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仔犬

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前のことだろうか、赤羽さんのせいじゃないのに。


「式と桃花も今回は作戦のポジション的にも……」

「はいストップです!確認!」


なんだかものすごく困らせているので一旦ビシッと挙手して静止。目の前の氷怜先輩を見上げるが不安という目じゃなくて、打開策にこだわりがある。そんな目だなぁ。

「行くこと自体はOKですか?」

「ああ」

これは即答だ。
ふんふんと頷いてもう一度確認。

「てことは、おれたちだけで行くのがダメなんですね。そしてその日に先輩達がみんな予定があると」

頷く先輩達に心配症だなぁ、とは思うがこれまで助けられている身としては黙るしかなかった。やりとりを聞いていたサクラ姉さんが驚いた声を上げる。

「どうしたのよ、ここまで心配症だった?」

それまで黙っていた瑠衣先輩がサクラ姉さんの横で首を傾げた。

「サクラちゃんはー?」

「もちろんいるわよ、私のお店でパーティだもの」

「サクラちゃんいれば大抵の奴はどうにかなるジャーン。だってアノ……」

「ちょっと!余計なこと言わない!」

「サクラちゃんが怒った~!」

ふざけながら秋の後ろに隠れ、舌を出して笑う瑠衣先輩。サクラ姉さんのハニートラップは無限大ということかな、まあたぶん違う意味だったような気もするけど深く聞いたらむくれてしまいそうだし、聞かなかったことにしよう。

「瑠衣先輩はそんなに気にしてませんね」

「オレはねー、その場でどうにかする方が性に合ってるカラ」

「ん?」

ソファの後ろから腕だけを背もたれにだらっと伸ばし瑠衣先輩が笑った。秋がどう言う意味だと聞くがなんでショーネと答える気はなさそう。

「でも流石にうちの奴が1人も居ないのは」

「ならイノたち呼んであげましょうか?」

なんだか、いろんな方向に話が言ってしまう。秋も焦りだし優と目線を合わせる。最終的におれに視線が来たので今回は総合的に考えて見送る事にした。

「後日に改めてお祝いに行きますので、大丈夫ですよ?」

アゲハさんには申し訳ないが、今回ばかりはとてつもなく迷惑をかけてしまいそうだ。先輩達が心配にならない日にお祝いに行こう。

だけどおれがそう言っても暮刃先輩と氷怜先輩はまだ悩んでいて、痺れを切らしたのはサクラ姉さんだった。

「送り迎えも付き添いも私が選んだボーイにさせるわ。ここのチームに入れたって問題なく動ける子よ、それに私もいる。他に文句ある?」

うーん、サクラ姉さんやはり素敵な女性。
話を全てまとめていつもの可愛らしい部分は綺麗にしまっている。多分この思わずついて行きたくなるそんな魅力にイノさん達はあれほどまでにサクラ姉さんを尊敬しているんだな。

「貴方達のこと考えて日を改めるまで言ってくれてるこの子達困らせてどうするの。瑠衣くんの方が今回は大人ね」

「ソウダソウダー」

そう言う瑠衣先輩は秋からレモンティーを奪っていつのまにかソファに座っている。ストレートだったから秋が角砂糖を渡すと嬉しそうに笑った。うーん、可愛い。

「私、そんな風に育てた覚えはありませんけど?」

最後はサクラ姉さんのむくれた様子に氷怜先輩と暮刃先輩の硬い雰囲気が剥れた。
力を抜くところまで完璧だなサクラ姉さん。暗い空気を残させない。ため息を吐き出すと氷怜先輩が上半身を少し屈ませた。

「育てられた覚えはねぇよ……悪かったな唯斗。なるべく早く片付けて向かうわ」

「何も謝る事ありませんよ~」

手を伸ばしたらひょいと持ち上げられる。なんだかサクラ姉さんの言う通り心配症が増したような気がするけど大丈夫だろうか。同じく横で暮刃先輩が優の頭を撫で困った顔で笑った。

「ごめんね混乱させて。完全に誰もつけられないのそう言えば初めてなんだよね。だから、思わず」

「はじめてって俺達だけの日だってありましたけど……?」

確かに送り迎えをたくさんしてもらってはいるが、3人だけの日だって少なくない。学校とバイトだけの日とか。買い物行ったりとか。

怪訝な顔をする優ににっこり笑った暮刃先輩。

「そうだったね」

「え、ちょっと待ってください。そんな微笑みで騙されませんけど」

「あはは」

「笑っても騙されませんけど」

優が詰め寄っても暮刃先輩は綺麗な顔で笑うだけだ。しかも頬を両手で包み込み、終いにはおでこに唇を落とし始めた。こ、これはお口にチャックさせようとしてるよ優様!

でもここまで先輩達が気にしているのはクラブにいるようになって先輩達との接点が増えて、さらに周りの認知度が上がったからと言うのも大きいはず。

でも、それならちょうど良い。
アゲハさんとの約束が果たせそうだ。



「おれその日、高瀬唯斗辞めるんで安心してください!」

「は?」


その時の氷怜先輩の顔が忘れられない。


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