sweet!!

仔犬

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「俺が行くか?」

「こんなことに氷怜さんに行ってもらっては俺の忠誠心が死んでしまいます」

「大袈裟だろ」


くつくつと笑う声は後ろを姿を見ていなくても分かる。ドアを開けてソファの背もたれから覗くその頭に後ろから飛び込んだ。

「おはようございまーす!」

「ん、はよ」

驚かせるどころか、あり得ない力で持ち上げられて気づいたら膝の上だ。黒に近いアッシュの髪、白い肌にヘーゼルグリーンの瞳、形のいい唇が弧を描いた。昨日ぶりの眼福に思わずにやにや。

「昨日やっとお休みだったのにもう忙しそうですねぇ。氷怜先輩」

「そうでもねぇよ」


ふっと笑った先輩にあいさつ代わりにギュッと抱きしめられる。今度は上から頭を掴まれたが氷怜先輩ではない。見上げるとケラケラ笑われた。

「唯は今年も派手ちっこいな」

「なんですかその新種みたいな言い方は。先輩達がデカすぎて、てゆか紫苑しおんさん明けましておめでとうございます!」

「おう。よろしくな」

にっと笑った金髪お兄さんはこのクラブのバーテンダーで、幹部の1人。紫苑さん雰囲気はチャラめだけど例に漏れず優しいお兄ちゃんだ。人懐っこい微笑みで男女ともに大人気、その美形とキャラでSNSのフォロワーの多さはテレビで紹介されるほど。

「秋と優は?」

「来てますよー」

「ねぇー!タコパしたいオレ!」

バーン!とドアを開け秋の首をガッチリ掴んだまま瑠衣先輩が入ってきた。驚いたことに昨日までシルバーの髪色だったのにおれとまったく同じピンクになっている。氷怜先輩が膝から下ろしてくれたので両手を上げた。

「瑠衣先輩、ピンクー!!」

「いえーい!!」

しかもウルフっぽいセットのお揃いが嬉しくてハイタッチ。ようやく解放されゲホゲホと息をする秋に真顔で背中をさする優。
わお、と声がしたので横を向くと紫苑さんがおれ達と瑠衣先輩を交互に見ている。

「まーたド派手な事して」

「紫苑さんも金髪ですよ」

「俺は表に出るのが役目だからな……いいんですか氷怜さん達は」

髪を派手にしたところでそう変わるものではないが、チームの人達が異様に心配していた。戸惑うがなんだか嬉しいものだ。問いかけられた氷怜先輩は特に表情も変えずに頷いた。

「お前らも見てくれてるしな」

「う、ここで俺たちの話持ち出すとかずるいですね……」

「信頼してるって事だ」

「まあそりゃ、期待には答えますけどね。こいつら弟みたいなもんですし」

この優しさよ。本当に不良やらギャングやらと呼ばれているような人なのか疑問になる程。流石にそこまでお世話になる気は無いので、最近おれたち密かに筋トレを増やしたのだ。

「大丈夫です!おれ前よりもさらに体力つきましたよ」

「……意外と運動神経も体力もあるから逆に困るんだけどな」

「え?!」

褒められポイントで困らせてしまった。思わぬ意見に驚いた横で秋が曖昧な笑顔ですみませんと謝りながらソファに座り込んだ。それに続いた優も同じような顔だ。思いついたら即行動のアピールポイントは紙一重なのかもしれない。

話の流れは気にせず自分の話に瑠衣先輩が軌道修正。楽しげに笑いながらガラステーブルを指さした。

「そんでさーここにもタコパの機材置いてやろー?」

「おお!みんなでやるの楽しいですよね」

氷怜先輩は首をかしげる。

「昨日食ってただろお前」

「それはそれ、これはこれ。暮ちんにたこ焼きを作らせたいじゃん……プ!似合わなーい!」

「へえ?」

ゲラゲラ笑う瑠衣先輩にいつのまにかドアに寄りかかっていた暮刃先輩がいい笑顔で腕を組む。

「ふっ……」

優が想像してしまったのか秋の隣で吹き出した。あ、ばか、と思ったその場の全員が思わず黙ることにより沈黙が2秒流れる。その間に微笑みながら優雅に近づいた暮刃先輩がまた同じ声を漏らす。

「へえ?」

「めっちゃいい笑顔でほっぺつねらないで下さいごめんなさい」

流石に観念した優が早口で謝り、事なきを得ると頬をさする。当然悪ふざけの暮刃先輩と瑠衣先輩が笑いながらそれぞれを挟むように座り込む。
おれは向かいのソファに氷怜先輩と座ろうとしたその時、美人の嵐が舞い降りた。

「みんな明けましておめでとうー!今年も騒ぎましょーー!」

「サクラ姉さん!!」


下ろしかけた腰はすぐに上がりサクラ姉さんに駆け寄る。本日2回目のハイタッチにより、いよいよメンバーが揃い始めた。サクラ姉さんを連れてきた2人が呆れ顔でこう言った。


「唯斗さん達が来た途端騒がしくなりますね」

「そういう星のもとに生まれたんだろ」


幹部の人たちが式と桃花のその言葉に大きく頷いた。
流石におれも自分で大人しい、とは思っていない。今年はおしとやかにいくべきか。否、おそらく無理である。

「勢ぞろいね」

「まあな」


おれに後ろから抱きつくサクラ姉さんをナチュラルに剥がしながら氷怜先輩が笑う。昨日同様爽やかな笑顔で赤羽さんがドアから顔を出し、その目線は先輩達に移動する。


「下の奴らも揃いました」


年が変われば流れも変わる。
首をかしげるおれたちには分からない何かが既に始まっているらしい。



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