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rival!
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しおりを挟む空いたグラスを見つめていたら掛けられた声。一瞬唯斗を思い起こしたが声が違った。まず目の前にいた人間の名前を呼ぶ。
「野島秋裕……」
秋は大袈裟に自分で身体を摩った。
「ふ、フルネームってなんかゾワゾワするから、下の名前で呼んでくれませんか……?」
「良かったら俺もお願いします。あとこれ飲みます?紫苑さんが間違えてお酒入れちゃったんで俺飲めなくて」
優が差し出したのは両手に持っていた全く見た目の同じドリンク。苺がひとつ沈んでいてその周りを気泡が細かく覆っていた。
「飲めばいいのに……」
「いや未成年ですし」
「俺もだけど」
「え」
固まった優に隣で秋が焦ったように話し出した。
「す、すみません。普通に飲んでるし麗央さん可愛いのに大人っぽいし勝手に成人済みと決めつけてました」
秋がそう言えば優まで謝ってくる。
この2人、麗央からすると不思議だった。自分の親友を完全に拒絶をしている麗央に対して驚くくらい普通に接してくるからだ。そして拒絶した本人ですら今日だって嬉しそうに近寄ってきた。
かと言って素直に仲良くできるわけもなく麗央は眉を顰めるが、少し深めに息を吐いて一旦思考をクリアにした。
「まあ、年上ではあるよ……それちょうだい。美味しそう」
「もちろん、どうぞ」
にこりと笑う優は品がいい。
髪の毛の色はミルクティー色だが、元の黒でも綺麗なものだろう。黒目でもハイトーンが似合うのはその造形が整っているからだ。凛として色気があるのは麗央にとって少し羨ましいものだった。傷んでいるようにも見えず綺麗に髪質を保っているし、見た目に出るものは中身でもあると麗央は思う。
「麗央さん、秋とか優って呼ぶの嫌ですか?」
次に笑った秋に目線を移す。
言動は男らしく、人当たりもいい。3人の中で唯一暗い髪色で1番日本人らしい見た目ではあるが、あの豹原瑠衣と並んでいても遜色がない。猫目気味なのにきつい印象もなくて、笑った時にその目尻が下がるとなんとも爽やかである。
麗央としては骨格がとにかく綺麗で見ていて飽きないものがあった。これもまた、羨ましい限りだ。
「……なんで俺に話しかけるわけ?」
秋と優はキョトンとしてお互いに確認するように目を合わせる。
「仲良くなりたいからな?」
「ね」
何を当たり前の事をと言われそうな勢いだ。それが嘘だとも思えないし、本当に裏表がない。唯だってそう感じる、それでも……と麗央はなんとも言えない気持ちになった。
「……悪いけど、今の状態じゃ無理。2人をそう呼んでも高瀬唯斗の事はそう気軽に呼べないから、あいつだけ呼ばないのもそれはそれで気分が悪い。単に虐めたい訳じゃないから、フェアじゃないのは好きじゃない」
自分でも馬鹿らしくなるほどこの気持ちが抑えられない。認められないものには自分が納得いくまで距離を置くしかないのだ。まるで、子供みたい。
「……麗央さんって」
「幼稚って言いたいなら」
「最高ですよねぇ」
「はあ?」
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