sweet!!

仔犬

文字の大きさ
上 下
268 / 379
word!!

1

しおりを挟む




「それで俺様が呼び出された訳かー」

「神様仏様柚様~!」


唯が策を思いついた、と言うのでバイトを終えてダンススタジオに行ってみたらゆずさんがいた。先輩のクラブの専属のカメラマンであるこの人とはわりと最近出会ったばかりだ。


「今よりも注目度をあげたい、ね」

いつも上がっている口角。
黒髪は目が隠れるくらい長いけど、さすがあのクラブの人間、やっぱり整った顔だ。しかも羨ましくなる細さで密かに目指してると言ったら暮刃先輩が心底やめて欲しそうな顔をして必死にもう十分細いから、ね?と諭すのが俺的にツボだった。
そこまで考えると今このギクシャクした状況を余計に感じてしまい、すぐにその思い出は仕舞い込む。今はとにかく目の前のことを。

「もちろん俺たちも被写体全力でやりますが、今回は柚さんの力を借りてしまうどころか全面的にその腕を使ってしまうと言うか……」

「俺興味ある人間しか撮らないから別に今までと変わんなくね?むしろラッキー!」


そう言いながら既に写真を撮り始めている柚さんはいつでもどこでもカメラを持っていて、その写真にはものすごい魅力が詰まる。今アカウントのフォロワーが伸びているのも紫苑さんとこの人のおかげだ。

今回、柚さんの力を借りて今までよりもアカウントに力を入れる。そしてちょっと有名な人、ではなく完全に顔を覚えてもらい、下手に周りもちょっかいが出せなくなると言う唯らしい考えだ。

「おれよく、人が沢山いる場所にいるからいつも話しかけられなくて……って言われるからさぁそういう人は自分からこんにちはってしにいくけど、逆手にとれば危ない人達も注目度が高いから大っぴらに手が出せなくなるでしょ?」

「人気が定着すれば少し安心なとこに行けるかもな」

秋は同意して何もしないより何かした方が良いと賛成だ。俺も賛成ではあるけどいかにも目立つ事に些かのハードルがある。服だけは目立ってもいいけど私生活そんなに目立ちたい欲は無くて。唯がいるとちょうど隠れてたような気もするけど、今回顔もしっかり載せていく。

「今まで横顔とか、首から下が多かったからなぁ」

「でも雑誌の時は顔乗ってたよ?」

「趣味って思ってたから、今回の心持ちの問題」


またこう言うとこで少し悩むのが俺だな。やる事は決めてるけど、後は自分で背中を押すだけだ。

「俺としてはマジで本気で被写体してくれんならサイコーだわ!いいんじゃ無いの?あの人達もそんな感じなんだから同じ場所で物事見れんじゃん、少なからず変わることもあるでしょ。てかさー」

嵐のように話すと床に座った彼はニヤリと笑う。

「暮刃さんと喧嘩とか、やるねぇ」

「楽しそうな顔……」

「だってぜっーーーたいそんな面倒な事しないからあの人」

「まあ俺もこんなに他人とギクシャクしたの久しぶりですよ……はあ」


同じようにしゃがんで膝の上で項垂れたらそんな姿すらカメラに収めていくので、横目で見ながら聞いてみた。

「……踊ってもないのにいい写真撮れます?」

「いい色してる奴は何しても良いよ」


シャッターの音に加えてダンスミュージックが流れ始めた。スピーカーの前で秋と唯が選曲を始める。


「これ、最近のお気に入り」

「秋は縦ノリ好きだよねぇ!あ、柚さーん踊ってていいんですか?」

「お好きにどーぞ?」


2人はストレッチを兼ねた軽いステップでけらけら踊り出す。柚さんは自然体でいいと言うので、秋も唯もふざけて変なポーズを合間で取ったり本当にいつも通り遊んでいるだけだ。

その光景を見つめる俺に柚さんにしてはおとなしい声がする。

「良いじゃん。ぶつかってその作用でイイモンができる。それが綺麗な色になるからさ」


ファインダーを覗く横顔は真っ直ぐその世界を見つめている。

彼の世界は色で構成されて見え、それが1番光る瞬間をカメラに収めることでいい写真が撮れるらしい。
俺にはわからない感性だけど、カメラに入り込む柚さんを見てると納得するほど、細い指がシャッターを切るタイミングは外れないのだから。


「柚さん、喧嘩した事あります?」

「ない!喧嘩すんなら撮る!」


やっぱり。
カメラから視線を外すと途端に子供のような笑顔になるこの人は写真以外に興味ないからまず喧嘩にならなそう。明快で心地がいい人だ。この人を少しばかり見習うべきなのかもしれない。

今回のは俺が勝手に悩み始めた現状では解決しない問題。だったら解決するように持っていくしか無い、あんまり目立つのは得意じゃ無いけど唯と秋が親友の時点で穏やかな日々なんてつまらないとさえ感じてしまうはず。

パンッと両手を頰を叩くと少し目が覚めた。

「どしたの、優」

俺にしては珍しい気合の入れ方に親友が呆気に取られている。それがちょっと面白くて笑ってしまった。


「気合入ったから、宜しく」






しおりを挟む
感想 179

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

変態高校生♂〜俺、親友やめます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
学校中の男子たちから、俺、狙われちゃいます!? ※この小説は『変態村♂〜俺、やられます!〜』の続編です。 いろいろあって、何とか村から脱出できた翔馬。 しかしまだ問題が残っていた。 その問題を解決しようとした結果、学校中の男子たちに身体を狙われてしまう事に。 果たして翔馬は、無事、平穏を取り戻せるのか? また、恋の行方は如何に。

a pair of fate

みか
BL
『運命の番』そんなのおとぎ話の中にしか存在しないと思っていた。 ・オメガバース ・893若頭×高校生 ・特殊設定有

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

親衛隊総隊長殿は今日も大忙しっ!

BL
人は山の奥深くに存在する閉鎖的な彼の学園を――‥ 『‡Arcanalia‡-ア ル カ ナ リ ア-』と呼ぶ。 人里からも離れ、街からも遠く離れた閉鎖的全寮制の男子校。その一部のノーマルを除いたほとんどの者が教師も生徒も関係なく、同性愛者。バイなどが多い。 そんな学園だが、幼等部から大学部まであるこの学園を卒業すれば安定した未来が約束されている――。そう、この学園は大企業の御曹司や金持ちの坊ちゃんを教育する学園である。しかし、それが仇となり‥ 権力を振りかざす者もまた多い。生徒や教師から崇拝されている美形集団、生徒会。しかし、今回の主人公は――‥ 彼らの親衛隊である親衛隊総隊長、小柳 千春(コヤナギ チハル)。彼の話である。 ――…さてさて、本題はここからである。‡Arcanalia‡学園には他校にはない珍しい校則がいくつかある。その中でも重要な三大原則の一つが、 『耳鳴りすれば来た道引き返せ』

処理中です...