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「……あ?」

「……え?」


当然俺の発言が理解出来ないと2人は固まった。良い大人が朝から滑稽だけどこれは重要である。何故なら俺はこれから説教をするのだから。


「何で俺たちが正座なんかすんだよ」

「英羅、お腹空いてるんじゃない?先に食べ」

「いいから、座って」


あーだこーだ言う前に指をピッと下に向ける。
じっと2人を見つめ、それ以上は何も言わずとにかく2人が正座するのを待った。また何度か不満の声が上がったがとにかくそれを無視すると2人は仕方なく、渋々と、正座をする。


はい、2人が静かになるまで3分と45秒かかりました。ってそんな事はどうでも良いのだ。腰に手を当てたまま俺は喋る。


「部屋で色々考えたよ。これまでの事、これからの事、何でこんな事がとか」


二人はそのことかと顔を緩ませた。

「俺らも驚いた。何でいきなりお前がそんな事になってんのか結局検討もつかない。だけどお前はおかしく無い、俺らはお前が嘘なんてついてないってわかる。だけどほら言うじゃねえか。たまたま記憶の片隅に残ってた情報を思い出したとか。それを自分と混同して頭がパニックになっているのかもしれない」

「そうだよ、どっちにしたって変わらないでしょ?お金がなくて大変なお仕事をしながら1人でいるより今の方がよっぽど良いんだから」

知秋と来夏がにこやかに言う。
どうやら2人の中では今回の事はそれで完結したらしい。ちょっと眉がピクリと上がった程度に思う所はあるが、記憶に関しては俺のできる範疇を超えているのだから今は考えたって仕方がないのだ。


「俺も記憶との差については実際そんなに焦ってるわけでも無い、自分でも結構沈んでた記憶しかないし……それにお前らに会えて嬉しかったって本気で思ってる」

「英羅!!」


2人が同時に嬉しそうに叫んだ。だけどまだ立ち上がるには早い。また手で2人を制しながら俺は気合を入れるため大きく息を吸った。


「だけどなぁ、監禁は話がちげえんだよ!!」


こんなに大声を出したのは久しぶりだ。
自分で耳が痛くなるくらい叫ぶと広い部屋に反響して数回こだまが聞こえた。2人はびっくりして固まっている。


「それからなぁ好きなやつが動揺してる時に嘘でももう少し心配しろや!?だから昔からモテてんのに僻まれんだよ!!」

「え、えい」

「黙って聞け!!」

「はい!!」



おずおずと来夏が立ち上がろうとするので肩を押して元の体勢に戻す。さっきは叫んだ分、今度は深く息吸って呼吸を整えた。2人の目を真っ直ぐ見つめる。


「監禁はだめだ、分かるだろ」


2人は目を逸らさなかった。口を開いたのは知秋からだ。

「それは聞けねぇ頼みだな」

「……僕もごめん、無理かな」


こう言う時に綺麗な悪い顔で微笑むようだ。この2人は。
俺の事になると見境がなくなる。でもこんな風にしてしまったのは俺なのかもしれない。

それにこの答えは想定済みだ。


「俺今ここから出せって頼んだか?」

「……え?」

「……何が言いたい」

「まずはダメな事だって分かってもらいたい。まあ、そんな悪い顔するくらいだから一応分かってるみたいだし……今のところ出せとは言わないよ」

記憶がおかしくなった時からここから出せと言われる事は2人ももしかしたら想定していたのかもしれない。俺の言葉が意外だったのか2人は黙った。


「昨日考えたのは自分のことだけじゃ無い、2人の事もちゃんと考えた」
      

2人の事も、と言った瞬間に表情が変わった。驚き目が見開かれている。この目はいつもの素直な2人だ。
この反応になるって事も分かっていた。

仁王立ちから俺も膝を曲げ正座をする。
そうすると2人と視線が同じになった。いや正確には座高で負けているがとにかく俺も正座が必要なのだ。


「……昨日、多分だけど2人がよく知る俺の記憶を見た」

「それって……」

「夢を見て、この現状は実感で言えば違う世界線で生きる俺みたいな感覚に近かったよ。だけど俺にはかわりない、その分感情まで流れてきた」

2人は黙っていた。
その先に何かを期待しているが、俺の話は2人にとってあまり良いとは思えない。


「でも、2人が知る俺は何もかも投げやりで、正直2人の事を大切に思ってるようには見えなかった」

2人だって、分かってるんだと思う。
だから鎖で繋ぐのだ。逃げないように閉じ込めるように、その他を見ないように。きっと利害の一致は俺たちを狂わせて加速させた。


「……そうかよ」

「それでも僕は、君を離せない」


初めて見た2人の自嘲気味で悲観的な笑顔だった。
やっぱり気がついてたんだ。




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