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しおりを挟む待ち合わせ時間になって桃花のお家の玄関前で待機していたら、遠くに見えたその姿にしっぽを振って駆け寄った。目立つからすぐ分かるのもあるけど先輩達を見つけるセンサーが反応したのだ。後ろから転けますよと桃花の声が聞こえても足が止まらなかった。
「わー!せんぱーーい!ううううかっこいい!」
「落ち着けって」
今にも笑い出しそうな声でおれの腰に手を回し微笑んだ氷怜先輩。今日は流石にサングラスはしていないし、ヘーゼルグリーンの瞳に和装と余計にドキドキする。
遅れて式と桃花が先輩達に頭を下げると氷怜先輩が静かに笑った。
「こいつら着せ付けてやったんだろ。助かった……お前らちゃんと寝たか?」
「いえそんな……俺たちだけ返してもらって申し訳ないです」
「そうですよ、氷怜さん達の方があれだけ相手して」
「どうって事ない」
ふっと笑った先輩の横で同じく駆け寄った秋と優も嬉しそうにそれぞれ先輩の手を引っ張って騒ぎ出す。
「和服の想像出来なかったんですけど、袴やばいっすね!」
「んー?ヤバイって良いの?悪いのー?」
「ちょーカッコイイ!!」
秋が拳を握って笑いながらそう言うと瑠衣先輩は満足したようにニッと笑った。瑠衣先輩の羽織は大正モダンの現代柄でとにかく派手なのはいつもと変わらないけど、なんでかそれが美しいんだから秋が騒ぐのはもう当たり前。和服って柄が派手でもまとまりが出るからいいよね。
「派手過ぎんだろ瑠衣のやつ」
「いいのー!」
「どうせ何着たって目立つよ」
呆れ気味の氷怜先輩は羽織に少し渋めの赤と黒の線が様々な方向に入っていて袴は一見すると黒一色だけど谷折りの箇所だけ動くたび白が見えるのだ。
細部までオシャレだし似合うし男前だしで、さっきからスマホの連写が止まらない。みんなの着物姿もずっと撮ってたし容量が大変なことになっているだろう。
桃花が先輩たちに驚いたように聞く。
「皆さんご自分で着られたんですか?すごい綺麗に……」
「久しぶりだったけど、忘れてなくてよかった」
そう答える暮刃先輩は一番スタンダードなストライプが入った紺の羽織に白の着物。所作が綺麗な彼には和服だってまるで違和感がない。それどころか相変わらずダダ漏れる色気の量はまた格別だ。
「暮刃先輩、似合いますね」
近づいた優の頰を滑り、その指が髪の毛に移動した。
「俺たちより……君達はまた派手な事して……」
「似合いませんか?」
「まさか。黒髪も好きだけど、こういうのも良いね」
年の締めくくりにヘアサロンに行くと言った優はずっと黒髪だから明るくしたかったようで、何色にするの?と聞いたらおれの頭を指差し唯の頭にするって一言。なんか嬉しくて優に抱きついた。
そうしてミルクティベージュに大変身を遂げた優は可愛いんだこれがまた。黒目にも似合うようにくすみもいれた色合いが美人度と可愛さがアップして美容師さんと秋とおれで万歳した。
「意外と顔に馴染んで良かったです」
「優の顔に似合わない色ってそんなにないと思うよ……それに、みんなも可愛いね」
「やったあ!」
だって優が髪染めるなんて言うからそりゃおれたちも行くとなる訳で。せっかくだし今までした事ない色に、と美容師さんに後はお任せした。
秋はずっと茶髪だったけど今回は雰囲気を変えて暗く。それでも光に透けると赤と紫の中間色でめちゃくちゃ綺麗なのだ。短い髪の毛も少し伸びたからワックスで流すか上げるかが多かった髪を今は下ろしていて随分と大人っぽく見える。なんだか色気まで出た。
「暗くしたのに派手になっててウケる」
「えーと、それって良いですか?悪いんですか?」
「良いねぇ」
「やった!」
瑠衣先輩が喜んだ秋の頭に顎を乗せて、秋の髪の毛を透かしたりと指先で遊んでいる。ご機嫌な様子は本当に秋の髪が気に入ったようだ。
2人の髪色に大満足のおれも嬉しくて氷怜先輩の腕をつつく。
「2人ともめちゃくちゃいい色ですよね~」
「お前もいい色にしたな」
おれが元々明るいミルクティだったからその色を活かして少しピンクが混ざったのだ。柔らかい色合いで混ぜてもらったから、まさしくいちごミルクティの超可愛い。ただ派手じゃなくて透明感も残していて、めちゃくちゃお気に入り。
氷怜先輩はおれの髪の毛に指を絡めそのまま口付ける。きょとんとしている間に元のようにセットしてくれた。柔らかい笑顔、これは先輩もご機嫌のようだ。
「甘そう」
「感想が味……」
「あとは……犬っぽいな?」
「やったあ!!」
「それでいいのかよ……ははっ」
ピンクのわんこは見た事はないけど、伸びてきた髪の毛に段をつけて少しウルフっぽくしてもらったからかもしれない。でもまだ結んだりできる長さでアレンジもしやすくてまた楽しみが増えた。
例のごとく秋にぶら下がった瑠衣先輩が手招きしおれの頭を撫でる。
「良いねぇ、唯ちんの色~!」
「瑠衣先輩もオソロします?」
「イイヨ~」
「わーい!」
「また派手なのが増えるなぁ」
暮刃先輩が困ったように笑う。
全員派手ですよ……式のそんなつぶやきは誰にも届かなかった。
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