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依々恋々

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「なんか、異様に仲良くなったな?お前ら」

「だっしょ!まあこんなに可愛くてカッコいい俺だからね」

「言ってろバーカ」


どや顔になる英羅は可愛いけどいつも話しかけるこいつは気に食わん。そんな2人の目はもはやクラスの日常となってきていた。恐れている人も居るが、慣れたら揶揄える人もいた。
その1人がこの初早希はつさきだ。飄々している彼は誰とでも良く話すところが英羅と似ているからか英羅とも仲が良く話しかけにくる。


「英羅が番犬連れてるから、近付きにくい~って何故か俺が不満言われんだけど」

「ん?なら俺が話に行くよ」

「……タラシだなぁ」

初早希が憐れんだ。
近付きにくいと言ったのは女子で英羅のことが好きなのだから本人から会いに行ったらそれもう喜ぶだろう。英羅もそれなりに状況は理解しているようで、じゃあ今行ってくると廊下で覗いていた女の子の元へふらふらと話しに行こうとするのだ。無邪気そうに見えてそういうところはちゃっかりしている。

「英羅……」

「すぐ戻ってくるって」

来夏の寂しげな声に頭を撫でる英羅。残された2人のこれでもかという不機嫌さを気にも止めず行ってしまう。


「お前らも大変だな」

「死ね」

「労ってんだよ?!」


英羅のおかげで知秋も来夏も初早希や一部とはこんな会話をするようになった。それでも英羅が居なければ冷たいものだが完全にシャットアウトは無くなったのだ。

それに初早希はなんとなくでも知秋と来夏の英羅に対する気持ちに気づいているようだった。彼はその辺りの触れ方が上手く、だからか英羅との距離感も絶妙で安心は出来なくとも、知秋と来夏も比較的に相手をしやすいタイプだ。


「いつまでもそんなんじゃ、卒業したらどうすんだよ」


何気ない会話だった。
どうしたら良いのだろう。英羅が居なくなれば、この気持ちを押し込める事は出来るのだろうか。それともさらけ出して何か変わるのだろうか、英羅が自分たちの手を取るのだろうか。誰の手を取るのだろうか2人のどちらかの手をとるのだろうか。

他の誰の手を取っても許せないのでは無いだろうか。


「ただいま~」

「なんだって?」

「んー内緒」

「顔に書いてあんだよ!伝書鳩した俺に教えろ!」

「おわ!頭くしゃくしゃにすんなよもー!」


初早希に英羅がこねくり回されると、廊下からくすくすと笑い声が聞こえる。先程の女の子がまだ居たのだ。ふわりと笑って手をふり返す英羅に初早希はまた頭をくしゃくしゃにする。


「わっかりやっす。良いねモテ男は」

「お前もモテれば良いじゃん」

「うぜー!これだからイケメンは!何で2人はこんな奴に懐いたわけ?」

「英羅は可愛いから、モテても仕方ない」

来夏がクスリと笑うがさっきまで心底不機嫌な顔をしていた事を英羅は知らない。英羅が来夏の笑顔を見て頭を撫でると嬉しそうに微笑む来夏。

「可愛いのは来夏だよな~」

「くすぐったいよ」

「あーはいはい、顔いい同士でも男のじゃれあいに興味ねーの俺は。ああ、あれね顔いい人間は顔いい人間に集まるのね……くっそー」


1人で言って1人で悔し泣きしていく初早希を英羅はけらけらと見送った。こんな騒がしい日常は英羅が居なければ起こらないだろう。

「……付き合うのか」

「ん?……んーん、断るよ」

知秋の質問に答えた英羅はなんだか寂しげに見えた。
2人が英羅と出会ってから、英羅がたくさん告白されている事は知っているが付き合ったのは1人だけだった。半年と言うあっけない期間で英羅が振られたのだ。英羅の家庭の事情は知っていただろうが、バイトばかりの英羅に寂しさのあまり彼女が音を上げたという。

それでも英羅は申し訳なさそうにこう言う。


「時間あったら大切に出来た、なんて失礼な話しだろ。振られて当たり前」


そう言った英羅は綺麗だった。
英羅に恋人ができたと聞いた時の胸の痛みも英羅が寂しそうにする姿も全てが綺麗だった。知秋はただ見つめていた。来夏だって同じだ。


「なのに2人は、こんなに時間無い俺にめげずに着いてくんの。変わってるよ本当」


英羅の言葉に深い意味はない。

2人は英羅のバイト先が接客業ならとにかくそこに出向いたし、迎えにいくし少しでも時間を作った。苦でも何でもない。そうしたいからそうしている。ただそれだけなのに、英羅は嬉しそうに笑うのだ。

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