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光芒一線

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「知秋がそんな事聞くの珍しいね」


彼がソファに座っていたから俺はその足元に座る。そしたら当たり前のように持ち上げられて足の間に移動させられた。


「そうだなあ、戻りたいかって言われるとそうでも無い、が本音。どっちいても父さんも母さんもいない訳だし……2人にも会えて嬉しいからさ」

「……そうかよ」


見上げれば自分で聞いといてホッとしたような表情を知秋は一瞬見せた。戻りたいって言ってたらどうしてたんだろう、また彼は怒るのだろうか。メイラならなんて答えたんだろうか。

あまり深掘りするのはやめて違う質問を投げる。

「てかさ、俺ってこの10年間2人以外の誰にも会ってないの?」

俺の質問にまた知秋が固まった。
この反応はどうやらあるらしい、家から出ていなくても人と会うって事くらいあったりしなかったのかなあと何気ない質問だったが何かヒットしたようだ。


「……1人、いる」

「え!それちゃんと知り合い?医者とか以外だよな?」

「ああ……」


段々と眉間に皺が寄ってきた。ものすごく不満なことを思い浮かべているのか分かりやすく不機嫌モード。だけどもここは引くべきじゃ無い、知れる事は全部知っておかないと。しかも俺の知ってる人なら尚更だ。


「知り合いって今の俺でも知ってる?」

「おいその顔……会いたいとか言うなよ」

「あ、その顔は俺の知り合いな訳ね」

「……会わせないからな」

いやいや、ここまできてそれは無いだろ。当然俺の答えは決まっている。だけど彼がうんと頷かない限りそれが叶わないので交換条件は必須だ。

「知秋、この服はお前の服だ」

「ああ、似合ってるぜ。可愛い」

俺を褒める時は途端に色気とある甘い顔をする。
そんなセリフどこぞの可愛い子に言ってやればいいものをとか思いながら俺は知秋を覗き込む。がんばれ、この顔をフル活用しどうにかして首を縦に振らせるのだ。

抱きつかれてるのをいいことに知秋の首に両腕を回すと知秋の表情が途端に色気のある悪魔のような笑みに変わる。

こ、こええええ。
自分からけしかけておいて後悔しそうになるがかといって引くわけにはいかない。なんだかんだ二人は俺の言うことを聞いてくれるのだから、今回だって俺が頼めば叶えてくれるはず。しかも可愛くおねだりすればどうにかなるのではないか。


「おねがい」


知秋の綺麗な骨格を目で追いながら最終的に真っ黒で夜空みたいな瞳に視線が行く。意思が強く輝く瞳は俺が昔から好きだった目だ。

「お前にしちゃ可愛くおねだりするな」

知秋の大きな手が俺の頬を撫でると顔の半分が埋まった感覚がする。耳を撫で首に移動する手がくすぐったいと同時に心拍数が上っていく。
メイラはどうかは知らないが親友のこの獲物を食らおうとする目に慣れることはない。愛や恋のドキドキという可愛い胸の高鳴りならまだしも恐ろしさすら感じるのだから引き攣る顔を悟られないようにするのがやっとだ。


「駄目だ」


「ええ!?」


こんなに頑張ったのに俺の策略なんてお見通しだったのか、すぐにいつもの知秋に戻り落ち着き払っている。

当たり前だけど昔ならここまで言えばまた違った答えをもらた気がして知秋も大人になってしまったらしい。
まあ、俺のモテていた時代なんて高校時代で終わっているし、そのあとはほぼ一人だったから上がった魅力なんて無いに等しい。創りのいい顔に地位まで持った親友二人は高校以降もさぞモテたのだろう。なんだか全部に負けた気がして腕も首から外して項垂れる。

「不貞腐れんなよ、前の英羅とはまた違う可愛さがあってキた」

どこに?とはもちろん聞かないが彼のいやらしい笑い方ですぐに分かる。こんなエロい奴にしてしまったのがどうか俺ではありませんように。
お祈りしている間にこめかみにキスが下りてくたので見あげると明後日の方向を見ながら知秋がぼそりと呟いた。



「今にも気が狂いそうな奴が見てるしな」


「へ?」


この家には当然あと一人しか存在しない。ギギギと首を回してみると来夏が立っていた。真っ白なシルクでできたパジャマが死ぬほど似合っているのに、綺麗な顔が見事なまでに歪んでいる。俺は来夏の事を基本的にかわいいと思っているが、この来夏はダメなのだ。


「来夏さん、お、おはようございます……」


思わず敬語になってしまった。



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