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異常事態

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「……どう思う」

「昨日までの英羅とまるで違う。マジで高校の時のあいつみたいだ」

「不貞腐れてばかりの英羅も可愛かったけど、笑いかけてくれる英羅は本当に可愛い……」

来夏は妖艶に笑い、うっとりと英羅を思い浮かべる。

「嬉しい、あんなにおしゃべりしてくれる英羅は久しぶり」

知秋は珍しく高校の時の来夏を思い出した。思い返すのは英羅ばかりだがその横にへばりつく来夏はもっと口数が少なかった。いつのまにかペラペラとよく話すようになったものだ。その思案も瞬時に英羅の記憶で消されてしまう。英羅も変わった。変わったけれど、それがどうしたと言うのだ。

「俺は無口で我儘なあいつも堪らないけどな」

「何言ってるの、どの英羅だって僕も好きに決まってる」

2人は睨み合うがすぐに視線を外した。
せっかく英羅の機嫌が良かった日にお互いの顔なんて見つめたくない。ただでさえ3人で住むこの形式さえ渋々なのだから。

「でも明日には戻っちゃうかな」

「さあな、今までもおかしくなった事はあったけど大体数日で治るから今回もそうかもな……でもあんな元気で、しかも知りもしないはずの記憶を話してんのは今回が初めてだ」

「うん……不思議……でも、英羅には代わりないから」

「ああ……」


英羅が英羅であるなら2人には何も問題がない。
この家に英羅がいるなら、英羅が2人のものである限りそれだけでいいのだ。

知秋は歩いて英羅が閉じこもった部屋のドアを叩く。音はしない、でも何故かドアのすぐ前にいる気がした。またいつもみたいに可愛い顔を絶望させているのだろうか。


「英羅、いい加減出てこい」


部屋に閉じこもるなんてよくある事だ。
返事もしない、ただ暗闇を見つめている英羅を幾度となく見た事がある。

その異常性には気が付いていた。でも英羅はここにいる。


「……明日、明日部屋を出るから。1人にして」


珍しい。
英羅が騒いだ日にこうして期限をつけた事など無かった。やはり、今回は少し違うのかもしれない。だけどそれは大きな問題じゃない。

またリビングに戻ると来夏が首を傾げる。



「英羅なんだって」

「明日まで1人にしろって……」

「そう……わざわざそんな事言ってくれるなんてめずらしいな」


少し驚いた来夏も変化には気付いている。

でも何も問題はない。
今日の英羅は昔の何も知らない無邪気な笑顔をしていた。大好きだったあの笑顔だ。恋焦がれたあの時の英羅がいた。
例えまた消えそうで儚い目に戻ったとしても愛おしい存在に変わりはない。


だから鎖をつけるのだ。
どこにも行かないように、最後まで一緒に居れるように。
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