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christmas!
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「日付越したりして」
「途中で攫う」
暮刃がそう瑠衣に聞くと真顔で返ってくるから思わず噴き出した。それでも暮刃も同じような答えだ。見えているものを我慢するほど大人ではない。
下のフロアが騒がしくなったと思えば今日ここに来ないはずの3人がこれまた目立つ格好で人集りの中心にいた。ゆるく巻いた髪をそれぞれ同じように耳にかけ、色を揃えた服装は着ているものはバラバラなのにどこかのアイドルグループのようにハマっている。
可愛い、愛おしい、それ以上に美味しそう。
でもまだだ、早くここまで来て欲しい。
渦巻く感情はそれでも穏やかだった。
暮刃が笑って料理に手をつける。
「何にでも化けるよね」
いつもの緩い雰囲気を引っ込めた彼らは別人のように見えるのは持って生まれた才能だ。
女性が周りに近づくとその手を取って丁寧にプレゼントを載せていく。高校生にしては落ち着き払った動作と普段のギャップが年上の女性に人気だった。可愛がられ、その愛情もちょうど良く返していく。
だが、それを特別と感じて仕舞えばその関係は破綻する危うさがまだまだ子供だ。
サクラがグラスに口をつけ、くすりと笑う。
「あの子達の方がよっぽど愛想笑いが得意よ」
「どう見てもあれは本心だろ」
だから良いんだ。
ポロリとそう言ってしまいそうになるのを氷怜はタバコを口に付けることで防ぐ。サクラにニヤけただらしない顔を向けられるのは明白だからだ。
式と桃花はその様子に気づくと黒い手摺に腕を乗せ、下を見渡し呆れ返った。あれで自分たちが目立ってないと思っているのだからよくわらない。サクラの言葉に勘付いたものはあったが相変わらず派手な思いつきをするものだ。
「つーか、一直線にこっちに来いよ……」
チームの人間としては何故まっすぐ氷怜達の元にこないのかとじれったくなってしまう反面、友達としてはらしいと言えばらしいので苦笑気味だ。
3人が注目を浴びる反面、遠くの見知らぬ男が唯達を睨んでいる。
この夜に決めようとした客だろうが、女性の大半は主に唯達の知り合いだ。その友達まで引き寄せてしまうものだから出番がなくなってしまったのだろう。
そんな客をフォローに入ったチームの1人が話しかけると不機嫌そうに顔を背けた。男に興味は無いと振り払うような動作に式と桃花は顔をしかめ、あの3人に危害が行く前に場を収めに階段に向かおうとする。
踏み出した数歩で秋の声が響いた。
「なあ」
いつもの親しみやすい笑み。
秋が優と唯から離れてまでそんな男にプレゼントを渡したところをみると、秋はこうなることを気付いていたのだろう。
あれだけのプレゼントを持ちながらクラブを歩いていればイベントの1つと思われるのは当然だ。誰がきても良いように余分に持っているのだ。
それから数回会話を交わすと機嫌を直した男が笑った。ふいに秋が耳打ちすると驚いた表情に変え、今度はいい笑顔で拳を合わせる。壁をほぐす術はもはや唯だけが得意なわけではない。
ソファの肘掛に項垂れ、柵越しに下のフロアを見ていた瑠衣をタイミングよく秋が振り返る。一階のフロアでも瑠衣達がいる方から1番遠い場所、それでも視線がかち合うとふざけたようにべっと舌を見せた。驚いたかとでも言いたげだ。
それでもすぐに澄ましたサンタ業に戻ってしまう。
「なーに、アレ」
「秋裕やるな、お前にそんな顔させんのもあいつくらいだ……ははっ」
ぶっすうと不満げな瑠衣に氷怜は肩を震わせて笑いながらも、乱暴にその頭を撫でれば犬のように目を閉じた。不満げな割にご機嫌なのはああいう子供らしい面を見せるのはこの場において瑠衣達に向けてだけだからだ。
ふいに優が視線に気付いたのかこちらに向けて小さく微笑んだ。
「こっちはサービスしすぎ……」
いつも見せない歯を少しだけ覗かせ、はにかむ様子は取り囲んだ女性を一瞬止める。
落ち着いている優がそんな風に笑うのは珍しいのだ。笑ったその視線の先を全員が一斉に見上げるので、敢えていつもより笑みを深くして暮刃が手を振り返すと黄色い声が上がった。
サクラは呆れて暮刃の膝を軽く叩く。
「大人気ないわよ」
暮刃自身も大人気ないとは思うがまだその魅力に気づくものは少なくて良い。それに優がもう少し長く此処にいたならこちらに向く視線は減ったのだろうか。そう考えると末恐ろしい。
穏やかな笑顔を貼り付けた暮刃がポツリと呟く。
「昔の自分見てる気分」
まだ、自分の価値を知らなかった時はあんな風に愛想を振りまいていた。それでもやはりその根本の理由は違うだろう。
「あ」
男が1人お酒を優に渡した。誰も知らない一般の客は少し酔っているのか少し距離が近い。
大きな声でだらしのない話し方に女性が怖がる。グイと差し出されたお酒を優は笑って遠慮した代わりに、もう1つ腕に何かを乗せる。それは秋も渡していた小さな箱だ。
驚いた男が止まった時、耳に手を当てながら何かを話した。にっこりと笑って固まる男の横を手を振って離れていく。
「優たんやるう~」
「ちょっとは術を覚えたってところかな?」
「2人とも出会ってまだ全然経ってないのに随分と良い顔するようになったわねぇ……」
うっとり。そんな顔でサクラは言ったが恐らくスカウトしたくてたまらない方の顔だ。
綺麗に聞き流し瑠衣が宙にフォークを向けて笑った。
「問題児ちゃんはー?」
「ある意味、優等生だけどね」
「良い才能よね」
返事をしない代わりに獅子が笑ったがそれが何の笑いなのかは誰も聞かなかった。
「途中で攫う」
暮刃がそう瑠衣に聞くと真顔で返ってくるから思わず噴き出した。それでも暮刃も同じような答えだ。見えているものを我慢するほど大人ではない。
下のフロアが騒がしくなったと思えば今日ここに来ないはずの3人がこれまた目立つ格好で人集りの中心にいた。ゆるく巻いた髪をそれぞれ同じように耳にかけ、色を揃えた服装は着ているものはバラバラなのにどこかのアイドルグループのようにハマっている。
可愛い、愛おしい、それ以上に美味しそう。
でもまだだ、早くここまで来て欲しい。
渦巻く感情はそれでも穏やかだった。
暮刃が笑って料理に手をつける。
「何にでも化けるよね」
いつもの緩い雰囲気を引っ込めた彼らは別人のように見えるのは持って生まれた才能だ。
女性が周りに近づくとその手を取って丁寧にプレゼントを載せていく。高校生にしては落ち着き払った動作と普段のギャップが年上の女性に人気だった。可愛がられ、その愛情もちょうど良く返していく。
だが、それを特別と感じて仕舞えばその関係は破綻する危うさがまだまだ子供だ。
サクラがグラスに口をつけ、くすりと笑う。
「あの子達の方がよっぽど愛想笑いが得意よ」
「どう見てもあれは本心だろ」
だから良いんだ。
ポロリとそう言ってしまいそうになるのを氷怜はタバコを口に付けることで防ぐ。サクラにニヤけただらしない顔を向けられるのは明白だからだ。
式と桃花はその様子に気づくと黒い手摺に腕を乗せ、下を見渡し呆れ返った。あれで自分たちが目立ってないと思っているのだからよくわらない。サクラの言葉に勘付いたものはあったが相変わらず派手な思いつきをするものだ。
「つーか、一直線にこっちに来いよ……」
チームの人間としては何故まっすぐ氷怜達の元にこないのかとじれったくなってしまう反面、友達としてはらしいと言えばらしいので苦笑気味だ。
3人が注目を浴びる反面、遠くの見知らぬ男が唯達を睨んでいる。
この夜に決めようとした客だろうが、女性の大半は主に唯達の知り合いだ。その友達まで引き寄せてしまうものだから出番がなくなってしまったのだろう。
そんな客をフォローに入ったチームの1人が話しかけると不機嫌そうに顔を背けた。男に興味は無いと振り払うような動作に式と桃花は顔をしかめ、あの3人に危害が行く前に場を収めに階段に向かおうとする。
踏み出した数歩で秋の声が響いた。
「なあ」
いつもの親しみやすい笑み。
秋が優と唯から離れてまでそんな男にプレゼントを渡したところをみると、秋はこうなることを気付いていたのだろう。
あれだけのプレゼントを持ちながらクラブを歩いていればイベントの1つと思われるのは当然だ。誰がきても良いように余分に持っているのだ。
それから数回会話を交わすと機嫌を直した男が笑った。ふいに秋が耳打ちすると驚いた表情に変え、今度はいい笑顔で拳を合わせる。壁をほぐす術はもはや唯だけが得意なわけではない。
ソファの肘掛に項垂れ、柵越しに下のフロアを見ていた瑠衣をタイミングよく秋が振り返る。一階のフロアでも瑠衣達がいる方から1番遠い場所、それでも視線がかち合うとふざけたようにべっと舌を見せた。驚いたかとでも言いたげだ。
それでもすぐに澄ましたサンタ業に戻ってしまう。
「なーに、アレ」
「秋裕やるな、お前にそんな顔させんのもあいつくらいだ……ははっ」
ぶっすうと不満げな瑠衣に氷怜は肩を震わせて笑いながらも、乱暴にその頭を撫でれば犬のように目を閉じた。不満げな割にご機嫌なのはああいう子供らしい面を見せるのはこの場において瑠衣達に向けてだけだからだ。
ふいに優が視線に気付いたのかこちらに向けて小さく微笑んだ。
「こっちはサービスしすぎ……」
いつも見せない歯を少しだけ覗かせ、はにかむ様子は取り囲んだ女性を一瞬止める。
落ち着いている優がそんな風に笑うのは珍しいのだ。笑ったその視線の先を全員が一斉に見上げるので、敢えていつもより笑みを深くして暮刃が手を振り返すと黄色い声が上がった。
サクラは呆れて暮刃の膝を軽く叩く。
「大人気ないわよ」
暮刃自身も大人気ないとは思うがまだその魅力に気づくものは少なくて良い。それに優がもう少し長く此処にいたならこちらに向く視線は減ったのだろうか。そう考えると末恐ろしい。
穏やかな笑顔を貼り付けた暮刃がポツリと呟く。
「昔の自分見てる気分」
まだ、自分の価値を知らなかった時はあんな風に愛想を振りまいていた。それでもやはりその根本の理由は違うだろう。
「あ」
男が1人お酒を優に渡した。誰も知らない一般の客は少し酔っているのか少し距離が近い。
大きな声でだらしのない話し方に女性が怖がる。グイと差し出されたお酒を優は笑って遠慮した代わりに、もう1つ腕に何かを乗せる。それは秋も渡していた小さな箱だ。
驚いた男が止まった時、耳に手を当てながら何かを話した。にっこりと笑って固まる男の横を手を振って離れていく。
「優たんやるう~」
「ちょっとは術を覚えたってところかな?」
「2人とも出会ってまだ全然経ってないのに随分と良い顔するようになったわねぇ……」
うっとり。そんな顔でサクラは言ったが恐らくスカウトしたくてたまらない方の顔だ。
綺麗に聞き流し瑠衣が宙にフォークを向けて笑った。
「問題児ちゃんはー?」
「ある意味、優等生だけどね」
「良い才能よね」
返事をしない代わりに獅子が笑ったがそれが何の笑いなのかは誰も聞かなかった。
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