sweet!!

仔犬

文字の大きさ
上 下
241 / 379
secret!!

1

しおりを挟む


「俺はあいつの面倒みてやってるわけ、とろくて鈍臭くて必死になってるからさ」


この人自分の自慢か、同期だと言う唯と同じテーブルの人の話しかしない。てか何で違うテーブルなんだろう、勝手についてきたのかな。
俺は微笑みながらキラネさんの綺麗な所作を覚えていた。灰皿はすぐに変えて水滴もさっと拭く、真似できるのこの辺かなと目星をつける。


キラネさん頭がいいから相手にどんな言葉を言えばいいのか先に話してヒントをくれるから、ゲーム感覚でちょっと楽しいんだよね。

でもこの人の会話はあまり聞いていて良いものでもない。名前はトシさんと言う若い商社マン。

「トシさんは今日お祝いできてくださったんですか?」

「いや?あいつに俺の昇進報告ついでに酒でも奢ってやろうかと思ったら今日はパーティがあるからとか言いやがるし、俺の昇進より大事な約束はどんなかと思って」


随分上からなんだよなぁ。
唯はトシさんの同期の人をすごい心配してるように見えるし、この人と喧嘩でもしたんだろうか。

「だけどさ報告した時のあいつの顔、泣きそうにしててさ、まじでウケる」

「でも、ご馳走してあげるなんて仲がいいんですね」

正直微笑んでられるのが不思議なくらい嫌なやつだけど、キラネさんが綺麗に微笑むのでなんとか頰がつられてくれた。

「俺がいないとダメなんだよ、あんな間抜けなやつ」

間抜けだろうか?昇進を聞いて先を越されたと傷付くなら夢や野望がある人だし傷付いてもアゲハさんのお祝いに来てくれる。それに多分、というか絶対、唯が懐いてるからいい人だと思う。

「てかリン。お前酒飲んでなくね?」

「この子今日が初めてだから、先に覚えさせることがあるの」

「飲めよ、つまんねえ」


この人飲み会でお酒飲めない人がいたら白けるとか言う人だな。キラネさんが微笑みながら軽く謝ると俺にお酒を作り始める。実はあらかじめ、そう言うことを言われるのを想定して席にはボトルが2本置かれている。片方は色がお酒と似ただけのジュース。

「あまり飲みすぎちゃだめよ」

「はい」


微笑んであえて喉を鳴らすように飲むと、トシさんは満足したようだ。これでお酒飲んでたら暮刃先輩のあの微笑みで氷河期がくるだろう。


「アゲハってやつまだ来ないの?」

「そろそろ回ってくると……ほら」

ちょうどアゲハさんがゆっくりと近づいてくる。綺麗な人だな本当、唯のメイクもすごいけど女性としての魅力に圧倒される。秋が応対してるのは女性のファンらしくてあそこはもう女子トークが盛り上がりすぎて秋が恋の相談してあげてた。


「始めまして、トシさん。アゲハです」


俺は驚いた。上から目線だったのは変わらないけど、トシさんが突然殺気を含むような目でアゲハさんを睨むのだ。恨みでもあるのかと思うけど初対面のはず。

席を立ったキラネさんがアゲハさんの耳元で何かを話すと、アゲハさんが微笑んだ。

「ありがとうございます、今日来てくれて」

「あんたのためじゃない」

「それでも嬉しいわ」

「……まじで見損なった」

「え?」

足を組んでソファの背もたれに腕を広げたこの人は、失礼な事を叫び出した。あえて他のテーブルに聞こえるような大きい声、唯の隣で同期さんが驚いて振り向いた。

「俺は俺なりにあいつのこと認めてたんだぜ。だけどここに通ってた挙句、ご執心な上、あんた程度の女を選んだ」

程度……ああ、やばい、眉間に力が入って笑うことができそうにない。元々、俺媚び売れるタイプじゃない。キラネさんとアゲハさんが微笑んでいたおかげで何とかなっていただけだ。

そんなアゲハさんは表情も変えていない。でも絶対にこんなこと言われていい気分なわけないし、言われていいはずがないんだよ。

「あー気分悪い……なあ、ここで1番高い酒と1番強い酒もってこい」

「かしこまりました」

それでも微笑むアゲハさんはボーイを呼んでお酒を持って来させた。流石に俺でもわかる、このお酒がやばいこと。

さっきよりも強いトーンで男が言う。

「飲めよ」

「トシさんは飲んでくださらないの?」

もうだんだんむかついて来て思わず口を挟んでしまった。俺たちはあくまで盛り上げを手伝って出過ぎた事はしない、そんな役だったけどこうなってくると許せないものがある。

「俺も飲むけど、お前らはそっちを飲め」

「はい」

やばい方を差し出され、承諾しないといけないのかアゲハさんの横顔を除いてもその答えはわからない。
唯ならうまくフォロー出来るんだろうか。遠くて唯と秋がこちらを心配そうに見ていたから少しだけ和んだ。だめだよ、お客様に集中しないと。

さりげなく俺にジュースの方と交換してくれるがアゲハさんは言われた通りそのお酒をおいしそうに飲み進める。もちろん売ってるから飲んだら死ぬとかじゃないけど、こんなペースで飲み進めるものじゃない。
お酒は強いからと聞いていたけど限度があるし、それにトシさんは今度は満足しなかった。
自分で飲めと言ったのに、アゲハさんが飲めば飲むほど不機嫌になる。

「アンタは良いよなあ、酒飲んで微笑んでりゃ金が入る。そんでそんなアンタに入れ込んでるあいつもあいつだ」

「……タクミさんには本当に良くしてもらっています」

それが引き金だった。
釣り上がった目が今にも殴り出しそうで、何とか堪えるようにトシさんは沈黙した。代わりに力の入った手でボトルをアゲハさんに押し出す。


「飲め、飲めんだろどうせまだ。なあ?」


アゲハさんはボトルを見つめそれでも手を伸ばそうとする。俺は優しく彼女の名前を呼んだ。


「アゲハさん、代わります」

「え……?」

アゲハさんの大きな目がやめなさいと言っている。
もう俺の手はボトルを握っていたしその願いは聞けなくて、微笑んで口に運ぶ。ボトルでも下品な動きにならないように、だけど見せつけるようにボトルの中身を飲み干した。別に不味くないから助かったけど、兎に角強い。喉の奥が刺激で騒めき、じんわりと熱くて、それが胃に移動していく。


「お酒強いんですよ、実は」


知らないけど。
取り敢えず今のところ気持ち悪くない。そしてこれを飲む時点で決定的なことがあった。

トシさんは鼻で笑うとやはり見下すように言う。


「いい飲みっぷりじゃん。カマトトぶってるこいつよりよっぽど…」

「トシさん」

「あ?」

「タクミさんに告白、しないんですか」







しおりを挟む
感想 179

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

変態高校生♂〜俺、親友やめます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
学校中の男子たちから、俺、狙われちゃいます!? ※この小説は『変態村♂〜俺、やられます!〜』の続編です。 いろいろあって、何とか村から脱出できた翔馬。 しかしまだ問題が残っていた。 その問題を解決しようとした結果、学校中の男子たちに身体を狙われてしまう事に。 果たして翔馬は、無事、平穏を取り戻せるのか? また、恋の行方は如何に。

a pair of fate

みか
BL
『運命の番』そんなのおとぎ話の中にしか存在しないと思っていた。 ・オメガバース ・893若頭×高校生 ・特殊設定有

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

親衛隊総隊長殿は今日も大忙しっ!

BL
人は山の奥深くに存在する閉鎖的な彼の学園を――‥ 『‡Arcanalia‡-ア ル カ ナ リ ア-』と呼ぶ。 人里からも離れ、街からも遠く離れた閉鎖的全寮制の男子校。その一部のノーマルを除いたほとんどの者が教師も生徒も関係なく、同性愛者。バイなどが多い。 そんな学園だが、幼等部から大学部まであるこの学園を卒業すれば安定した未来が約束されている――。そう、この学園は大企業の御曹司や金持ちの坊ちゃんを教育する学園である。しかし、それが仇となり‥ 権力を振りかざす者もまた多い。生徒や教師から崇拝されている美形集団、生徒会。しかし、今回の主人公は――‥ 彼らの親衛隊である親衛隊総隊長、小柳 千春(コヤナギ チハル)。彼の話である。 ――…さてさて、本題はここからである。‡Arcanalia‡学園には他校にはない珍しい校則がいくつかある。その中でも重要な三大原則の一つが、 『耳鳴りすれば来た道引き返せ』

処理中です...