256 / 379
secret!!!
5
しおりを挟む
氷怜の膝から脱兎の如く逃げた唯を見つめ、氷怜は仕方なくグラスを持ち上げた。笑いを堪える瑠衣が震える腕で酒を注ぐ。
「あいつは本当に反省してんのかよ……」
「……ブフッ……唯ちんやるうぅっ……ブッアハハハ!!」
堪えもすぐに限界を迎え、ゲラゲラと笑う瑠衣に氷怜が小突く。するとそれをひょいと避けソファに向かうと氷怜は諦めた。相変わらずの身のこなしは酒に関係する事はない。
人影に気付いた優が薄く目を開けた。
「……あれ、寝てました?」
「ちょっとだけ~」
瑠衣の手が優の額を滑ると暖かさに目を細める。
震えるほど寒かったが、今はだいぶマシになった。未だ握り締めていた暮刃のコートを見て次に瑠衣と氷怜を見上げる。頭が痛くて寒くてクラブでは謝れなかったと、優はようやくいつも通りの呼吸をして眉を下げて口を開いた。
「……心配させてごめんなさい」
「まー大人だからー許してあげましょう?」
今更の事に瑠衣は少し目を丸くするが、それでもすぐにふざけた彼にようやく優が小さく笑う。はっきりと謝った事、そして和ませる返事に何かが軽くなった。
「……うん、ちょっと元気出ました」
「オレがいる事で世界平和だからネ~?」
「いつもお前の周りに気絶したやつ1番転がして何言ってんだよ」
「勝手に転がってるだけです~」
やりとりにくすくす笑いながらゆっくり体を起こした優は、ふと着ているドレスに目がいった。可愛いドレスはさすがアゲハのもの、デザインだけでなく体のラインもすごく綺麗に出る。だがふと改めてその丈に疑問を感じた。
「あれ、こんなに丈短いやつだったかな」
「優たんまでそんな事言ってるとゲームオーバー」
「え?」
両手を上げた瑠衣に優が不思議そうに首をかしげると氷怜は大きくため息をついた。今まで優が頭を乗せていた柔らかい皮張りの肘掛けに体重を乗せると腕を組む。
「いざスイッチ入るとお前らは本当何も見ねえな……」
優はすみませんと謝りながら、だんだんと頭がクリアになってきたのを感じる。そうなると何故今回は周りが見えなくなったのかを考え始めるのは優のくせだ。
「……秋と俺、女装に関してはそもそも男だしって言う捨てきれないオスの精神があるから……あんまりこう、心配と言う境地にいかないんですよね」
「唯ちんも?」
「唯はそんなの意識してません。より良くするためにはどうするのかって方が唯は大事だと思うので」
「あーそんな感じダネ」
「後は……見た目に関してはそれなりだと思っているので」
「素直!!」
否定のしようがなく、その見た目はひと受けが良い。唯も秋も優も何故か目につくのは、派手以前にその持って生まれた素材、それを活かす術が誰よりも上手いのだ。
あっけらかんと言う優に瑠衣は笑いながらその話を興味深そうに聞いているが、これかなり珍しいのだと氷怜いつも静かに感心していた。
基本的にチームの重要な人間しか覚えられない節がある。だが唯と秋、優に対しては世話まで焼くようになったのだから、氷怜からするとようやく他人に興味を持ったかと言うところだ。
氷怜が黙ったことに気付き、下手に話しすぎたと慌てた優が小さく手をあげた。
「あの、これは反省していないわけでは無いです……」
「お前が良く頭が回るのは知ってるよ」
安心させる大きな手が氷怜から伸びる。
目を細めた優に氷怜は一度だけ糸口に口を出す事にした。
「今みたいなやつ、暮刃と話したのか」
「……んー」
優にしては珍しく言葉を濁し曖昧に笑うだけだった。
氷怜は目線をずらし、唯と秋のいる風呂場を目で指す。
「……ほら、お前も風呂入ってこい、だいぶ回復したろ」
「ほいー着替え持ってきてあげたヨ」
「秋裕がな」
受け取った優は笑ってお風呂に向かっていく。
氷怜はタバコに火をつけ瑠衣の横に深く座ると、煙を吐き出した。白が空気に溶けると瑠衣が首を傾げて言う。
「ゼントータナンー?」
「四字熟語でその話し方はやめろ……」
「あいつは本当に反省してんのかよ……」
「……ブフッ……唯ちんやるうぅっ……ブッアハハハ!!」
堪えもすぐに限界を迎え、ゲラゲラと笑う瑠衣に氷怜が小突く。するとそれをひょいと避けソファに向かうと氷怜は諦めた。相変わらずの身のこなしは酒に関係する事はない。
人影に気付いた優が薄く目を開けた。
「……あれ、寝てました?」
「ちょっとだけ~」
瑠衣の手が優の額を滑ると暖かさに目を細める。
震えるほど寒かったが、今はだいぶマシになった。未だ握り締めていた暮刃のコートを見て次に瑠衣と氷怜を見上げる。頭が痛くて寒くてクラブでは謝れなかったと、優はようやくいつも通りの呼吸をして眉を下げて口を開いた。
「……心配させてごめんなさい」
「まー大人だからー許してあげましょう?」
今更の事に瑠衣は少し目を丸くするが、それでもすぐにふざけた彼にようやく優が小さく笑う。はっきりと謝った事、そして和ませる返事に何かが軽くなった。
「……うん、ちょっと元気出ました」
「オレがいる事で世界平和だからネ~?」
「いつもお前の周りに気絶したやつ1番転がして何言ってんだよ」
「勝手に転がってるだけです~」
やりとりにくすくす笑いながらゆっくり体を起こした優は、ふと着ているドレスに目がいった。可愛いドレスはさすがアゲハのもの、デザインだけでなく体のラインもすごく綺麗に出る。だがふと改めてその丈に疑問を感じた。
「あれ、こんなに丈短いやつだったかな」
「優たんまでそんな事言ってるとゲームオーバー」
「え?」
両手を上げた瑠衣に優が不思議そうに首をかしげると氷怜は大きくため息をついた。今まで優が頭を乗せていた柔らかい皮張りの肘掛けに体重を乗せると腕を組む。
「いざスイッチ入るとお前らは本当何も見ねえな……」
優はすみませんと謝りながら、だんだんと頭がクリアになってきたのを感じる。そうなると何故今回は周りが見えなくなったのかを考え始めるのは優のくせだ。
「……秋と俺、女装に関してはそもそも男だしって言う捨てきれないオスの精神があるから……あんまりこう、心配と言う境地にいかないんですよね」
「唯ちんも?」
「唯はそんなの意識してません。より良くするためにはどうするのかって方が唯は大事だと思うので」
「あーそんな感じダネ」
「後は……見た目に関してはそれなりだと思っているので」
「素直!!」
否定のしようがなく、その見た目はひと受けが良い。唯も秋も優も何故か目につくのは、派手以前にその持って生まれた素材、それを活かす術が誰よりも上手いのだ。
あっけらかんと言う優に瑠衣は笑いながらその話を興味深そうに聞いているが、これかなり珍しいのだと氷怜いつも静かに感心していた。
基本的にチームの重要な人間しか覚えられない節がある。だが唯と秋、優に対しては世話まで焼くようになったのだから、氷怜からするとようやく他人に興味を持ったかと言うところだ。
氷怜が黙ったことに気付き、下手に話しすぎたと慌てた優が小さく手をあげた。
「あの、これは反省していないわけでは無いです……」
「お前が良く頭が回るのは知ってるよ」
安心させる大きな手が氷怜から伸びる。
目を細めた優に氷怜は一度だけ糸口に口を出す事にした。
「今みたいなやつ、暮刃と話したのか」
「……んー」
優にしては珍しく言葉を濁し曖昧に笑うだけだった。
氷怜は目線をずらし、唯と秋のいる風呂場を目で指す。
「……ほら、お前も風呂入ってこい、だいぶ回復したろ」
「ほいー着替え持ってきてあげたヨ」
「秋裕がな」
受け取った優は笑ってお風呂に向かっていく。
氷怜はタバコに火をつけ瑠衣の横に深く座ると、煙を吐き出した。白が空気に溶けると瑠衣が首を傾げて言う。
「ゼントータナンー?」
「四字熟語でその話し方はやめろ……」
23
お気に入りに追加
1,389
あなたにおすすめの小説
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。
その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。
その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。
早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。
乃木(18)普通の高校三年生。
波田野(17)早坂の友人。
蓑島(17)早坂の友人。
石井(18)乃木の友人。
嫌われものの僕について…
相沢京
BL
平穏な学校生活を送っていたはずなのに、ある日突然全てが壊れていった。何が原因なのかわからなくて気がつけば存在しない扱いになっていた。
だか、ある日事態は急変する
主人公が暗いです
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
眺めるほうが好きなんだ
チョコキラー
BL
何事も見るからこそおもしろい。がモットーの主人公は、常におもしろいことの傍観者でありたいと願う。でも、彼からは周りを虜にする謎の色気がムンムンです!w
顔はクマがあり、前髪が長くて顔は見えにくいが、中々美形…!
そんな彼は王道をみて楽しむ側だったのに、気づけば自分が中心に!?
てな感じの巻き込まれくんでーす♪
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
風紀委員長様は王道転校生がお嫌い
八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。
11/21 登場人物まとめを追加しました。
【第7回BL小説大賞エントリー中】
山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。
この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。
東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。
風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。
しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。
ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。
おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!?
そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。
何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから!
※11/12に10話加筆しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる