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仔犬

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春さんが先にホールに戻った時、優が思い出したと話し出す。次第に感情まで呼び起こしたのか不機嫌な目に変わりおれたちは首を傾げた。それでも話の内容は確かにその場にいたら納得がいかないだろう。


「それだけで帰っちゃったの……」

「今まで生きてきた中で一番ムカついた」


むっとする優が可愛くて秋とおれでほっぺをつんつん。
確かにクリスマスに出現した挙句先輩達のことはもう悪く言わないと意見をひっくり返してくるし何しに来たのか。榊李恩は謎が深まるばかりだ。


「でもその口ぶりじゃあ、また優のところ来るかもね」


そう自分で言っといて、次に榊さんがどう出てくるのかなんて予想もつかない。3人で沈黙の後、適当に拳を上げた。


「とりあえず、気をつけよー!」

「おー!」


宣誓しておけば何となく気持ちに整理がつきやすい。優も声を揃えたらスッキリしたようで立ち上がって伸びをすれば、いつもの涼しげ美人に元通り。


「考えてもしょうがないしね」

「暇なんだよきっと、そんな事してるんだから」

「そうだそうだ!」


言いたい放題言ってフロアに戻れば休憩前よりも人がいなくなっていた。それどころか唯一のお客様は見慣れた友人で、カウンターから手を振りながら春さんがにこやかにオーダーを聞いている。

「式!桃花!」

「よお」

「こんにちは」

にっこり笑う桃花の鼻先が少し赤くて、思わず手を伸ばしてほっぺを包むと予想通り冷たい。驚いたのも一瞬でおれの手に自分の手を重ねた。


「外寒いよねぇ」

「大晦日は雪だって言ってましたよ」


にっこり笑う桃花は物凄くほっこりで安心する。可愛い付き人は今日も美人で品がいいし、最近はだいぶ雰囲気も柔らかくなってさらに女の子にも大人気とおれの自慢のひとつ。頰から手を滑らせてついでに髪の毛をセットしてあげると余計に美人が際立った。

式が呆れたように言った。

「番犬の毛づくろい?」

「式もやってあげるね」

片眉を上げても否定の言葉は返ってこなかった。

「どうも……」

「はは、式って素直だよな!」

「うるせ」

秋の言葉に拗ねたように答えた式は幹部の仲間入りを果たして男らしさが急上昇の頼れるリーダーだ。形のいい眉毛が見える短髪は最近アッシュに染めたようで正直グッときましたとも。

同じくクラスのまとめ役、佳乃とも仲良しになったのか良く一緒にいるのを見かける。おれたちと一緒にいるようになってから話しかけやすくなったと佳乃から聞いたのはわりと最近の事だ。


やり取りを目にしていた春さんがふんわりと笑った。

「やっぱりお友達だったんだ」

「同級生の式と桃花です!こちらオーナーの春さんだよ~これまたかっこいいでしょ」


どやったおれに2人が神妙な面持ちで頭を下げた。カウンターに手を揃えて深々と。なんだなんだと思ったらその口から出たのはおれたちの事。


「……3人がいつもお世話になっております」

「ちょっと……」


俺まで?と優が不満そうな声をあげると春さんが関心だと爽やかに笑った。
その次におれたちと式と桃花を見比べて可愛らしく首を傾げた。


「本当に同級生?」

「春さーん?!」

「あはは、うそうそ」












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