182 / 379
christmas!!
2
しおりを挟む「可愛いなぁ、もう」
肩を震わせて笑いながら暮刃先輩が俺を引き寄せた。肩に顎を乗せてまだ小さく笑っている。
「恥ずかしがりそうだから顔は見ないであげる」
「それは……どうもありがとうございます」
むくれながらもホッとする。顔が熱いから。
知らなかった、自分にこんな一面があるなんて。それと同時にこの感情が芽生えたのがこの人で本当に良かったと思う。
相手にこれを思って、知らなくて良かった、辛いなんて思う人はお互いのバランスが取れていないからだ。それは確かに辛いだろうな。この人以外を相手にしていたら人間の世界で生きるにはこの気持ちを上手く扱える気がしなかった。
未だ肩口で震える暮刃先輩が耳元で囁いた。
「嬉しいなぁ……もっと堕ちてよ優夜」
「……暮刃先輩がいうと本気に聞こえるんですよね」
「冗談は半分くらいだよ」
つまりそれは、なんて解説はやめておこう。
抱き寄せられソファに平行に向いているので、横目で後ろの床にいたはずの秋と瑠衣先輩を見たらいつのまにか2人が居ない。いつからいないのだろう、今夜はみんな機嫌が良いから、行動が読みづらい。
なんだかもう恥ずかしも越えて、俺も暮刃先輩に体を預ける。
「そもそも、先輩達が嫉妬する事が一番最初は驚きでした」
「そう?まあ、確かに今まではどうでも良かったよ……だけど、いざ君たちに初めてここまでこんな感情持ってるのに、巧妙に振り回されてるわけ」
「巧妙……」
なんだか小悪魔のような言い回しだ。
そういうのは唯担当なんだけどな、いやあの子も小悪魔ではないけど。あれは無敵の天然人タラシだ。
やっぱり、唯のことを思い出すとなんだか楽しくなっちゃって、俺はいつものように暮刃先輩に遊びを仕掛けた。一周回って何でも言えそうだし、今日はもう強気に。
明るめの髪は最近色を変えて黄色味を一切消したブロンドに近くなっている。それがグレーの瞳によく似合って綺麗で、その髪に指を通して肩から顔をあげる。
微笑みは優しいだけじゃない、その目の奥に映るものは俺だ。
「暮刃先輩が堕ちてください」
口角はいつもより数ミリ上に、目は少し俯いて。
「それが嫌なら、俺を掴んで離さないで」
この人と同じ様に悪い顔ができただろうか、髪の隙間から覗くように少し首を傾げると暮刃先輩が笑っていた。
「…………あ」
驚いた。
こんな表情を見た事がなかった。
完全に穏やかさを無くした笑みが気品だけを残して獣の笑みを浮かべている。先輩たちのなにが似ているってこういう時の顔だ。なぜこの人たちがこれほどまでに我慢をしてくれているのだろうかと不思議になるくらい壮絶な、見てはいけない何かを見てしまったような気がする。
それは怖くなくて、綺麗で、堕ちてしまいそう。
でも、だめだ。
「…………はあ」
それでも一旦ため息をつくと、暮刃先輩は表情だけを元に戻したようだ。まだ目の奥には深々とその想いが潜んでいるけど、そんなの男だから当たり前だ。
「君の、そうやって煽るところも好きだよ……」
「えーと、ごめんなさい」
なんだか疲れたようにそういうから、思わず謝まる。
「……ふっ……あはは」
なんだか可笑しくなって小さく吹き出してしまいさすがに笑われては暮刃先輩も怒ったのか頰をつねられた。
「遊ぶならもう少し穏やかなものにしてよ」
「いや、いつもと変わらないと思ったんですよ」
「君も大概だよね……」
君もってもしかしなくても俺と唯だろうか。
今日ばかりはそれも良いかもしれない。
24
お気に入りに追加
1,388
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
風紀“副”委員長はギリギリモブです
柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。
俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。
そう、“副”だ。あくまでも“副”。
だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに!
BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる