sweet!!

仔犬

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rival!!

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まさかあの春さんがこんなにスイスイと他人の家に入って行くとは。
2人は驚きながらも春に続いて玄関に入る。唯の靴も見当たらず、まさか土足で入って行ったのだろうかと優が考察する間にも春は靴を脱ぎ丁寧に揃えていた。2人も急いで靴を脱ぐとリビングに誰もいない事を確かめ次の部屋を探す。

ここのマンションも一般人には十分広いがシェアハウスのおかげというべきか、シェアハウスのせいというべきかすこし狭く感じる。

全部のドアを開けては閉め開けては閉め、最後は寝室だ。

「ってここだけ開かないし!」

「唯ー!いるー?」

優が叫ぶとすぐに返事はきた。いつも通りの元気そうな声。

「え、優?!」

「俺もいるぞー、てか元気なら開けてくれ」

「誰だ?!」

叫び声に近い知らない男の切羽詰まった声。やっぱり普通の状況では無い。秋と優は視線を合わせる。

「ま、まさか誰か助けを呼んだのか?!」

「大丈夫です。友達が心配してきてくれただけで何もしませんから。ほら、とりあえず落ち着いて」

「まず呼吸をちゃんとしろよオッサン」

唯の声に李恩の声、2人とも男を諭している。ベランダから見えた李恩と男の様子からあまり良い展開ではなさそうだ。とは言っても状況さえ把握できればどうにかしてこじ開けたいところ。

「状況も分かんないし、下手に動かない方がいいかも」

すると少し高めの声が聞こえた。

「ねえ、分かったから。あんたの必要な額言ってくれれば用意する。だから離してくれない?」

「だ、だめだ!金を用意するまでお前を離すわけにはいかない……!」

「でも、これじゃあ誰も取りに行けないし、誰かは開放するか、もしくは連絡だけでもさせてよ」

麗央の声は落ち着きがある。
と言うより犯人以外はこの空間の誰もが落ち着いていた。

「だめだ、また誰か呼んだら今度こそこいつを、こ、殺すぞ!」

その話口調はなんだか悪になりきれない感情が現れていた。男の言い分の通りにしていたら何もできずただ時間が流れるだけだ。その事も気付かないほど焦っているらしい。

唯が遠慮がちに声を上げる。

「えっと……あのー」

「なんだ?!」

「では、どうしてお金が必要なのか教えてください。おじさんなんだか不安そうな顔しているしおれたちに事情教えてくれませんか?」

「え……?」

唯の言葉に思わず漏れ出すような犯人の声。
慈愛に満ちた唯らしい質問に李恩は呆れたが、怠惰を貪るためにしては確かに切羽詰まった様子に黙って聞くことにした。

彼は努力の末IT企業の社長で、綺麗な奥さんと子供にも恵まれた幸せな家族だったらしい。それが突然、部下の1人に大きなプロジェクトの情報を他会社に持ち出されてしまい会社の経営が傾き、多大な借金を背負ったと言う。挙句、奥さんにも出ていかれてしまったと。

「典型的なクズ男かと思ったら善人で不憫男だったか……」

配慮の無い李恩の言葉に男は泣き出した。
見えはしないが啜り泣く声が聞こえる。

「同情するくらいなら何故金を持ってこなかった?!」

「だから、これから持ってくるって言ってんだろ!」

「李恩、おじさん、抑えて抑えて」

唯が犯人も李恩までも宥めている。相手は死に物狂いで今回の犯行に及んでいたので李恩達が要求した額を持ってこなかったことで誰も信じられなくなっているのだ。

ドアに耳を張り付けていた3人。やり取りから春は頷いた。


「これは……落ち着いて貰えれば少し平和になるかな」

「ですね……」

「じゃあ君たちの得意分野だ」

「へ……?」

ふんわり笑う彼に流石の秋も優も驚く。この人、こんな時まで穏やかなのか。

「カフェで誰よりもお客様を楽しませてやさしい気持ちで過ごしてもらう事が出来る君達なら大丈夫。それに俺も得意分野だ」

「い、いや春さん流石にあんなに気が動転してたら……それにドアも開かないし」

「ああそうか。じゃあ、まず開けるね」


このマンション、新しい上に作りだって手を抜いている訳ではない。だからこそそんなにこやかに笑いながら蹴って簡単に開くドアなわけはないのだ。



「うっそぉ……」




変な時に笑うところが誰に似ているか確信したのに、吹き飛んだドアを見て2人の脳からも吹き飛んでしまった。

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