもそうか、この時間から2人居るのなんか久しぶりかも」
ちょうど良い。ご飯食べながら2人と話してぼんやりと考えよう。
自分が何をしたいのか、何が出来るのか。
10
お気に入りに追加
370
あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。


傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる