sweet!!

仔犬

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misunderstanding!!

7

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「何それ」

キツネさんの冷たい声が響いて風が頬に当たった時には美嘉綺さんはすでに俺から離れていた。数メートル先で何かを避けたのかしゃがんだまま臨戦態勢になっている。

「すごいや、避けたの」

その目の前ではキツネさんが指をバキバキさせ今にも噛みつきそうな瞳で立っていた。無表情だったり鼻歌歌ったりしたと思ったら今度は獣のように目をギラギラさせて目まぐるしい人だ。

「……え」

「優夜さん、動かないでください」


美嘉綺さんの声に思わず頷く。美嘉綺さんの無表情は変わらないけど少し緊張が見えた。怪我はしていないようだけど今の一瞬で何かしらの攻撃をキツネさんがしたらしい。
全く見えなかった俺なんてやっぱり一瞬で捕まったんだろう。


「いいねぇいいねぇ、予想外。正直幹部なんてそこまでじゃ無いって思ってたんだよ。でも意外と良い動きするし、お姫様も面白い。いいねぇ」


キツネさんが何を話しても美嘉綺さんが答えることはない。もともと美嘉綺さん自分から話すタイプでは無いのだけど、チームメンバー以外だとさらに拍車がかかるのかもしれない。


「お姫様とは約束しちゃったし。君代わりに来る?」


そう美嘉綺さんに言ったキツネさんはにたりと笑う。それはとても困る。俺の代わりに誰か行くなら俺が行ったほうがマシだ。


「それなら俺が」

「行きません」


名乗り出そうとしたけど被さるように美嘉綺さんの声が響いた。美嘉綺さんは口数少ないけど話すときはきっぱりとしていてよく通る声だ。立ち上がった彼は手についたゴミを払うと真っ直ぐに相手を見つめる。髪の隙間から覗く端正な顔はやはり無表情だ。


「他のチームに興味が無い」


はっきりと告げる美嘉綺さん。
やっぱりキツネさんは他のチームの人間なわけだ。こんなふうに真っ向からぶつかるなんて大きな組織なのだろうか。でもほとんどのテリトリーが先輩達のものってくらいは俺だって知っている。

「残念、じゃあ力づくで……!」


キツネさんに注目していたお陰で今度はその動きを追えることが出来た。低い体制から美嘉綺さんの胸元に入り込み作った拳をお腹に目掛けて打つ。当たってしまったように見えた美嘉綺さんはぐらりと体制を後ろに倒し避けるのだ。

「また避けた……」


美嘉綺さんの感情は無表情で余裕なのかそうで無いのか俺には分からない。
キツネさんの後ろに回った美嘉綺さんが足を振り上げたがどこに目がついているのかキツネさんはそれを避ける。それからは技の繰り出し合いが数度続いて、一旦お互い距離つくったところでようやく止まった。

「あれ何……?」


こんな映画のワンシーンやっていたら当然周りは注目する。気づいた時にはかなりの人だかりで、これはそろそろお巡りさんも来てしまうのでは無いだろうか。

「あれ、優夜くんだよね?」

あ、喧嘩を見守る俺の方が先に特定されている。俺は別に良いけど美嘉綺さんに迷惑はかけたく無いからできれば速やかに移動したいところだ。

「……美嘉綺さん」

「ちょっと場所が悪いですね」

「ああ、俺もこれ以上騒がれると余計にあいつに怒られそう……仕方ない」


大袈裟にため息をついたキツネさんは脱いで落ちたままのジャケットを拾う。

「あーあ、これ借りたやつなんだよな……これも怒られるかな」

少し泥がついてしまったのかしょんぼりだ。俺も服が汚れたら悲しいのでその反応は納得。まあそもそも落とさなきゃ良いんだけどね。

それにしても借りたものだからジャケットのサイズが大きいのか。キツネさんの口からでる登場人物はあいつとやらだけなのでその人のかと勝手に特定。
キツネさんはジャケットを羽織ると俺に向き直した。


「後で連絡するからね」


名の通りキツネみたいににんまり笑った。
忘れてくれないかなって思ったけど当たり前にそんなことはないか。この人可愛い顔が勿体無いくらい笑顔が悪役なんだよ。

「それにしても、落ちないし」

キツネさんバシバシとジャケットを叩くけど手じゃ落ちないだろう。流石にジャケットの方が可哀想な気がして思わずポッケからハンカチを取り出した。念のため普段よりも一歩離れて差し出す。

「これ、使ってください。返さなくて大丈夫なので」

このハンカチ母親が買ったやつだからフリフリでピンクだなぁとか思いながら差し出すと、何故かキツネさんが固まっていた。


「君って……馬鹿だね」


あれ、やってしまった。
確実に何かのツボを押してしまった笑顔をしている。だって服は汚しちゃダメだ。ハンカチくらい別に良いと思ったんだけど、俺が服のためにしたことはキツネさんのためと認識されたらしい。
面白いとか興味深いとか遊びたいとか弄りたいとかそんな瞳がギラギラとこちらを見ている。目だけじゃなく口元まで弧を描くキツネさんはまさしく狐のように笑っている。
ハンカチの何がそんなにお気に召したのだ。

固まる俺を美嘉綺さんが何も言わずに引っ張った。



「優」



ああ違う、花の匂い。
暮刃先輩だ。
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