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しおりを挟む「それで俺様が呼び出された訳かー」
「神様仏様柚様~!」
唯が策を思いついた、と言うのでバイトを終えてダンススタジオに行ってみたら柚さんがいた。先輩のクラブの専属のカメラマンであるこの人とはわりと最近出会ったばかりだ。
「今よりも注目度をあげたい、ね」
いつも上がっている口角。
黒髪は目が隠れるくらい長いけど、さすがあのクラブの人間、やっぱり整った顔だ。しかも羨ましくなる細さで密かに目指してると言ったら暮刃先輩が心底やめて欲しそうな顔をして必死にもう十分細いから、ね?と諭すのが俺的にツボだった。
そこまで考えると今このギクシャクした状況を余計に感じてしまい、すぐにその思い出は仕舞い込む。今はとにかく目の前のことを。
「もちろん俺たちも被写体全力でやりますが、今回は柚さんの力を借りてしまうどころか全面的にその腕を使ってしまうと言うか……」
「俺興味ある人間しか撮らないから別に今までと変わんなくね?むしろラッキー!」
そう言いながら既に写真を撮り始めている柚さんはいつでもどこでもカメラを持っていて、その写真にはものすごい魅力が詰まる。今アカウントのフォロワーが伸びているのも紫苑さんとこの人のおかげだ。
今回、柚さんの力を借りて今までよりもアカウントに力を入れる。そしてちょっと有名な人、ではなく完全に顔を覚えてもらい、下手に周りもちょっかいが出せなくなると言う唯らしい考えだ。
「おれよく、人が沢山いる場所にいるからいつも話しかけられなくて……って言われるからさぁそういう人は自分からこんにちはってしにいくけど、逆手にとれば危ない人達も注目度が高いから大っぴらに手が出せなくなるでしょ?」
「人気が定着すれば少し安心なとこに行けるかもな」
秋は同意して何もしないより何かした方が良いと賛成だ。俺も賛成ではあるけどいかにも目立つ事に些かのハードルがある。服だけは目立ってもいいけど私生活そんなに目立ちたい欲は無くて。唯がいるとちょうど隠れてたような気もするけど、今回顔もしっかり載せていく。
「今まで横顔とか、首から下が多かったからなぁ」
「でも雑誌の時は顔乗ってたよ?」
「趣味って思ってたから、今回の心持ちの問題」
またこう言うとこで少し悩むのが俺だな。やる事は決めてるけど、後は自分で背中を押すだけだ。
「俺としてはマジで本気で被写体してくれんならサイコーだわ!いいんじゃ無いの?あの人達もそんな感じなんだから同じ場所で物事見れんじゃん、少なからず変わることもあるでしょ。てかさー」
嵐のように話すと床に座った彼はニヤリと笑う。
「暮刃さんと喧嘩とか、やるねぇ」
「楽しそうな顔……」
「だってぜっーーーたいそんな面倒な事しないからあの人」
「まあ俺もこんなに他人とギクシャクしたの久しぶりですよ……はあ」
同じようにしゃがんで膝の上で項垂れたらそんな姿すらカメラに収めていくので、横目で見ながら聞いてみた。
「……踊ってもないのにいい写真撮れます?」
「いい色してる奴は何しても良いよ」
シャッターの音に加えてダンスミュージックが流れ始めた。スピーカーの前で秋と唯が選曲を始める。
「これ、最近のお気に入り」
「秋は縦ノリ好きだよねぇ!あ、柚さーん踊ってていいんですか?」
「お好きにどーぞ?」
2人はストレッチを兼ねた軽いステップでけらけら踊り出す。柚さんは自然体でいいと言うので、秋も唯もふざけて変なポーズを合間で取ったり本当にいつも通り遊んでいるだけだ。
その光景を見つめる俺に柚さんにしてはおとなしい声がする。
「良いじゃん。ぶつかってその作用でイイモンができる。それが綺麗な色になるからさ」
ファインダーを覗く横顔は真っ直ぐその世界を見つめている。
彼の世界は色で構成されて見え、それが1番光る瞬間をカメラに収めることでいい写真が撮れるらしい。
俺にはわからない感性だけど、カメラに入り込む柚さんを見てると納得するほど、細い指がシャッターを切るタイミングは外れないのだから。
「柚さん、喧嘩した事あります?」
「ない!喧嘩すんなら撮る!」
やっぱり。
カメラから視線を外すと途端に子供のような笑顔になるこの人は写真以外に興味ないからまず喧嘩にならなそう。明快で心地がいい人だ。この人を少しばかり見習うべきなのかもしれない。
今回のは俺が勝手に悩み始めた現状では解決しない問題。だったら解決するように持っていくしか無い、あんまり目立つのは得意じゃ無いけど唯と秋が親友の時点で穏やかな日々なんてつまらないとさえ感じてしまうはず。
パンッと両手を頰を叩くと少し目が覚めた。
「どしたの、優」
俺にしては珍しい気合の入れ方に親友が呆気に取られている。それがちょっと面白くて笑ってしまった。
「気合入ったから、宜しく」
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