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依々恋々
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しおりを挟む「……おおおおおおお」
夢の中でまた昔の記憶を見てしまった。これは俺の知らない俺じゃなくて高校時代の俺だ。俺がキスしてたわ、あれ夢かと思ってわ。何してんだよ俺。
今日も目覚めたら白い天井にひっろい部屋。カーテンで見えない窓の外は青空が広がっているんだろう。
昔の夢なんか見たのは俺の右と左を占領している親友のせいだ。思い出話をしたからこんな夢を見たのだ。しかも使ってた枕はベッドの角に追いやられ代わりに知秋の腕が入れ込まれているし、俺の腕は何故か来夏に両手で握られている。
いやあ美男に囲まれていい朝だなぁ。と、思うことにしよう。知らないおっさんなら悲鳴を上げて逃げているだろうよ。こいつらどんどんパーソナルスペースが無くなっていくなと思ったけど昔の俺のガードの緩さもいい勝負だ。
「お互い様だなぁ」
「……ん」
呟いた言葉が思ったより大きかったせいで来夏が身じろぐ。長い睫毛がゆっくりと上がり綺麗な瞳が俺を見つける。
「おはよう」
真っ白な肌に赤い唇、女性に間違われることは無いだろうけど来夏はそれくらい綺麗だ。少し掠れた声で俺を呼びゆっくりと上体を起こし俺の顔を覗き込むと来夏の顔が近づいて額に柔らかいものが当たる。
「……な、ナチュラルにキスしないでくれますかね?!」
「ダメじゃないって、言った」
い、言ってしまった。
許可したけど結局そんなにしてこなかったから安心しきっていたところにこれだ。
「英羅もしてほしい」
「え?」
「……だめ?」
そんな犬みたいな目で見ないでくれ頼む。
今昔の夢見たばっかだから、なんか後悔と高校の時の可愛い来夏と今の大人っぽくて色気のある来夏とのキャップがすごいのだ。
何も答えることもできず、慌てふためく俺をぱちくりと瞬きしながら見つめていた来夏がついに吹き出した。
「……あはは。まだ昔の可愛い英羅のままだ」
「か、からかうなよ……」
「からかってはないよ。キスしてほしいのは本当」
ああ、こんなことサラッと言えるようになってしまった来夏を俺はまだほとんど知らない。いくら昔の夢を見たってわかるのは俺の行動と俺から見た光景だけだ。気持ちなんて、俺のことをどう見てたのかなんて分からない。
だけど不思議なことに、俺の知らない俺の夢は感情まで流れてくる。あれはなんなんだろう。
「……にしてもなんでそんな俺のこ、とおおっ?!」
もっと色々聴かないと、と体を起こそうとした瞬間、物凄い勢いで後ろから引っ張られベッドに戻ってしまう体。驚いて固まる俺の上に知秋がいた。あくびしながら人の上に乗ってんじゃねえ。
「なんだよもう、起きてたんなら言えって」
「……英羅」
あれこいつ寝ぼけてないか?と思った時にはもう遅かった。手が寝巻きの下をゆっくりと這っていく。くすぐったさに身を捩る間にあろう事か胸の飾りに触れてきた。
「おい知秋!」
しかも知秋の男前で端正なお顔が来夏のように近づいてくるでは無いか。それに目指しているゴールはおでこじゃない。唇だと分かったときにようやく俺の身体を動かすことに成功した。
「レッドカード!!!!!!!」
「いっ!」
なんとか枕を掴み知秋の顔を目掛けてぶん投げる。男前な顔はこれくらいでは潰れないはずだ。
「……あ?朝っぱらから何しやがる英羅!!!」
「何しやがるはこっちのセリフだボケ!!この状況見て言えや!!」
眉を釣り上げて怒る知秋がようやく自分の体勢に気が付いたようだ。はたと気づいて固まると不機嫌に眉を顰めた。
「あーーくそ夢から覚めずに続けりゃよかった」
「まじかよ、反省の色がないんだが?!」
しかもまた舌打ちとはなんと言う事だ。
こいつらに隙を見せるべきではない。俺は高校の自分を思い出したのだから、余計に反省して身を引き締めよう。
「だいたい来夏も止めろよ……」
ようやく知秋の下から抜け出ると来夏がおいでと嬉しそうに手を広げた。知秋みたいな猛獣の後は来夏の癒しが必要だ。
「知秋はムカつくけど……流されてくれたらそれはそれで良いかなって」
言われた瞬間、俺は来夏の腕からも逃げ出した。猫が威嚇するように髪の毛が逆立っている気がする。
来夏が残念そうに言う。
「ああ、知秋のせいで英羅が逃げた」
「てめえのサイコのせいだろ」
「どっちもやばいからだよ!!」
全く、やめてくれ俺の可愛い2人の記憶が余計に現実を突きつけてくる。俺が知る2人は、案外ピュアで優しくて、普通の友達ってよりは家族くらい寄り添ってくれていた感じだった。
何がきっかけでこうなったのか、まだまだ俺は知らないといけない。
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