sweet!!

仔犬

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dance!

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「唯斗」

一気に視界が真っ暗になったと思ったら氷怜先輩の手だった。ドッドッとうるさい心臓にようやく酸素が送り込まれていく。

氷怜先輩の手を握りソファに腰を下ろし直ぐに前に向き直した。
静かな口調で氷怜先輩が言う。

「見過ぎ」

「ごごごめんなさい!め、目が合っちゃったぁあ」

「あーあー」

李恩がやると思ったと大袈裟に声を出すとおれよりもアゲハさんが申し訳なさそうにハッとする。

「私が見てるなんて言っちゃったからよね?!ごめん……!」

「え?!アゲハさんのせいじゃないんです!おれが」

「そう!なんで見ちゃうわけ……あほ唯!!」

両手で黒髪美少女麗央がおれの頬を力一杯潰してくれる。もはやもっとやってくれええ状態だ。
泣きそうな顔になるが氷怜先輩の手がおれの手を握り返す。

「別にその格好なら問題ない」

「……ああ、一致した。やっぱりキツネと鶚だ」

李恩がいつの間にかスマホを片手に持ちながら氷怜先輩を見る。下の階にいる人をどうやって確認したのかは分からないがオレンジの髪の人と水色の髪色の人はキツネさんと鶚さんで間違いがないらしい。

「……って事は鶚さんもヘッドイーター……なんです、か?」

「なんだこう言うことの察しはいいんだな唯、まだはっきりとは決まってない。ま、でもその可能性でかいだろうな。幹部の双子が警戒してるそうだ」

李恩の言葉に神さんと才さんは秋のところで鶚さんを見たんだと思い出す。秋は大丈夫なのだろうか。ダンスに行けばあの人と当たり前に接触することになる。

て事はだ。優も秋も既にヘッドイーターに遭遇していたから氷怜先輩も心配して今日来てくれたんだろう。しかもこうしてちゃんとそれっぽい人に出会ってしまうおれって……。


「おれってやっぱり、本当にトラブル引き寄せ体質なんだ……」

「今さら……くくっ」


全力で項垂れたら意外にも氷怜先輩が笑い出す。目があってしまったおれを咎める事もしなかった。


「飛び出してもないし、覗いて良いって俺が言った。お前が落ち込む必要は無い」

「うう……でもお」


何か後ろ髪を引かれるような、不安になるようなこの気持ち。おれを見つめるヘーゼルグリーンの目は優しい。でも知っているから、この目がギラギラと別の表情をすることも。


「……ちょっとだけ似てたから」

「ん……?」

「目が、似てました」


似てるから、怖いんだ。
氷怜先輩の口が何かを言おうと動いたけど視線の先は違う場所を追っていた。

「いやね、みんなして暗い顔」

「サクラちゃん!」


アゲハさんが嬉しそうに手を振ると淡いクリーム色の優雅なドレス姿のサクラ姉さんが微笑んでいる。久しぶりの女神の姿に一瞬でスイッチが入った。


「サクラ姉さん!お久しぶりです。今日も美しい」

「こんばんは。相変わらず嬉しいこと言ってくれるんだからもう。美少女の姿なのに女性を褒めるとちゃんと男の子になるの本当に不思議ねえ……」

くすりと笑ったサクラ姉さんにへにゃへにゃになるがサクラ姉さんの顔つきがすぐに真面目な表情に。なんだか嫌な予感がしたのか麗央がおれの手を握った。


「名前、分かったわよ」

氷怜先輩は目だけで続きを促した。

「優夜君が会ったっていうキツネは八神 希弧やがみ きこ、秋裕くんのダンスチームに入った水也 鶚みずや みさご、それから……鰐渕 白わにぶち はく、白い髪に赤い目の子ね」

目があった人だ。
氷怜先輩に目が似てるってだけでこんなにドクドクしてる理由は話題のヘッドイーターのトップだからなのだろうか。そうじゃ無いと願いたい。流石のおれでも嫌な予感がヒシヒシとする。

「他にも今日いるメンバーみんな動物の名前がつくの、恐らく今日が全員かは分からないけどヘッドイーターの可能性は高いわ。あとでちゃんとまとめたものを連絡するけど……」

いつもお仕事で毅然としているサクラ姉さんが不安そうに手を胸の前でさすった。


「なんだか雰囲気が、今までの相手とは比べ物にならなかったわ」




だから少し心配になっちゃった。

サクラ姉さんもおれと同じ気持ちだ。あの目がずっとおれを見ているような、そんな緊張感と確かな不安が消えないんだ。






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