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依々恋々
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しおりを挟む「……もっと子供っぽいとこあったのになあ」
「なんの話しだよ……ああ、昔の俺たちでも思いだしたか」
「え、よく分かったな?」
「そんな顔してる。そりゃあん時は可愛かったろうよ。必死にお前のケツ追いかけてな」
「け、ケツ追いかけてたの?」
半分冗談とくつくつ笑われても半分の本気で十分だ。
空気を変えたくて窓の外を眺める事にする。
最近知った事はでっかい窓のせいで長くなったカーテンが自動で開く事。これがなんと言うか毎朝の楽しみになっている。枕元にあったリモコンは部屋の家電用で電気とかクーラーとか全て操作可能らしい。
太陽マークのついた丸いボタンを押すとゆっくりカーテンが開いていくのだ。いつもより少し早い朝はまだ優しい光で丁度いい。
「今日もいい天気だな」
気分が良い。
笑って振り返ると2人が変な顔をしている。
またこれだ、この驚きと戸惑いと泣きそうな顔。たまに笑いかけるとこういう顔するんだよな。
「……その顔みるとさー、この世界の俺2人に相当笑ってなかったんだなって毎回思うわ」
最初は俺が記憶違いなことを言っているから戸惑ってんのかなとか思ったけど、そんな事は関係なく笑いかけるとたまーに変な顔するんだ。普段は笑っても全然平気なのに、ふとした瞬間こっちまで胸が痛くなるような流石に見逃せない表情。
「俺2人と再開した時からメンヘラ拗らせてたの?」
2人が答えに困ったような顔をした。
何だこの触れちゃいけないみたいな。本人が聞いてるから良いじゃんか。
「……てかさ、俺最初入院してたって言ってたけどなんで?」
この質問のせいでさらに顔が歪んだ。あーあーせっかくの美形が崩れてる。
「何、聞かない方がいいの?俺としては知った方がいい気もするんだけど……」
「……英羅には嘘をつきたくない。だから言いたくない、としか言えない」
来夏がこちらも見ずに自分の腕をぎゅっと掴んだ。知秋も眉間に眉を寄せたまま何も言わない。お、俺が悪い事してる気がしてくるからその顔やめてくれ。
「分かった、もういいよ。無理して聞いても意味がない気がするし」
他のことから聞こう、時間なんてたっぷりあるんだ。急いで無理して聞いても、2人の考えがわかる気がしない。それに俺の考えも。
さてと今日は何を作ろうかなあと部屋を出て行こうとするとまたベッドに引きこまれた。今度俺の上に乗ってるは来夏だ。お前ら人のことポイポイ引っ張りすぎだからな。
ツッコみたかったけど綺麗な顔が不安げに歪んでいるから戸惑う。
「ど、どした?」
「……嫌いになった?」
「ならないけど」
だからこんな事で嫌うかって。なかなか来夏の不安は拭えない。
なんか言いたくない理由があるなら無理に聞かないってだけだ。
「俺の言い方きつかったか?ごめん」
「いや、そうじゃないけど……」
「けど?」
「…………君に嫌われるのは、辛い」
それは確かに俺だけど、俺じゃない俺にも言ってるのか。
「それ、メンヘラ英羅にも言った?」
「え?」
「いや、なんか俺の知らない俺とお前ら拗れてるみたいだから原因を探ろうかなと。あとな、こんな生活受け入れてんだから2人のこと嫌う訳ないってもう少し信じてくんない?」
そう言えば来夏が泣きそうな顔になってその後はいつもみたいにぎゅっと抱きしめてくる。その頭を撫でながら、知秋を目で追う。
何となく、来夏が変わった理由は俺に対して嫌われたくないってところから来てるのは分かった。じゃあ知秋は何だろう。彼は俺が怒ったりしても来夏みたいに怯えたり悲しんだりして居ない気がする。口癖のようにまた機嫌が悪いのかと聞いてくるだけだ。そして慰めようとする、あれは心配と言うよりそうする事が役目みたいな……知秋が見せる世話焼きな一面とは違う少し距離のある態度のように思える。
「……知秋」
呼びかけたら来夏だって、やっぱり知秋だってすぐに近寄ってくれる。俺が伸ばした手を取って知秋は口付けた。
「なんだよ、甘える声出して」
「……お前は俺がお前の事嫌ったら、悲しい?」
手はそのままに視線だけがゆっくりと俺の瞳と絡み合う。黒い夜空は揺れない。
「英羅がここにいる限り、それは愚問だな」
いつもの笑みだ。気丈で自信に溢れた、少し上から見るような余裕がある。来夏と知秋は全部が違う。きっかけは俺だったとしても2人が変わった理由は違うはずだ。
「じゃあ、俺がここから出たら?」
黒い夜空は星が綺麗だったのに一瞬で光が見えなくなった。閉じられた。拒絶に近い暗闇だった。柔らかな唇が当たっていた手のひらに痛みが走る。
「死んでやるよ」
それはきっと、俺が一番嫌う答えを選んだ結果なんだ。
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