sweet!!

仔犬

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secret!

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「当日のお楽しみに!秋、優フロアいってみんなに挨拶行こう~」

「いいよー……あ、氷怜先輩、報告するんで大丈夫ですよ!」

「写メいっぱい撮っておくんで」

「おい、何が」

氷怜が言いかけても秋と優はじゃあちょっと行ってきますと言って、ご機嫌に部屋から出て行く唯斗の後を追ってしまった。

だがそれよりも目の前のサクラから突き刺さるような目線をどうにかしなければならない。

サクラは仕事上であればその癖を抑えられるが私生活ではもともと我慢を長くするタイプではない。言いたいことははっきりと、やりたい事も明確にしてきたのだ。だからこそ辛抱し難い状況では足を組み綺麗に揃えた爪先を眺める。唯斗がいち早く気付いてくれた新しいネイル、綺麗なものを見て落ち着かせるためだ。それでも顔を上げると凛とした瞳が牙を向く。

「何よさっきのは、本当に過保護で狂ってあんなに優柔不断な事言ってるならその根性叩き直すわよ……」

「サクラさんごめんね。はい、どうぞ」

微笑んだ暮刃がボトルからワインを注ぐ。慣れた手付きで手渡すとサクラがため息をついた。当然理由がある事など分かっている。

「何があったの……?」

「……引きが強すぎんだよ」

眉間にシワを寄せた氷怜に瑠衣が心底楽しそうな顔で言う。

「今回はさすがに可哀想だから笑わないであげルー……あはは!」

「笑ってるわよ」

結局腹を抱えて笑う瑠衣にサクラが冷静に突っ込む。
それすら反応しない氷怜にサクラは絞り出すように声を出した。


「だから、なんなのよ……」


綺麗に巻いた長い髪が今にもうねりだしそうなほどサクラの限界は近かい。
わがままが過ぎるところがあるとは言えサクラは氷怜たちのことが気に入っている。やりたい事をやり通し、不可能を可能にしようとして、本当にやり遂げる事。その生き方はサクラの性にも合っている。

それなのに、と続けそうになる前にようやく氷怜が話しはじめた。

「Ritterが話し合いを持ちかけてきた」

「……不可侵でしょう?」

「暗黙の了解だけどな」


Ritterリッター
唯に話したばかりの話にサクラはようやく怒りが冷めはじめた。どちらかと言えば困惑が湧いたのだがサクラにとっては怒りやイライラが消えてくれた方がやりやすい。

Ritterは氷怜達が唯一、同等かそれ以上と認めるチームである。強大な上に得体が知れない。しかもチームの頭2人にはさらに崇拝している人間がいて、そちらの方が人間とは思えないと赤羽が初めて顔を痙攣らせた瞬間だった。

コンタクトを取ったのは一度だけ、まだ治めていないエリアに出向いたその時。すでに彼らはいた。

人間とは思えない動きでそのエリアをモノにしようとする人間を魔法のように片付けた。
明らかにその時点で勝てる見込みはないと相手の戦いぶりに悟らされ、そして一言「これ以上のエリアに興味はない」それだけ言って立ち去られてしまったのだ。

それから赤羽ですらも情報は掴めない。向こうも同じくクラブを根城にしているが客との接点はほとんど無いと言う。ただ、宣言した通りそれ以上の動きは見られない。

それでも、その知識も知識の使い方も戦いのセンスも、人を惹きつける魅力全てがその2人だけでも完璧なのだ。

「なんの話かは知らないがお呼びなんだよ」

「それは会わないとダメね……」

「出来れば俺たちで出向きたい」


なるほど、とは思った。幾ら幹部が優秀だと言っても幻に近い存在に会うならば氷怜達が居た方がいい。

それでも一日中いるわけではない。まだ、負に落ちないサクラになおも氷怜は続ける。


「それから、引き抜かれたやつがいる」

「有り得ない」


Ritterの困惑のあとでも即答したサクラに氷怜が満足そうに笑った。

「ホラやっぱサクラちゃんはこう言うってー……もーらい!」

「おい」

瑠衣は暮刃が取り出したたばこを奪った挙句、火をつけてと咥えたまま無言で向ける。暮刃はそのまま自分の分を取り出した。

「どうぞ」

全く逆の方向から火が差し出され一瞬だけ炎が揺れた。2人に向け火を灯し、赤羽は微笑んだ。
自分で吸うことはないが、赤羽も含めここのチームの人間は吸わずともライターを持ち歩く癖がつくのは必然だった。

「ちょっともう、遊ぶのやめてちゃんと話しなさいよ……!」

ありえない。絶対に。
サクラはそう思うし、それは事実である。

「no nameだって自分で言ってる奴が引き抜かれたらしい」

「それ引き抜きどころか無関係じゃない……うちで自ら所属をばらすのは表の役だけ。しかもチーム名は存在しない。ただのファンが気持ちに弾みがつきすぎただけでしょう?」

「それ自体はどうでも良いけどな、そいつの末路が今となっちゃ俺らのアンチに回ってる」

「最近ワルーイ噂がいっぱいなんだって~白い粉持ったワルーイお兄さんが居るとか~。そんなだっさいモン使ってないのにネ」

「なによそれ!?」

ケラケラと笑う瑠衣にそれを気にした様子は一切ない。氷怜はサクラが声を上げこぼれそうになるグラスを取り上げる。

「大層金とコネのある奴が肩書きだけを与えた馬鹿をフルに使ってここを潰そうとしてんだよ。あそこは最悪だったってな。そして押し付けて自分たちは知らないって嘯いてる。クリスマスの日に式と赤羽が何十人か潰してるがそいつらと関係してた」

このクラブ自体がブランドだ。
一歩踏み入れることすらステータスになるこのクラブ、多額の金で買収を試みる者も少なくはなかった。

「物理的に、次は内部から崩す、それがダメなら社会的にって事だろ」

「……相手はわかってるのね?」

「真正面から出向いてあげるよ」

暮刃がにっこりと微笑む。交渉に関しては右に出るものは居なかった。赤羽も連れて行き、向こうがその気ならば経営において指先すらも動かせないようにすると決まっていた。交渉なんて上品なものではないかもしれないが。

「あとはー」

「え、まだあるの?」

「そのお馬鹿なヤツが肩書きのプラセボ効果でツヨキになってうち出禁になっためんどいヤツ集めてー試合申し込んできたわけー。しかもー……アッキーも優たんも唯ちんも絡まれた事があるキッモいやつばっかダシ……」

瑠衣にしては珍しく心底嫌そうな顔だ。サクラは苦笑いで返す。あの子達なら有り得る話だ。

「男の妬みはしつこいわよね……」

男の世界も女の世界も知っているサクラにとってはたやすく想像ができた。しかも根に持つような男はなおさら面倒くさい。

「正々堂々潰してやるって言ってきたけどー辞書で調べて人生やり直せよって感じでウケるよね~」

「あらじゃあ、もうほとんど片付いたようなものじゃない」

戻されたグラスでもう一度口に含んだワインは先ほどよりも美味しい。やっと話が進んできた事で舌が正常に働いたとサクラは思った。ここまできて出来ない事など存在しない。
だが、1番許せない事がまだなんの説明もされていない。


「……でも、あの子達を困らせた理由にはならないわ」

きっと睨んだサクラにすぐに答えは来なかった。
氷怜は赤羽が差し出したタバコに火をつけさせ、一息吸う。



「今言った全部が、来週の土曜だ」




愛にうるさい流石のサクラも納得だった。
沈黙の中、サクラは言葉を探す。ポジティブな彼女が出した答えはこうだった。


「……宝くじでも買ってあげたら?」

「うるせえよ……」


その引きの強さ、いっそ有効活用したらいいのに。



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