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異常事態
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「……て言うか俺はスマホもPCもなくあの部屋でよく過ごせたな」
「それは……そもそも君は外界に興味を持たなかったし僕たちがいる時は部屋のどこでも行き来してたから……」
どっちにしろ働きもせず、よく考えたら俺ニートじゃんただの。しかも引きこもりなのにネットしないなんてそれこそ真の廃人……いや何かしらの趣味でもあったのかもしれないけど、兎に角だ。
「それなら確かめるのには丁度いいな。つまり俺は何にも知らないはずだろ?でも今俺は自分のアパートの住所も、元いた会社も知っている……知秋、俺が言う会社、調べてよ。多分出てくると思う。電話番号も覚えてるし」
俺が何も見ずに言った言葉を知秋はPCに打ち込んだ。検索でヒットした会社をポツリと読み上げる。
「テクノ工場……」
「うん、ここ。めちゃくちゃ体力仕事でさ……昨日もここで働いて帰ってきて、俺は目が覚めたらここにいるって言う心境なの、今」
そしてこうして調べて会社が出てくるって事は存在してるって事だ。社長の名前だって合っている。だから俺の記憶は完全には間違っている訳では無いらしい。来夏がおずおずと質問する。
「力仕事って……何するの?」
「えー、何十キロって言う鉄の塊みたいなのを持ち上たり」
「……英羅が?」
「そうだよ、機械じゃ壊すかもしれないから人間がって……俺みたいな脳みそのシワ足りないやつは正直助かったけどな、腰にはバリバリくるけど」
そう言いながらこれ以上どう確かめようかを考えていた。どこまで俺の記憶が違うのか確かめるなら、この工場で同じチームだった人間に問い合わせるのが確実なんだけど……。
「こうして会社が存在してる事はわかったけどさらに会社の製鉄所の人を確認したいんだよね。専務とかはホームページに名前上がってるけどその下の社員で渡辺さんって人のチーム所属だったから、渡辺さんが存在するか確かめたいんだ」
「……なら、使え。そいつらの電話番号も覚えてるんだろ」
知秋が差し出したのはスマホだった。本格的に俺が言った事を目の当たりにしたからか他人と連絡する事に異議はないようだ。まあ、そもそも2人の目の前だし助けなんて呼べないしね。
「ありがと」
最新のスマホは知秋の指紋認証でロックが解除された。電話を開き番号を迷う事なく押していく、2人にも聞いてもらうためスピーカーにしてみた。でも電話番号が知秋のもので表示されるから出てくれるかは微妙だったけど数コールの後電話がつながった。
「……お電話ありがとうございます。テクノ工場製鉄所、渡辺です」
間違いない、俺の知ってる渡辺さんだ。気さくなチーム長で密かに俺は尊敬していたのだ。彼から何度かチームでのご飯にも誘われたが余裕のない俺にはその繋がりすらも避けてしまっていた。
「渡辺さん、お疲れ様です。姫咲です。ご連絡遅くなって申し訳ございません。本日出社予定でしたがお休み頂きたく……」
姫咲は俺の苗字だ。
これでもし俺の事を認識してれば2人の言う事は間違っている事になる。ただ俺は2人を疑っている訳じゃなかったから渡辺さんの返事には驚かなかった。
「……姫咲、さん……?申し訳ありません。私たしかに渡辺と申しますが、恐らくうちのチームではなく……ああ!渡利さん、かな!そっちと連絡先が間違っていってるとか……」
確かに他チームに渡利さんというチーム長がいた。
でも渡辺さんのチームだったのだ。そのはずだったのだ。
「……あの、渡辺さんのチームですが、13人、ですよね」
俺が確かめるように言った言葉を渡辺さんは不思議そうにしながらも即答してくれた。
「いえ。12人です」
「…………そう、ですか」
不思議な気分だった。1人減っている。確実に俺だけの存在が消えていた。
「すみません、間違えてしまったようです。もう一度確認してみます」
「いえ!それでは失礼致します」
電話が切れた。
後ろの2人は無言のままただ俺を見つめているのだろう。
後一つだけ確かめてみたかった。俺のアパートだ。
あのボロアパート、あの部屋はどうなっているのだろう。キーボードに打ち込んだアパートの名前はもちろんすぐにヒットした。
「……アパート老朽化により去年から立て直し中……どーなってんだろ」
流石に乾いた笑いが出てしまった。
「それは……そもそも君は外界に興味を持たなかったし僕たちがいる時は部屋のどこでも行き来してたから……」
どっちにしろ働きもせず、よく考えたら俺ニートじゃんただの。しかも引きこもりなのにネットしないなんてそれこそ真の廃人……いや何かしらの趣味でもあったのかもしれないけど、兎に角だ。
「それなら確かめるのには丁度いいな。つまり俺は何にも知らないはずだろ?でも今俺は自分のアパートの住所も、元いた会社も知っている……知秋、俺が言う会社、調べてよ。多分出てくると思う。電話番号も覚えてるし」
俺が何も見ずに言った言葉を知秋はPCに打ち込んだ。検索でヒットした会社をポツリと読み上げる。
「テクノ工場……」
「うん、ここ。めちゃくちゃ体力仕事でさ……昨日もここで働いて帰ってきて、俺は目が覚めたらここにいるって言う心境なの、今」
そしてこうして調べて会社が出てくるって事は存在してるって事だ。社長の名前だって合っている。だから俺の記憶は完全には間違っている訳では無いらしい。来夏がおずおずと質問する。
「力仕事って……何するの?」
「えー、何十キロって言う鉄の塊みたいなのを持ち上たり」
「……英羅が?」
「そうだよ、機械じゃ壊すかもしれないから人間がって……俺みたいな脳みそのシワ足りないやつは正直助かったけどな、腰にはバリバリくるけど」
そう言いながらこれ以上どう確かめようかを考えていた。どこまで俺の記憶が違うのか確かめるなら、この工場で同じチームだった人間に問い合わせるのが確実なんだけど……。
「こうして会社が存在してる事はわかったけどさらに会社の製鉄所の人を確認したいんだよね。専務とかはホームページに名前上がってるけどその下の社員で渡辺さんって人のチーム所属だったから、渡辺さんが存在するか確かめたいんだ」
「……なら、使え。そいつらの電話番号も覚えてるんだろ」
知秋が差し出したのはスマホだった。本格的に俺が言った事を目の当たりにしたからか他人と連絡する事に異議はないようだ。まあ、そもそも2人の目の前だし助けなんて呼べないしね。
「ありがと」
最新のスマホは知秋の指紋認証でロックが解除された。電話を開き番号を迷う事なく押していく、2人にも聞いてもらうためスピーカーにしてみた。でも電話番号が知秋のもので表示されるから出てくれるかは微妙だったけど数コールの後電話がつながった。
「……お電話ありがとうございます。テクノ工場製鉄所、渡辺です」
間違いない、俺の知ってる渡辺さんだ。気さくなチーム長で密かに俺は尊敬していたのだ。彼から何度かチームでのご飯にも誘われたが余裕のない俺にはその繋がりすらも避けてしまっていた。
「渡辺さん、お疲れ様です。姫咲です。ご連絡遅くなって申し訳ございません。本日出社予定でしたがお休み頂きたく……」
姫咲は俺の苗字だ。
これでもし俺の事を認識してれば2人の言う事は間違っている事になる。ただ俺は2人を疑っている訳じゃなかったから渡辺さんの返事には驚かなかった。
「……姫咲、さん……?申し訳ありません。私たしかに渡辺と申しますが、恐らくうちのチームではなく……ああ!渡利さん、かな!そっちと連絡先が間違っていってるとか……」
確かに他チームに渡利さんというチーム長がいた。
でも渡辺さんのチームだったのだ。そのはずだったのだ。
「……あの、渡辺さんのチームですが、13人、ですよね」
俺が確かめるように言った言葉を渡辺さんは不思議そうにしながらも即答してくれた。
「いえ。12人です」
「…………そう、ですか」
不思議な気分だった。1人減っている。確実に俺だけの存在が消えていた。
「すみません、間違えてしまったようです。もう一度確認してみます」
「いえ!それでは失礼致します」
電話が切れた。
後ろの2人は無言のままただ俺を見つめているのだろう。
後一つだけ確かめてみたかった。俺のアパートだ。
あのボロアパート、あの部屋はどうなっているのだろう。キーボードに打ち込んだアパートの名前はもちろんすぐにヒットした。
「……アパート老朽化により去年から立て直し中……どーなってんだろ」
流石に乾いた笑いが出てしまった。
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