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光芒一線
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がちゃんとドアが閉まりすぐに鍵がかけられる。一刻も早く渡された紙を確認したいけど、俺が1人になれる時はこの家で風呂とトイレの時間だけだ。
「……知秋、取り敢えず離せって……知秋?」
抱きしめたまま何も言わない。抱きしめる力だけがどんどん強くなっていく。
「どうしたの知秋……うわ!」
突然持ち上げられそのままあの白い部屋に向かう。訳わからないままベッドの上に置かれてまた抱きしめられた。
「何、本当にどうし」
「お前がまた……」
「また……?」
震えてる。
大きな身体が俺を抱きしめて小さくなって、子供みたいに震えてる。
「怖いことでもあったか」
唸るような声が聞こえてきた。
「……ここから出す以外なら、何でもしてやるさ……あいつにも会わせてやるよ。心臓が爆発するくらい嫌だけどなぁ……でもなぁ、やめろよ、あんな風に身体を傷つけるのはやめてくれ……」
なんの話をしてるのかと思ったら、俺がドアにぶつかった時のことを言っているようだった。たしかに大きな音がするくらいであんなに血相変えて走ってくるなんて知秋には珍しい事だ。さっきまで普通にしていたのになんでいきなり、いや初早希いたから堪えてたのか。
「……なあ、あの言葉……嘘じゃねえよ。お前がこの家から出て行くなら、自分から消えようとするなら……俺も死んでやる」
呪いのように呟く知秋の声は怒りを含んでいた。でもそれも、恐怖からくるまるで威嚇みたいな。
待て、あの時知秋はなんて言った?
駆け込んでこの部屋に入ってきた時。
頭を、打ったのかと一番に聞いて来た。まるで見たことでもあるように。
「……なあ知秋。俺、自分で頭を打つようなこと、やってたのか……」
問いかけに反応はない。この家ほど質問に沈黙が発生する家は他にないと思う。でも俺はそれでも意思が読み取れる。
この沈黙は肯定だ。
「そっか……やっぱり俺やばいやつじゃん」
ああ、なんか色々あって泣き出したい気分だ。俺の知らない俺は、どれだけ俺を困惑させるんだよ。
そりゃ来夏がベランダすら怖がる筈だ。
ベランダに出て俺が何をしでかすが分からないと。
ああ、はやく来夏にも謝らないと。ごめんな本当に、悲しませてばかりだ。
だけど、今落ち込むのは俺の番じゃなくても良いはずだ。
焦るな、俺なんて後でいい。まずは目の前の親友の方が大事じゃないか。いくら俺の理解を超える気持ちを知秋と来夏が持っていたとしても、大切な事に変わりはない。
ずっと俺を諦めなかった知秋を俺が嫌うはずないのだ。
「知秋、顔あげて。俺の目を見てよ。嘘なんてつかないから、この目を見てくれ」
ゆっくり、ゆっくりと背中を撫でる。
次第に上がる顔は相変わらずカッコいい。涙が流れてると余計にカッコいいなんてずるいじゃないか。だから泣いてくれるな。
「俺の目が黒いうちは自分で自分のを傷つけるようなことしないから。さっきのは男前すぎる俺の性格上アピールは盛大にって言うか、あーとにかく、あー」
なんかもうまとまらなくなって来た。知秋に泣かれたら俺まで泣きたくなる。弱い自分はダメだと思い続けて来た俺にその涙は勝てるわけがない。思わず抱きしめ返して知秋を押し倒した。
「泣くなよもーーーーー!!」
そしたらもう、俺の涙腺が決壊だ。
意味がわからん。意味がわからんと思ってるのに目から大量の水が出てくるし、もうなんか服に入れ込んだ紙も気になるし、初早希の事だってどうしたらいいかわかんないし。
「ガキみてえな、泣き方……」
「もーうるせえな!先に泣いたのそっちだろ!!」
最後はもう2人して泣きながら笑ってそしたらいつのまにか疲れて眠ってたいたらしい。
俺が目が覚ますとまだ時間的に来夏は帰ってきてないようだった。俺を抱きしめる知秋の寝顔を眺めながら俺は誓いを立てる。
このままじゃやっぱりダメだ。
2人は弱くてやはり可笑しいところがある。しかも俺のせいだ。俺がどんなに今の状態で2人をこうして慰めたって2人の10年間が簡単に変わるとは思えない。
だってそもそもメイラの言葉でなければ意味がない、こんな歪んだ気持ちにさせたのは歪んだメイラが原因なのだから。
ポケットに入った紙を握りしめそっとベッドから抜け出して風呂場に向かう。まだ来夏が帰ってくるまで時間があるし、風呂場は絶対に入ってくるなと言ってあるから読むとしたらここしかない。
この紙だけがメイラに繋がる手がかりだと信じて。
「……知秋、取り敢えず離せって……知秋?」
抱きしめたまま何も言わない。抱きしめる力だけがどんどん強くなっていく。
「どうしたの知秋……うわ!」
突然持ち上げられそのままあの白い部屋に向かう。訳わからないままベッドの上に置かれてまた抱きしめられた。
「何、本当にどうし」
「お前がまた……」
「また……?」
震えてる。
大きな身体が俺を抱きしめて小さくなって、子供みたいに震えてる。
「怖いことでもあったか」
唸るような声が聞こえてきた。
「……ここから出す以外なら、何でもしてやるさ……あいつにも会わせてやるよ。心臓が爆発するくらい嫌だけどなぁ……でもなぁ、やめろよ、あんな風に身体を傷つけるのはやめてくれ……」
なんの話をしてるのかと思ったら、俺がドアにぶつかった時のことを言っているようだった。たしかに大きな音がするくらいであんなに血相変えて走ってくるなんて知秋には珍しい事だ。さっきまで普通にしていたのになんでいきなり、いや初早希いたから堪えてたのか。
「……なあ、あの言葉……嘘じゃねえよ。お前がこの家から出て行くなら、自分から消えようとするなら……俺も死んでやる」
呪いのように呟く知秋の声は怒りを含んでいた。でもそれも、恐怖からくるまるで威嚇みたいな。
待て、あの時知秋はなんて言った?
駆け込んでこの部屋に入ってきた時。
頭を、打ったのかと一番に聞いて来た。まるで見たことでもあるように。
「……なあ知秋。俺、自分で頭を打つようなこと、やってたのか……」
問いかけに反応はない。この家ほど質問に沈黙が発生する家は他にないと思う。でも俺はそれでも意思が読み取れる。
この沈黙は肯定だ。
「そっか……やっぱり俺やばいやつじゃん」
ああ、なんか色々あって泣き出したい気分だ。俺の知らない俺は、どれだけ俺を困惑させるんだよ。
そりゃ来夏がベランダすら怖がる筈だ。
ベランダに出て俺が何をしでかすが分からないと。
ああ、はやく来夏にも謝らないと。ごめんな本当に、悲しませてばかりだ。
だけど、今落ち込むのは俺の番じゃなくても良いはずだ。
焦るな、俺なんて後でいい。まずは目の前の親友の方が大事じゃないか。いくら俺の理解を超える気持ちを知秋と来夏が持っていたとしても、大切な事に変わりはない。
ずっと俺を諦めなかった知秋を俺が嫌うはずないのだ。
「知秋、顔あげて。俺の目を見てよ。嘘なんてつかないから、この目を見てくれ」
ゆっくり、ゆっくりと背中を撫でる。
次第に上がる顔は相変わらずカッコいい。涙が流れてると余計にカッコいいなんてずるいじゃないか。だから泣いてくれるな。
「俺の目が黒いうちは自分で自分のを傷つけるようなことしないから。さっきのは男前すぎる俺の性格上アピールは盛大にって言うか、あーとにかく、あー」
なんかもうまとまらなくなって来た。知秋に泣かれたら俺まで泣きたくなる。弱い自分はダメだと思い続けて来た俺にその涙は勝てるわけがない。思わず抱きしめ返して知秋を押し倒した。
「泣くなよもーーーーー!!」
そしたらもう、俺の涙腺が決壊だ。
意味がわからん。意味がわからんと思ってるのに目から大量の水が出てくるし、もうなんか服に入れ込んだ紙も気になるし、初早希の事だってどうしたらいいかわかんないし。
「ガキみてえな、泣き方……」
「もーうるせえな!先に泣いたのそっちだろ!!」
最後はもう2人して泣きながら笑ってそしたらいつのまにか疲れて眠ってたいたらしい。
俺が目が覚ますとまだ時間的に来夏は帰ってきてないようだった。俺を抱きしめる知秋の寝顔を眺めながら俺は誓いを立てる。
このままじゃやっぱりダメだ。
2人は弱くてやはり可笑しいところがある。しかも俺のせいだ。俺がどんなに今の状態で2人をこうして慰めたって2人の10年間が簡単に変わるとは思えない。
だってそもそもメイラの言葉でなければ意味がない、こんな歪んだ気持ちにさせたのは歪んだメイラが原因なのだから。
ポケットに入った紙を握りしめそっとベッドから抜け出して風呂場に向かう。まだ来夏が帰ってくるまで時間があるし、風呂場は絶対に入ってくるなと言ってあるから読むとしたらここしかない。
この紙だけがメイラに繋がる手がかりだと信じて。
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