375 / 379
dance!
12
しおりを挟む「やっぱり、唯ちゃんは唯ちゃんね~」
ピンクのティントリップをおれに塗りながらアゲハさんが微笑んだ。キャッキャしてる時は同い年のような感覚になるけどふわりと笑うとやはりお姉さん感があるなぁ。
「と言うと?」
「だって唯ちゃん、知れば知るほどちゃんと男の子なんだもん~。でも今はきゃわきゃわ唯ちゃん!」
嬉しそうに笑うアゲハさんに微笑み返しながら、唯ちゃん呼びになんだか懐かしさを感じた。昔そう呼ばれてたような気がするんだよな、いやおれも自分の事そう呼んでたんだっけ?椎名がなんか言っていたような。
「今度はこれ!」
「はいはい」
もうお好きにどうぞと麗央が観念しながらまた新しいドレスに着替える。
ふと、先に上へ向った先輩たちを思い出す。
一瞬なんだけど、なんだかさっきの氷怜先輩に違和感があったような気がする。氷怜先輩に雰囲気が似てる人を見たいって言った時、李恩と一緒に何かを考えているような表情。
「……うーん、でも本当にダメってわけでもなかったしな」
「何?どうかしたの」
麗央に覗き込まれすぐさま首を振る。
「いや、大丈夫!」
「……李恩ちょっと変な顔してたよね」
「へ?」
ポツリと麗央が言う。
李恩もそれにぴよちゃんもいつも通りに話していたけどなんだか難しい話をした後みたいな顔をしていた。
李恩と麗央っていつも言い合いしてるけどなんだかんだお互いのことをよく見てて信頼してる。
「おれも氷怜先輩がいつもとちょっと違う気がしてて……でも何でもかんでも聞くの良くないからなぁー」
おれがそう言うと麗央は眉を寄せた。格好が美少女なので女の子を困らせた気分になってしまう。
「そんなに良い子でたまに心配になるんだけど……」
「いやん、麗央がおれの心配してくれるなんて照れちゃう~!」
「そうやっていつも通りのふりして茶化すところも……あほだけど愚かな馬鹿じゃないから唯ってやりづらかったんだよね」
「す、すごいこと言われているね?」
でもそれはプラスに働いておれと麗央は今に至るので、仲良くなれたから良かったのだ。
アゲハさんはウキウキでヘアアクセを選び始めた。
「なんだか心配してるみたいだから、とびきりの別人級の女の子に変身しないとね。ついでにウィッグも2人の元の髪と真逆の黒髪で合わせちゃいましょ~」
さすがだアゲハさんのこの気負わせない気遣いに拳を握ったら麗央も麗央でさすがアゲハと自慢げな顔。やはり女の子は偉大だ。
真っ黒の艶髪に真っ黒のドレスはフリフリと可愛いくてお姫様のようだ。靴まで黒に揃え麗央と姉妹になれそうなコーデで先輩達のいる2階の席に到着するとぴよちゃんが心底嫌そうな顔をした。
「アゲハさんの力作なのにそんな顔!?褒めてよーぴよちゃん!!」
「化け物じみた可愛さに恐怖抱いてんだよ……」
「褒められて、る……???」
複雑な文章だったので理解を深めるのは止めてしまった。ソファに足を組む氷怜先輩が自分の隣を指先でトントンと叩くそこにすぐさま座ると大きな手で優しく黒髪を持ち上げた。
「黒は、珍しいな」
耳元で小さく可愛いとか言うのダメージでかいからやめてください、心臓バクバクもの。
麗央もおれの隣に座り何も言わないけどキラキラの目線でこちらを見ている。吹っ切れてからと言うものおれと氷怜先輩を見る麗央の目がだんだんとハートになってきている気がしてそれもそれで恥ずかしい。
ちなみに麗央には前は悔しかったけど今は見てると栄養になる、とか言われたのだ。
そんなこと告白しちゃう麗央は大好きだけど見過ぎなので氷怜先輩に照れると麗央にも見られてさらに恥ずかしくなる。しかも今日はアゲハさんまでキラキラで見つめているし無言で連写されているしで逃げ場がゼロ!
「お前にしては珍しいの着てるな」
「……唯がメイクしてくれたから」
李恩が麗央に声をかけると、小さく笑って返事をした。実は前はあんまり可愛い系の着てくれなかったんだよ。とアゲハさんがこっそり教えてくれて、おれのメイクがあると可愛いのも着てくれるんだと分かったら嬉しくてたまらない。
「似合ってんじゃねえの」
「あっそ……」
李恩も麗央と口喧嘩ばかりだけどちゃんと褒めるときは褒めるしなんだかんだ2人の絆はしっかりとある。
「で、こいつに似てるってやつ何処にいんだよ」
ぴよちゃんが下のフロアを覗くとアゲハさんは連写していた手を止めてソファから立ち上がる。吹き抜けになっているこの2階からは下のフロアが全て見渡せた。
「いた、あそこよ。このすぐ下の10人くらいのお客様。キラネも蝶子もいるでしょう?」
おれも麗央もソファの背もたれに向かい直して膝をついてそっと覗き込む。上からだと顔が見えないけどすぐにわかった。髪色だけでもド派手だったから。それに、その髪色に問題がある。
「……んー?」
氷怜先輩も李恩も何故か覗き込もうとしない。おれは実物を見ていないけどあんなにド派手な色がこんなに被ったりするだろうか。
「あのー、氷怜先輩……キツネさんの髪色ってオレンジって話でしたよね」
優からキツネさんの髪は一見暗かったけど、根元がオレンジだからそっちが本当の髪色だと思う、と教えてもらっていた。
「……ああ」
ゆっくりとグラスを持ち上げながら静かに返事が来る。おれはさらに続けた。
「それであの、最近秋からダンス関係の人で水色の髪色の人がいるって聞いてて」
気になるのは水色の髪色の人の名前が鶚だった事だ。氷怜先輩がいつかおれに質問した、最近動物の名前の人が現れなかったかと。
鶚は、よく考えれば鳥の名前だ。
色々察した。
キツネさんというヘッドイーターが居て、さらに氷怜先輩の質問。それはつまりヘッドイーターと動物の名前の人は関係していると言う事だ。
今度は氷怜先輩から相槌もなかった。
「ちょっとその特徴があってる人達が同じ席に座ってるなーとか思いまして……」
偶然にしては出来すぎていないか。
そういってもまだ氷怜先輩は向きを変えたりしなかった。麗央がおれの腕を引っ張る。この雰囲気を悟ったのだ。
ぴよちゃんは覗き込んだまま何かを確認するように黙り、アゲハさんは不思議そうな顔をする。
「知り合いがいるの?」
「知り合いでは無いんですが……」
「そうなの?でも、こっち見てる」
「え?」
思わず、条件反射だった。自分でばか!と心の中で思った時にはもう遅い。目が合ってしまった。
水色の人でもオレンジの人でも無い。
真っ白なシルバーブロンドの髪。艶のある髪はワックスで束感があってやはり動物のような、それも肉食のようなイメージだ。
シルバーのピアスに赤い瞳は初めて氷怜先輩に会った日の事を思い出す。
たしかに少しだけ似てる。
あの全てを食らい尽くすような、瞳の輝きが。
24
お気に入りに追加
1,391
あなたにおすすめの小説
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・不定期
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
コンビニごと異世界転生したフリーター、魔法学園で今日もみんなに溺愛されます
はるはう
BL
コンビニで働く渚は、ある日バイト中に奇妙なめまいに襲われる。
睡眠不足か?そう思い仕事を続けていると、さらに奇妙なことに、品出しを終えたはずの唐揚げ弁当が増えているのである。
驚いた渚は慌ててコンビニの外へ駆け出すと、そこはなんと異世界の魔法学園だった!
そしてコンビニごと異世界へ転生してしまった渚は、知らぬ間に魔法学園のコンビニ店員として働くことになってしまい・・・
フリーター男子は今日もイケメンたちに甘やかされ、異世界でもバイト三昧の日々です!
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
BL学園の姫になってしまいました!
内田ぴえろ
BL
人里離れた場所にある全寮制の男子校、私立百華咲学園。
その学園で、姫として生徒から持て囃されているのは、高等部の2年生である白川 雪月(しらかわ ゆづき)。
彼は、前世の記憶を持つ転生者で、前世ではオタクで腐女子だった。
何の因果か、男に生まれ変わって男子校に入学してしまい、同じ転生者&前世の魂の双子であり、今世では黒騎士と呼ばれている、黒瀬 凪(くろせ なぎ)と共に学園生活を送ることに。
歓喜に震えながらも姫としての体裁を守るために腐っていることを隠しつつ、今世で出来たリアルの推しに貢ぐことをやめない、波乱万丈なオタ活BL学園ライフが今始まる!
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる