377 / 379
dance!!
1
しおりを挟む「おっと……んん、それは……えーーーーあーーーーんーーー、考えさせて下さいってありですか?」
珍しく歯切れの悪い答え。
秋は腕を組みウンウンと唸って身体を横にずらしたりとにかく悩んでいる。結局答えはすぐ出なかったのかおっきな息を吐き出して決められんとソファに倒れ込む。
「そっかー……鶚ヘッドイーターっぽいのかあ。才さんも神さんもなんか警戒してたしなあ」
複雑そうな笑顔で秋が呟くと瑠衣先輩は何も言わずに秋の頬を摘んだ。
アゲハさん達とのその後の時間は切り替えたように穏やかで、おれが不安な顔をしてしまったせいもあるのかヘッドイーターの話は出なかった。鶚さん達と接触する事もなくその日はアゲハさん達と楽しい場のまま終えた。
でも数日後、先輩達の間で話し合ったのか話があるからとシェアハウスのリビングに集まった。
まず秋には鶚さんの話になった。
ダンサーとして秋にしてみれば鶚さんはすごい人で、何かされたわけでもなくダンスチームの一員なのだ。だから警戒、とか距離置いてとは言わなかったけど秋は悩み出した。
「でもキツネさんと居たんじゃほぼ黒なのかなー、動物の名前入ってるんですよね?みんな」
「うん、赤羽がヘッドイーターの頭はクロコって名乗ってるらしいからおそらく唯達が会った鰐渕って奴であってるだろうね」
暮刃先輩がコーヒー片手に微笑むが秋が複雑そうな顔をしているので少し申し訳なさそうに話す。
「すんません落ち込んで、そんな顔暮刃先輩がしないでくださいよー」
「今回は本当に巻き込んじゃってるから。優を使って俺たちを呼ぼうとするくらいだから狙いは俺たちだろうし……」
「だからお前らもそんな顔しなくていい」
間に座っていた氷怜先輩の手がおれと優の頭に乗る。優と視線を合わせるとお互い同じしょんぼり顔をしていたようで優しさに思わず笑顔になる。あんまりおれたちが落ち込んだら先輩達が気にしてしまいそうだ、切り替え切り替え。
「本当に宮子さんの言葉は当たるね」
暮刃先輩がポツリと言うと優が反応する。
「……え?宮子さん?」
「うん、今年は波乱の連続になるよって実は言われてたんだよね」
そんな事を言われていたのか?!
宮子さんの言葉がもう当たるって分かってるし現に色々あったじゃないか。
今は仲良くなったけど李恩や麗央のこともあったし秋はリョウくんの事もあったし先輩達もアゲハさんのお誕生日会の日は立て込んでいたっぽいしおれたちもドレス着たりしたし、そして今はヘッドイーターだ。
「……的中率本当にすごいなぁ」
頭を抱えるおれとは対照的に優は真剣に思考を巡らせていた。顔にかかった髪を耳にかけるとしっかりとした口調で話し出す。
「アゲハさんのお店までメンバー揃って行ったのならヘッドイーターだって言ってるようなものってことですよね。もし仮に本当にヘッドイーターだとしたらサクラ姉さんの事も知ってるはず……ですかね?」
「サクラさんは表で動いてるから俺たちに直結した関係だって基本は分かると思うよ」
「じゃあ向こうは探りを入れてて、バレても良いくらいって事なのか……流石に唯と氷怜先輩が行く事は知らなかったはずですけど」
「そうだね。だからこそ定期的に会う鶚に関しは心配なんだ」
「ですよね~」
また鶚さんの話に戻ってきた秋が眉を寄せて笑った。横になっていた身体を起こし隣の瑠衣先輩の足の間に座り直した。
「瑠衣先輩的には俺にどうして欲しいっすか?」
ニッと笑った秋に瑠衣先輩はブルーの目を動かして一拍置いて返事をする。いつもみたいにおちゃらけたりしなかった。
「会うなーとか言ったらアッキーダンス出来なくなるデショ」
「おお優しさ~」
笑いながら瑠衣先輩の首に腕を回す秋。先輩達も秋のする事を制限したい訳じゃない。おれたちもそれは分かっているし、こういう時は折り合いなのだ。
「よし!えーとですね、俺ダンスはやりたいです。なのでそこはわがまま通しても良いですかね。そんでもって心配させたい訳じゃないんでチームの人を誰かダンスの時に付けて欲しいと言うお願いしても良いっすか」
「イーンジャナイ?」
最初からこの答えが出ると分かっていたのだろう。瑠衣先輩の青い目が優しげに三日月に変わる。
「んじゃ、オレもダンス行くネ」
「え、マジ?!瑠衣先輩踊ってくれんの?!こればっかりは鶚に感謝いててててててててて」
「最近ホント生意気なんだけケド、ガード緩すぎ緊張感無し男って油性で顔に書いてあげよっか~アッキ~?」
「ダサすぎる!それだけは勘弁、いひゃい!のびる!のびる!」
咄嗟に大喜びしてしまった秋が流石に痛そうな力加減でほっぺた引っ張られてる。
あれは仕方ない、ダンス激うま瑠衣先輩が見れるかもなんて秋にとったらご褒美だ。微笑ましい限りの2人は置いといて優は未だに何かを考え込んでいる。
「なんかはっきりしないの嫌なので、直接聞いても良いですか?」
「ん?」
「talkieでキツネさんにヘッドイーターのみんなでアゲハさんのお店に居たかを」
この話をするとすぐさま機嫌が急降下した瑠衣先輩。秋が苦笑しながらどうせなら有効活用しましょうよと促すと嫌な顔をしながらも暮刃先輩にスマホを渡す。
「暮ちんがして。優たんが触らないならイイヨ」
すっごいブスっとした顔でそう言う瑠衣先輩超可愛い。と、思わず口に出さないようにしたら頬が膨らんでしまい氷怜先輩にバレたのか笑いを堪えるように肩が震えている。
「はいはい……そんなに素直に答えるかな」
暮刃先輩がスマホを弄ると優が俺の口調ぽく聞いてみてくださいとお願いし暮刃先輩がチャット打ち込んだ。
「教えてくれそうですよね」
「……なんでそう思う?」
おれの不意に出た言葉を氷怜先輩が拾った。
なんでだろう。
なんだかそんな気がする。隠したり変に誤魔化したりしなさそうなんだ。
どうしてと言えば、あの目を見たからそう思うのかもしれない。
ピコンと小さな音が響いて、スマホを見つめる暮刃先輩と優が同じように眉を寄せた。
「……全員居たよ、だって」
予感が当たるとやっぱり少し怖くなるものだ。
23
お気に入りに追加
1,386
あなたにおすすめの小説

ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。


俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。

親衛隊総隊長殿は今日も大忙しっ!
慎
BL
人は山の奥深くに存在する閉鎖的な彼の学園を――‥
『‡Arcanalia‡-ア ル カ ナ リ ア-』と呼ぶ。
人里からも離れ、街からも遠く離れた閉鎖的全寮制の男子校。その一部のノーマルを除いたほとんどの者が教師も生徒も関係なく、同性愛者。バイなどが多い。
そんな学園だが、幼等部から大学部まであるこの学園を卒業すれば安定した未来が約束されている――。そう、この学園は大企業の御曹司や金持ちの坊ちゃんを教育する学園である。しかし、それが仇となり‥
権力を振りかざす者もまた多い。生徒や教師から崇拝されている美形集団、生徒会。しかし、今回の主人公は――‥
彼らの親衛隊である親衛隊総隊長、小柳 千春(コヤナギ チハル)。彼の話である。
――…さてさて、本題はここからである。‡Arcanalia‡学園には他校にはない珍しい校則がいくつかある。その中でも重要な三大原則の一つが、
『耳鳴りすれば来た道引き返せ』

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる