ナチュラルサイコパス2人に囲われていたが、どうやら俺のメンヘラもいい勝負らしい。

仔犬

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異常事態

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「俺の知識は間違ってないけど、俺に関しての記憶だけ現実と違っている……」


なんだこれ、しか言えない。
期待するような答えも無いが2人にも聞いてみた。


「どう思う……?」

「……なんて言ったらいいか、分からない」


来夏が呟くように返事をした。
そうだよな、意味がわからないよな。知秋は眉間に力を入れたまま俺がいた筈のアパートの間取りを見ていた。


「……お前の記憶では、こんなとこに住んでたのか?」

「え、ああ。うん、父さん死んでウチ金なかったから働いてからずっとここ」


こんなとこって他の人には言うなよと思うけど、ほんとに言われちゃう間取りなんだよな。大抵の人が一瞬で蹴るような部屋だった。でもそれしか当時は選択肢がなかった。家族三人で住んでいたアパートを引き払って、俺の安い給料で兎に角住める場所をと。


「……正直言って、驚いてる。俺たちはもちろんお前が嘘ついてるなんて思ってもない。俺たちの知らないお前の記憶があるのは確かで、知識も間違ってない。それは俺たちも確認できた……他に確認したい事はあるか?」

「あとは俺、運転免許持ってたんだよね。だから運転できるよ……でも2人が言う俺なら持ってる筈ないって事だよね」

「ああ……」

「運転……英羅が運転……」


知秋と来夏がまたお前が?みたいな表情だ。
そんな俺運転できなさそうなのか。

まあでも、状況把握はできた。取り敢えず仕事にすぐにいく必要も、家賃に追われる心配もない訳だ。

「あー、監禁してるお二人さんよ」

「ああ」

ああって普通に返事する知秋もやばいなとか思いながら来夏にも向けて話す。俺の記憶と現実の違いは確認できた。次のミッションは現在の俺の様子を知る事だ。

「あのさあ、なんか色々驚いてるけど、2人の知ってる俺って何が出来るの?」

「え?英羅は何もしないよ」

「は?」

「英羅は僕たちのためにここに居るんだから」


まあた何言ってるんだ来夏は。知秋も頷いてるけど俺の過去と今の違いも意味わかんないけどこの2人もやばい事は俺だって分かっている。今度はこっちの状況を確認しなければならない。

「と言うと?」

「英羅は俺たちの物だから俺たちが鎖をつける」

「……ほお?」

「だからお前はただここに居れば良いんだ」

「……えーと、ペットみたいな?」


2人はまた目を合わせた。
この2人は仲良しではない、だけど何故か一緒にいる変わった奴らだった。そしてこの2人は俺だけに懐いていた。当時は可愛かったさ、背格好同じくらいの男子だけど、犬っぽくて可愛くて。

「ペット?まさか」

その2人の表情が一変した。
宝石のような来夏の目が、知秋の飲み込まれそうな漆黒の目が緩く弧を描く。犬みたいな可愛さはもうない、その背中に黒くて大きな翼が見えた。羽を広げるとたくさんの黒い羽が舞う。

俺の記憶なんかよりももっとやばいのはもしかして、この2人なのか。椅子ごと向きを2人の方へ変えて俺はしっかりと2人を見上げた。この質問を最後に取っていたのは、この異常性を少なからず感じていたからだ。


「…………1番、2人に聞きたい事があったんだけどさ、何で俺……」


2人はただじっと俺を見つめていた。

「何で……裸だったの?」


笑顔のまま来夏が俺の手を優雅に優しく掬った。愛おしいとそんな柔らかな笑顔なのに瞳に怪しい光が揺らいでいた。


「君が言ったんだ……俺たちに毎日脱がされるのなら服なんて要らないって」

「え?」


脱がされるって何。
来夏の表情からその意味がわからないほど疎いわけはない。それでも否定したかった。

「……お世話って、意味だよな?」


緊張で乾く喉が声を震わせた。否定も肯定もされなかった。ただ悪魔が地獄に誘うような、残酷で甘い笑顔が二つある。


「英羅……」


知秋の手が頬に伸びて頬を撫で耳を撫でる。耳のくぼみに沿う指がくすぐったくて身を捩ると知秋の整った男前な顔が目の前に来たと認識した時には唇が重なっていた。


「……んっ」



重なるどころか食べられるような深い強引なキスだった。驚くどころか体すらも動かせない。座っていて良かったと思うほど足に力が入らなくなった。来夏に握らている手が震えている。

頭に回る腕が逃げる事も許してくれない。
耳元で来夏の声がして思わず体がびくりと反応してしまうと優しい悪魔の声が俺をたぶらかす。


「たとえ君が変わってしまっても、僕は君だけを愛すよ」


誰かの手が太ももを撫でて次第に足の付け根へ移動していく。そこでようやく悲鳴のような声をあげて俺は動く事が出来た。
2人を押して走って逃げた。逃げる場所なんてなかったけど、1番最初の部屋に駆け込んだ。ドアを閉めてもたれ掛かったまま座り込んだ。



「……え?」



ドクドクと体が警戒している。
2人はあんな顔だっただろうか。あんな顔を俺に向けた事があっただろうか、あれは本当にあの2人なのだろうか。



「……本当に、何だこれ」




夢なのか、現実なのかそれすらも分からない。帰りたいのか、帰りたくないのか。帰るってどこに、この世に未練のなかったおれがどこに帰ると言うんだ。


俺は、今何がしたいんだろう。
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