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secret!!
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しおりを挟む俺はいつのまにか犬になったんだな。
きっとおすわりから俺はもう野島犬裕だったわけだ。
滑る腕がくすぐったくて身体が少しびくついた。これはやばいこの格好でそれをやられたら唯じゃなくても爆発する。飼い主攻撃に色気を混ぜるのだけはやめてくれ、もうなんでもいいから発言しろ俺。
「お手……のつもりは無かったんですけど……」
対して可愛くもない呟きにやっぱり微笑まれた。
その笑い方が落ち着かなくて心臓がうるさい。モデルの時はこんな表情もしてるかもしれない、けど、やっぱりいつもの楽しげな方が好きなんだよな。そんなことをのんびり考えるなんて俺はまだ大丈夫かもしれない。
なのに、見透かしたように追い討ちをかけられた。
「わんこってさ、話さないよネー?」
「もおおおお」
ついに人語も不可。
いやもうこれ話せないじゃん。
犬語で発声可能なのってわん、わおん、うー、きゃんきゃん。この辺だとしたら返事くらいしか出来ないわ…つまり話すなってことなの?それとも芸を極めろってこと?フリスビーとか持ってくればいいのか?
「ほーら、アッキーいくヨー」
「え?!」
突然何かを頭上に投げられた。それがテーブルに並べられたお菓子のひとつ、マシュマロだと分かるとすぐにぱくりと食べる。心臓ドキドキしながら一安心、失敗したら何をやらされるかわかったもんじゃない。
「えらいえらい」
それになにが怖いって今の一連の流れが今度は真顔だった事だ。微笑まれるのも怖いし真顔も怖い。マシュマロ噛みながら泣きたくなってきた。口は甘いのに世界が辛い。
その時俺の後ろでドアが開いた。
「瑠衣」
「おかえりー」
「くくっ……泣きそうな顔してんな秋裕」
神様に見えた氷怜先輩がドアから顔を出した。もう涙が決壊寸前のところで登場してくれてありがとうございます一生ついて行きます。そう思ったけどテーブルを挟んだ向こう側のソファに腰を下ろした氷怜先輩はいつも通りのトーンでこう言う。
「まあ、反省してんならもう少し瑠衣に付き合うんだな」
「だってアッキー、ほいお手」
氷怜先輩の言葉で悟った。今回ばっかりはもう本当にお仕置きなんだ、そしたらもう悔い改めるつもりで受け止めるしかない。
出された手のひらにぽすっと手を置いたら、青い目を細めてゆっくりと口角が上がる。その心臓が掴まれるような微笑みをされるたびにHPが減っていくんだよな。
「唯ちんは?」
「もうくる」
「唯ちんはどんなわんこやってくれるかネー」
あ、唯も犬やるんですね。哀れ親友よ。
犬好きでも俺乗り越えられなかったわ。
瑠衣先輩にほんとに犬みたいに顎下を撫でられて今度は頭を撫でられると、嬉しいのに何も言えないのが逆にむず痒い。
だって、わんって言ってもどうしようもないから。
そう思ってたのに。
やっぱ唯ってすげえわ。
お前はアニマルセラピー本業にした方がいい。
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