ナチュラルサイコパス2人に囲われていたが、どうやら俺のメンヘラもいい勝負らしい。

仔犬

文字の大きさ
上 下
13 / 75
異常事態

13

しおりを挟む

「俺の知識は間違ってないけど、俺に関しての記憶だけ現実と違っている……」


なんだこれ、しか言えない。
期待するような答えも無いが2人にも聞いてみた。


「どう思う……?」

「……なんて言ったらいいか、分からない」


来夏が呟くように返事をした。
そうだよな、意味がわからないよな。知秋は眉間に力を入れたまま俺がいた筈のアパートの間取りを見ていた。


「……お前の記憶では、こんなとこに住んでたのか?」

「え、ああ。うん、父さん死んでウチ金なかったから働いてからずっとここ」


こんなとこって他の人には言うなよと思うけど、ほんとに言われちゃう間取りなんだよな。大抵の人が一瞬で蹴るような部屋だった。でもそれしか当時は選択肢がなかった。家族三人で住んでいたアパートを引き払って、俺の安い給料で兎に角住める場所をと。


「……正直言って、驚いてる。俺たちはもちろんお前が嘘ついてるなんて思ってもない。俺たちの知らないお前の記憶があるのは確かで、知識も間違ってない。それは俺たちも確認できた……他に確認したい事はあるか?」

「あとは俺、運転免許持ってたんだよね。だから運転できるよ……でも2人が言う俺なら持ってる筈ないって事だよね」

「ああ……」

「運転……英羅が運転……」


知秋と来夏がまたお前が?みたいな表情だ。
そんな俺運転できなさそうなのか。

まあでも、状況把握はできた。取り敢えず仕事にすぐにいく必要も、家賃に追われる心配もない訳だ。

「あー、監禁してるお二人さんよ」

「ああ」

ああって普通に返事する知秋もやばいなとか思いながら来夏にも向けて話す。俺の記憶と現実の違いは確認できた。次のミッションは現在の俺の様子を知る事だ。

「あのさあ、なんか色々驚いてるけど、2人の知ってる俺って何が出来るの?」

「え?英羅は何もしないよ」

「は?」

「英羅は僕たちのためにここに居るんだから」


まあた何言ってるんだ来夏は。知秋も頷いてるけど俺の過去と今の違いも意味わかんないけどこの2人もやばい事は俺だって分かっている。今度はこっちの状況を確認しなければならない。

「と言うと?」

「英羅は俺たちの物だから俺たちが鎖をつける」

「……ほお?」

「だからお前はただここに居れば良いんだ」

「……えーと、ペットみたいな?」


2人はまた目を合わせた。
この2人は仲良しではない、だけど何故か一緒にいる変わった奴らだった。そしてこの2人は俺だけに懐いていた。当時は可愛かったさ、背格好同じくらいの男子だけど、犬っぽくて可愛くて。

「ペット?まさか」

その2人の表情が一変した。
宝石のような来夏の目が、知秋の飲み込まれそうな漆黒の目が緩く弧を描く。犬みたいな可愛さはもうない、その背中に黒くて大きな翼が見えた。羽を広げるとたくさんの黒い羽が舞う。

俺の記憶なんかよりももっとやばいのはもしかして、この2人なのか。椅子ごと向きを2人の方へ変えて俺はしっかりと2人を見上げた。この質問を最後に取っていたのは、この異常性を少なからず感じていたからだ。


「…………1番、2人に聞きたい事があったんだけどさ、何で俺……」


2人はただじっと俺を見つめていた。

「何で……裸だったの?」


笑顔のまま来夏が俺の手を優雅に優しく掬った。愛おしいとそんな柔らかな笑顔なのに瞳に怪しい光が揺らいでいた。


「君が言ったんだ……俺たちに毎日脱がされるのなら服なんて要らないって」

「え?」


脱がされるって何。
来夏の表情からその意味がわからないほど疎いわけはない。それでも否定したかった。

「……お世話って、意味だよな?」


緊張で乾く喉が声を震わせた。否定も肯定もされなかった。ただ悪魔が地獄に誘うような、残酷で甘い笑顔が二つある。


「英羅……」


知秋の手が頬に伸びて頬を撫で耳を撫でる。耳のくぼみに沿う指がくすぐったくて身を捩ると知秋の整った男前な顔が目の前に来たと認識した時には唇が重なっていた。


「……んっ」



重なるどころか食べられるような深い強引なキスだった。驚くどころか体すらも動かせない。座っていて良かったと思うほど足に力が入らなくなった。来夏に握らている手が震えている。

頭に回る腕が逃げる事も許してくれない。
耳元で来夏の声がして思わず体がびくりと反応してしまうと優しい悪魔の声が俺をたぶらかす。


「たとえ君が変わってしまっても、僕は君だけを愛すよ」


誰かの手が太ももを撫でて次第に足の付け根へ移動していく。そこでようやく悲鳴のような声をあげて俺は動く事が出来た。
2人を押して走って逃げた。逃げる場所なんてなかったけど、1番最初の部屋に駆け込んだ。ドアを閉めてもたれ掛かったまま座り込んだ。



「……え?」



ドクドクと体が警戒している。
2人はあんな顔だっただろうか。あんな顔を俺に向けた事があっただろうか、あれは本当にあの2人なのだろうか。



「……本当に、何だこれ」




夢なのか、現実なのかそれすらも分からない。帰りたいのか、帰りたくないのか。帰るってどこに、この世に未練のなかったおれがどこに帰ると言うんだ。


俺は、今何がしたいんだろう。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

処理中です...