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しおりを挟む桃花のご両親はそれはもう天使かと思うくらい優しくて、10秒くらいで懐いてしまった。桃花が心配症な性格になるのが頷けるほど2人ともおっとり。
種類は違うけどうちの親もそれはそれはマイペースで、おれがついつい突っ込みそうになる事を思い出してなんだか感動してしまったのは内緒だ。
桃花家を出る頃には随分と気温が下がって、寒そうに車から降りた式がお礼を言う。
「すみません俺まで送ってもらって」
「当然だろ、明日も頼むわ」
氷怜先輩の言葉に心地いい返事をした式に窓から乗り出すように手を振った。
「式おやすみね~」
「おう」
律儀に頭を下げる式はおれたちが乗る車を見送ってくれる。初めて式のお家まで行ったけど割と家から近いから今度絶対遊びに行こう。それからおれたちのマンションまで到着するとすでに今日の日付を超えていた。
「ふわ、眠い……」
「アッキーあくびデカすぎ、移ったジャン」
「ほぼ同時でしたよ」
どちらも眠たげな顔で言い合いしながらもいつも通り瑠衣先輩は秋にぶら下がっている。そんな秋と瑠衣先輩に優まで伝染したのか小さくあくび。
「ちゃんと寝るんだよ」
「はい……」
眠たげな目でうなずく優に暮刃先輩が微笑んだ。おれはまだ元気で明日の約束をとりつける。
「明日、というか今日遊びに行って良いですか?チームの人に新年の挨拶!」
「喜ぶんじゃねぇか」
「わー、い?!」
喜んで手をあげたら、その隙に脇に手を入れ持ち上げられた。氷怜先輩の綺麗な瞳と唇に思わず目が行くと、じっくり見る前に包み込まれる。
「持ち帰りてぇけど、椎名さんいるからな」
か、可愛いすぎて困る。
ちょうど肩に顎が乗るような形で抱きしめられているから顔が見たいのに見えないのがもったいない。良い匂いに包まれながら、仕方なくその頭を撫でてみた。
「よしよし」
一瞬驚いたのか抱きしめる力が強くなるが何も言わずに撫でさせてくれる。可愛いさが大型犬なんですけど。
「あ、それ良いね。俺もしてよ優」
「え?」
優の眠たそうな目が一瞬で開いて、少し頭を下げた暮刃先輩を固まったまま見つめる。照れたりするのかと思えば仕方なさそうに笑ってゆっくり頭を撫でた。
「……珍しいですね」
「今日は他の人が多かったし、なんだか優が物足りない」
暮刃先輩まで可愛いなんて今日はなんて良い日だろう。おれが暮刃先輩の言葉を聞いて顔が熱いのに優様はいはい、とクールだ。でも本当は嬉しそうって事、親友の目を誤魔化す事は出来ませんから。そんな視線を投げつけても抱きしめられたままのおれでは煽ることもできない。
二人が甘えた事が面白かったのか瑠衣先輩が抱きついていた秋に力を入れる。
「じゃあオレはー、全腕力で抱きしめてあげル」
「グエ苦し!!ムードもへったくれもないっすね!」
本当に苦しそうな顔で秋がそう言うと、一転して瑠衣先輩が力を緩めた。
「ムード作って良いなら作るけど後で後悔しても」
「やっぱストップ!えっと、二人きりの時で……あ、やべ」
珍しく秋が口を滑らせたことにより瑠衣先輩は大爆笑、嬉しそうにイダズラな顔で秋にグリグリ抱きつく。
「持って帰ろーよー2人ともー!ネー!」
「……瑠衣ワザと煽ってんだろ」
「あは、バレたー?」
ため息をついた暮刃先輩が優の頰を撫でるとゆっくりその手を離した。行くよと最初に車に乗り込むとおれも地面に下ろされる。
「また明日な」
お返しとばかりにくしゃりと頭を撫でられ、さっきまで顔まであつかったのに離れた瞬間寒さが増すから困ったものだ。
「2人きりでネー」
「からかってないで、はやく乗ってください……」
秋がぐいぐい瑠衣先輩を押しながら車に近づくと赤羽さんが運転席から手を振って言う。
「明日も迎えに行くので、勝手に向かわないで下さいね」
「うわ、なんか赤羽さんも過保護になりました?」
「誰かさん達のおかげで」
にっこり笑った赤羽さんは先輩達が全員乗り込んだところでエンジンをかける。見えなくなるまで車を見送った数秒後、ぽつりとつぶやいた。
「……なんかさー、わざと名残惜しくさせたよね」
「ね……」
呆れたように頷いた優と苦笑いの秋。
「してやられた感すげえもん……」
これが恋の駆け引きなら綺麗に敗北だ。
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