sweet!!

仔犬

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secret!

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「ヨワーイ」


手を鳴らして埃を払った瑠衣がよく響く声で言い放つ。ものの数秒で投げ飛ばされた相手はすでに意識が無く、手応えもなければ面白みも無いので瑠衣は不機嫌そうだ。

次に出てきた相手は瑠衣に素手で勝てないと判断したのかナイフを取り出した。瑠衣は表情も変えずにその男の記憶を蘇らせる。

「あーオレのこと追いかけ回した挙句、アッキーに手出して出禁にしたやつじゃんー?何なのー?男なら何でも良いの?ヨッキュー不満なの?」

「あっきー……?ああ、あいつか。お前はステータスとして興味があったが、俺はもともとお前の連れの方がタイプだよ。まだ何も知らない方が可愛いだ……ろ?!」

気味の悪い笑顔の男を足で蹴り上げ、男が地面に落ちる前にもう一度横から蹴り飛ばした。壁に激突した男は悲鳴のような声をあげ、虚しく地面に落ちる。

珍しく瑠衣のその顔から表情が消えていた。

「テメェが触ってイイもんじゃねえんだよ」





試合は悲惨なものだった。もとよりルールも戦いの基本も何も知らない人間の集まりで、試合にもならずルール無用の姑息な手段が数多く使われた。

Ritterの涼が言う通り、プライドの高い愚かな人間ばかりで手応えも歯応えもない。ただひたすら気分が悪かった。話も通じず、結局全員捕らえる形となり、単純に試合をするよりも時間が掛かっている。


「瑠衣、生きてるかそいつ」

「ちゃんと手加減しましター」


ベーっと舌を出した瑠衣は先ほどまでの雰囲気を一瞬で変えた。
氷怜は小さく笑うとクラブを見渡す。場所は相手のクラブのホール。奥の部屋では暮刃が交渉している、今更交渉も何も無いのだが、後先全てを考えて処理する必要がある。

「無駄な時間だな」

「ていうか、おチビ達に手ェ出したやつ多過ぎてキモいんだけど~。なになに、モテ期ー?」

モテ期どころか万年崇拝に近い扱いを受けている瑠衣にモテ期と言うものは実感がないが、あまりにも後ろ髪を惹かれ過ぎている3人に瑠衣はだんだんとイラついてくる。気長なタイプだがこの場で何かを我慢する必要がないため、その苛立ちはすぐに飛んできた新たな相手を拳1発で終わらせる。

静かにそれを見守ると氷怜はタバコを取り出した。当然のように瑠衣が口を開けたのでさらに一本取り出して突っ込んでやる。

「あいつらも随分と広まったって事だろ」

「そろそろやっぱり首輪かなー」

「それなら、指輪に意味を持たせるか?」

「あー、ソレイイね」

横からライターが向けられた。2つの腕に氷怜は小さく微笑んだ。

「助かるけどなぁ、こんな時まで気にするなお前らは」

「いえ、俺達がやりたいだけです」

桃花と式が遠慮がちに頷いた。氷怜は瞬時に2人の体を確認する、怪我一つなさそうだ。


「つまんねぇだろお前らも」

さすがにはい、とは言えながったが2人は曖昧に笑った。それでも言葉を探した式は怪訝な顔で報告する。

「あ、でも最近唯達に絡んでくるめんどくさい奴らが意外と居たのでちょうど良かったと言うのが大きいです」

「俺も注意してた人間がかなり……」

2人は目を合わせてお互い頷く。 

「意味が無かった訳でもねえか」

「多分あいつらが作ったアカウント、バズってるせいってのもあります。いやに写真映えするし」


最近始めたと報告されたSNSのアカウント。氷怜も暮刃も瑠衣もマメではないので全く興味すらなかったが、3人の写真はいつも楽しげで、その日の報告にもなるので氷怜達にとっては良いものになっていた。

それに氷怜達に限らず、趣味も行動力もその楽しみ方も人を注目させるには十分すぎるほど。
最近クラブのカメラマンである人間に会わせたところ、お互い随分と気に入ったらしい。カメラマンが撮っては3人が写真を載せ、それがさらに人を呼ぶサイクルが出来上がった。

初詣の時もそれ目当ての人間が興味ありげにこちらを観察していた。さらに有名な氷怜達により抑止力にはなるが、いたずらに話しかけようとする人間は追い払うよう式には頼んでいたのだ。

「まだまだ、これからありそうだな」

「すみません……」

桃花のせいではないのに謝るその姿に氷怜は喉を転がして笑い、可愛いものだと頭を撫でる。


「唯達、何も問題起こしてないと良いんですけど」


式の言葉にピタリと動きを止めた氷怜。自分の事のように3人を見守る式と桃花が青ざめる。

「も、もう何かやらかして……?」

「いや、そうでもない」

「ぶふっ」


視線を逸らした氷怜に瑠衣が吹き出した。起きていると言えば起きているし、元からあったものが何かを引き金に動き出したようなものでもある。


「あいつらは悪くねぇよ」


そう言うが瑠衣が腹を抱えて笑っている。


「ワラワセナイデ~!」

「お前が勝手に笑ったんだろ」


氷怜の眉間に力が入った時、吹き抜けの二階から鉄製のドアが激しい音を立てて落下した。その部屋から長い足が見え、そのままゆっくりと階段を降りてくる。

「Ritterが使うんだぞ暮刃……」

「どうせ内装は変えるでしょ。権利書にサインさせたから、もう用ないよ」

式と桃花が驚いたのはあの穏やかな暮刃が眉を釣り上げて不機嫌さを隠していないところだ。目的のものを達成した言葉と表情が一致しない。


「どうした……」

「ずいぶん頭の悪い交渉だったのと……これ」


暮刃宛に優が送ったメッセージ。


連絡すると言ったので、報告します。
そして、先に謝っておきます。


そう送られてきた後、写真が一枚。


そっと桃花と式も画面を覗き込むとうわあと声が漏れ、慌てて口を押さえるがどす黒い何かが瑠衣からも湧き上がった気配がして2人はいたたまれなくなった。
どうせ、頼まれて出来ることならなんでもやるお優しい精神が働いたのだと2人は思った。


「さすが、可愛いですよね」


後ろから赤羽が男を引きずりながら爽やかに笑った。男は怪我は見当たらず元気そのもの。だが、どんな恐ろしい言葉を言われたのか可哀想なことにウサギのように震えている。

瑠衣と暮刃の機嫌がさらに急降下したのを赤羽は楽しそうに笑いながら、雰囲気のある声でこう言った。


「そうして連鎖は続いていく……」

「やめろ」


何故今、からかうようなことが言えるのか式と桃花には理解ができない。この場で楽しげに笑っているのは彼1人だ。


「ああ、なんで煽るんだよ!もう俺たちだけでどうにかなるので、どうぞ離脱してください。そんな顔してたらチームの奴ら怯えて仕方ないです」


異様な空気感に気付いた紫苑しおんが駆け寄り苦笑いでそう言う。幹部の彼までもそんな事が言えるなんて、式はもう少し精神を鍛えるべきだと密かに心に誓った。

そして、勇気を振り絞り声を出す。


「あいつら、よろしくお願いします」


その言葉にようやく氷怜が笑った。


「いや、もてなされてやるよ」

「え?」


引きが強いのはもうわかっていた事だ。
だったら楽しむ方が得策である。





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