ナチュラルサイコパス2人に囲われていたが、どうやら俺のメンヘラもいい勝負らしい。

仔犬

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光芒一線

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俺の目的はまずは2人がまともになる。という事だ。なんだか監禁までしてる割には余裕がないし、あんな悲しそうな顔がするし、俺の意思でここに居るって言っても全部を信じてくれている訳じゃない気がする。もっと、ちゃんと話して昔みたいに自然になれたら良いのに。


だからもう少し作戦が必要なのだ。理解の範疇を超えているからと放棄していたけどなぜいきなり俺は俺の知っている環境が消え、この家で過ごすことになったのだろうか。


正直、非科学的過ぎてよく分からないからあーだーこーだ考えてもしょうがないんだけど何かきっかけとか、そういうものはなかったのだろうか。それに2人にも言ったけど、この世界で生きていたメイラはどこに行ってしまったのか。もし仮に本当に元の世界でメイラが俺の代わりに働いているのなら、この世界ではもちろん俺は働いていないので最初に確認した通り俺の存在だけが職場やアパートから消える。だから世界線が違う。
なんて単純に考えて良いのか分かんないけど、これを考察1とする。


「えいら、英羅」

「え、あ、何?」

「本当に焦げるよ?」


手元を見れば焦げる寸前ほど水分の無くなったハンバーグがフライパンの上でぱちぱちと悲鳴をあげていた。

「あぶな!」

すぐに火を止めてお皿に移す。よかったギリギリ焦げてない。

「もっと早く言えよ来夏~」

「すこし焦げ目があった方が好きなのかと……ごめんね?」


来夏の方が身長高いのに上目遣いなんて高度な技をしてくれる。やっぱり来夏はいくら美人度があがろうと可愛いものだ。

今日は知秋が仕事で空ける日で来夏と過ごす日中。お昼は和風洋風それぞれの味付けで作るハンバーグに決定したのだ。和風はやはりおろしポン酢であとは定番のソース味。

「フライドポテトも焼くか」

「あのね、ジャガイモからのやつが好き」

「ん、じゃあそーしよ」

最近来夏が少しわがままを言うようになってきて俺が密かに喜んでいる。わがままというか要望がすんなり出るようになって気分も良いし、こんな可愛い願いならいくらでも叶えるとも。


「……来夏さーん」

「なあに?」

「動きずらいんですが」


来夏の腕が後ろから周り俺の背中側はすっぽりと来夏で埋まってしまう。首筋あたりに柔らかい感触が来るとびくりと肩に力が入る。

「んっ、やめろって」

「やだ口じゃないもん」


こんな可愛くない行動ももちろんあるけど、油だし危ないからって言ったらちゃんと離れてくれるからまだ良し。スキンシップの度合いが日々増しているような気がするが、まだだ、まだこれは大丈夫。俺の俺が大丈夫だから。

正直この身体がメイラのものだとしたら身体が覚えてそうでちょっと怖いのだ。だって痩せてたとは言え俺重たいもん持って体力仕事してたってのに腹筋が一回も出来ないなんてのはおかしいのだ。つまり、この身体は外に一歩も出てない、箸よりも重いものを持たないメイラのものって可能性が高い。


「トリュフ塩かける?」

「うわまた高そうな……」


じゃあ俺の元の体はどこに行ったんだ。痩せこけて肌ボロボロの俺の体。……良いところなさ過ぎだろ、今の方がいいじゃんか。でもメイラのものなら申し訳ない。

「……英羅、さっきからうわの空だね……楽しく、ない?」

「え?」

返事もしていたし相槌も打っていたけどさすが高校からの親友は見抜いているらしい。横を向いたら、悲しいって言うより珍しくムッとした表情の来夏がいた。

「楽しくない訳ないけど」

「でも上の空はやだ」

「わかった、ごめんって!」

揚げたてのポテトにトリュフ塩をかけてふーふーまでしてあげて来夏の口に持っていく。するとすぐに嬉しそうにパクりと口に入れる来夏。

「うまい?」

「おいしい」


へにゃり。
きらきらの目が優しく細くなって嬉しそうに笑うのだ。可愛いなぁ、この笑顔。守りたいこの笑顔。まじでメイラはなんでこいつに厳しく接したのか不思議だ。

「さてとサラダも来夏作ってくれたし、食べよ」

「うん」

今日の天気も最高だ。
どうせなら、せっかく広いベランダにテーブルとイスまであるし外で食べたいけど、どうなのだろう。いつかは外に出ることを考えればベランダくらい出なければ話にならない。


「来夏、ベランダで食お?」

普通に言った。
いつも通りの笑顔を浮かべて言った。なのに、来夏の表情が一瞬で変わってしまう。


「ダメだ!!」

「うおっ、びっくりしたあ!!」


耳がキーンってなるくらい大きい声が飛び出るから持っていたコップを落としそうになる。なんだこれデジャヴかな。やっぱりまだ外に繋がる所は地雷か。

「来夏、落ち着け」

「絶対にダメだ!」

「分かった、分かったから呼吸しろ、な?」

肩で息をするくらいいつもの穏やかな来夏はどこかへ行ってしまった。コップを置いてすぐに来夏を抱きしめ、一定のリズムで背中をさする。


「あのな、俺にとっては外に出るのが普通だったから、何気ない行動の一つなんだよ。せっかく良い景色だし良いところで飯食いたいじゃん。それだけ。だからそんなに怒るなよ来夏」

「怒ってるんじゃない!!!」
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