sweet!!

仔犬

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kick!!

6

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「リョウさあ、なんで今日これ選んだわけ?」

フードコートで話している2人を遠くから見ていた双子とリョウは柱を壁代わりに向こうからは見えない位置に座っている。
双子には瑠衣にバレバレなのはわかっているがこれ以上離れても見えないし、向こうが移動しないのなら別に良いのだろうと判断した。

リョウは静かに秋達の会話を聞いていて、退屈気味な双子は流石にあくびが出そうだった。

「つーかチームの事は聞かなくていーのー?」

「いや、お前らがきてなんとなく察した。やばいってことが」

「決めつけは良くない!」

ビシッと2人で言われても言い返す気にもならない。実際は秋達が懐いていたのは会った直後に分かったし、あの氷怜も暮刃もリョウには別人のように見えた。秋達がチームの事を居心地がいいと思っているなんて手に取るようにわかりやすい。
元々秋と唯、優は目立っていたしその3人が懐くならそれなりか、それ以上かのどちらかだ。

秋と瑠衣から聞こえる会話につけ入る隙が無いこともリョウは分かっていた。微笑ましいほど気持ちが通じ合っている、いや瑠衣の愛情の強さには恐ろしいものを感じるほどだったが、秋が懐いているのなら問題はないのだ。友達が幸せそうなら、それでいい。

神も才も落ち着いているリョウの様子に呆れ返った。

「あの人が相手じゃどう見たって今日のこれ失敗でしょ。聞いてて辛くねぇの」

「瑠衣さんがあんなに可愛がってんだぜ。誰でも沼にハマるだろ」

「……誰でもじゃ意味ねぇんだよ。あいつの事だけ死ぬ気で思ってくれなきゃシメてやるって思っただけ」

秋が選んだやつなら、結局は誰であっても無理に別れさせるような事はしない。みる目があるし、少し大物過ぎたのは想定外だったが、その大物も秋の人柄で少なからず影響されているように見えた。学校で見たこともない柔らかい笑顔に子供っぽいような一面。秋にしかおそらく引き出せないだろう。


「てっきり難癖つけて」

「別れろーとか言うかと」

テーブルに並んで頬杖をつく2人にリョウはため息をついた。

「この前までただのダチって思ってたやつに付き合ってる彼氏がいるって聞いていまさら恋心に気付いたんだぞ。そんな事言う資格すらねぇじゃん!」

茶目気味の瞳、丸い顔とパーマのかかった茶髪が余計に拗ねて見える。双子は目線を合わすと交互に言う。


「お前はバカだねー」

「バカだねー」

「あ?!」


自分なりの考えを話したと言うのにいつもの調子でからかう双子にリョウが怒る。

「俺らは知ってたよ」

「お前の子供みたいな恋心」

何を突然言い出すのかとまた怒りそうになったその時、同時に双子で真顔になるので思わず固まった。綺麗な顔が瞬時に切り替わるとこうも恐ろしいのか。

「な、なに、どうしたんだよ」

「いやーごめん。リョウ」

「え?」

「俺らの趣味ダンスっての嘘でさ」

「は?突然なんだよ。てかそんなのはもう知って……」

「双子で戦える機会増やしたくて俺らのチーム狙ってる奴ら迎え撃ちに行くのが趣味でさー」

「え……?」

不穏な告白に訝しげな顔をするリョウ。
突然立ち上がった2人はそんな時でもタイミングは全く一緒だ。しかもどこを見ているのかと思えばリョウを通り過ぎた後ろの何か。振り向けば随分と柄の悪いひとだかりが出来ていた。

「だ、誰。お前らの友達か?」

「まさか、オレらこんな下品な友達いないし」

「てか、誰だっけ?」

同じ方向に首を捻る双子に相手は嫌悪感をあらわにした。そして血走ったように言う。

「お前らがこの前荒らしてくれたうちのテリトリー、忘れたとは言わせねぇよ!」

そう叫ぶと神はあーと呑気な声を上げる。

「この前……デルマン?ゾンギ?バルハラ?ストーンズ?」

「あとなんかあったよな……チョ、チョンマゲ?」

「違うってチョンマグ」

リョウには呪文か何かを呟いているようにしか見えないが、今出た名前は全て別のチーム名である。とは言え殆どのテリトリーは氷怜達が仕切っているため、どのチームも勝手に居座っているだけだ。
相手は最後の名前に反応してさらに地を這うような声を絞り出す。


「お前らなぁ……俺らがそのチョンマグだ……!」

「へー、それにしても」

「なんでチョンマゲなんて名前にしちゃったのさー」

「うるせえな!!しかもチョンマグだって言ってんだろ!!」

もう血管が浮くほど憤怒する相手にリョウは怯えて神と才の腕を掴む。

「おい、なんで煽るんだよ!」

「いやぁだってさ」

「売られた喧嘩は買うのがモットー」

「まあ先に売ったのこっちだけど」

「たしかに!!」

あ、こいつらやっぱあのno nameだ……。
爆笑する2人にリョウは絶望した。なんで今まで気がつかなかったんだ。細身に見えた2人の掴んだ腕はかなり筋肉が付いている。

しかも2人の綺麗な顔が徐々に獣と化していく。

「へーで?なに、この数なら勝てるって?」

「バカでしょバカでしょ。リョウよりバカ」

こんな時に俺と比べなくて良い!
そう思った時には目の前で2人が駆け出していた。絶対にこんな人数勝てるわけがない。だいたいここ他の人も居んのに……と思ったらこの騒ぎで近付いてくる人なんて居なかった。

しかもあの双子のいつものお調子者ぶりが嘘のようだ。獣みたいな顔をしながら相手を蹴り上げている。5人がかりでも遠く及ばない、その細身でどこに力が宿っているのか、踊るみたいになぎ倒していく。

「マジかよ……」

俺は今までこんな奴らにうるせえとか言ってたんだ。とか気づいてしまってリョウは今更後悔してきた。
まあ、もういい。あとで怒られたって良いけど、今はとりあえず邪魔にならなそうなところに行かないと。

そう思ってゆっくり後ろに下がる。静かに気付かれないようにと、後ろを見ないで下がっていると何かに当たる。感触が人間だったので思わず謝った。

「あ、すみませ……」

「お前あの双子の友達?戦えなさそうだな」

にやりと笑われた。
やばい。あいつらの仲間だ。ぎりりと掴まれた肩が痛いし動けない。嫌味を隠そうとしない笑顔に恐ろしくなった。
体を動かすのは得意でも喧嘩なんて一度もしたことが無かった。瑠衣先輩ならこんな時でも秋をきっと守れるんだろう。

「こいつ人質にしろ!!」

後ろから羽交い締めにされてしまうともう諦めるしかない。せめて迷惑にはなりたくなかったのに。



「ねぇ、ウルサイんだけど」


聞こえてきた言葉が瑠衣先輩だと気づく頃には何故か俺を捕まえていた人間が宙を舞っている。え、人間ってあんな高く飛ぶんだ……と見当違いなことを考えていると秋の顔が目の前に。

「リョウ大丈夫か?!ってか飛ばし過ぎっすよ瑠衣先輩!!」

「天井高いからネェ」

「いや理屈がわからん」

何故かパフェをもった瑠衣と秋を呆然と見ながらリョウは次に双子に目を移す。すっかり出来上がった倒れた人の山に似合わない清々しい笑顔で双子がこっちに手を振ってきた。

「リョウ悪いー!」

「大丈夫かー?」



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