sweet!!

仔犬

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christmas!

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桃花と式は3人を知らなかったが、一目でのその距離感は掴んだようだ。静かに会話の行く末を見守っている。これほど目立つ人間、なかなか見られるものではない。


「お前らいつもは遊んでるのに珍しいな」

眼鏡を外し、髪も下ろした鹿野は随分と若く見えた。鹿野の言葉にいたずらな顔でサクラが反応する。


「恋って偉大ね……私驚いたのよ。変に潔癖なところがあるから他人は絶対に奥の部屋に入れないのに唯斗くんたちが楽しそーに寛いでるんだから。しかも出会って初日よ」

頰に手を当て乙女のように想いを馳せるサクラに鹿野は少し驚いた。そんな時から気に入っていたのかと。


「暮刃は俺と同じだと思ってたのに」

「そうだったかな」

そんな話題に胡蝶が中性的な顔を笑顔に変えた。
胡蝶の微笑みに同じような笑みを返した暮刃。この2人は穏やかさと気品さは似ているが、公か秘密かの違いが大きいなとイノは静かに考えていた。

火遊びが好きな胡蝶が何故刺されないのか不思議である。

「氷怜は人選びが上手かった。絶対に後腐れしないしね」

「この目が腐ってない証拠だな」


人の選び方はいつも直感だが、外れたことがない。

氷怜は視線を外に投げたままタバコを取り出した。その瞬間、式がすかさず火を付ける。律儀に反応するようになったその頭を撫でると嬉しそうにする様子には癒される。唯よりもいくぶんか大きな背丈の式も桃花も氷怜は気に入っている。


「お前らも会いたかっただろ」

「え、や、俺らは」

貴方より前に会いたいなんて言えない。おそらくそんなような言葉の意味合いに氷怜は小さく笑った。可愛げのある人間を拾ったと自分を褒めたくなる。


「そうだね、流石だよ。可愛いよねえ」


胡蝶の趣味は知っていたが、あの短時間の接触で随分と気に入られたものだ。かといって閉じ込めたい訳でもなかった。


「ドーセ、どんぴしゃとか言うんでしょ」


瑠衣が気だるげに暮刃に体重をかけ、お見通しだと笑う。


「うん、かなり」


にっこり微笑む胡蝶にピシリと何かの音がした。気がしただけかもしれないが式と桃花はこっそりと氷怜を見る。

「鹿野は秋と優が気に入ったみたい、それにあの2人もかわいいよねえ」
 
「いないのが残念だ、会いたかったのに」

鹿野も見渡すように視線を動かしながらそう呟いた。
その間もサクラ同様、向けられた視線には笑顔で返していく。

何故今こうも煽るのかと式と桃花は気が気ではなかった。明らかに旧知の仲だと言うのに。

暮刃と瑠衣は氷怜に比べて反応を示したがそれでも敵意は口ぶりだけで静かな態度だ。

「鹿野までそんなこと言うなんて珍しいね」

「やめてよネ、今日オレ疲れてんの~」


瑠衣が食べ進めるケーキはすでに半分を超えていた。
周りはこの集まりに目を止め気にしないふりでこちらに注意を向けている。おそらく、その美貌を持つもの同士の会話と瑠衣の胃袋の在りようが気になってきたところだ。

「ま、一番の問題児は瑠衣だろ。お前は興味無くすとほんと縁ごとぶった切るからな」

「そんなつもりなかったけど」

「……意図的に記憶消したようなもんじゃねえか。その頭についてるもんは高性能だろ」

「んー?」

馬鹿なフリが好きな瑠衣の事はもちろんお見通しだった。それが楽しいのか、緩いから余計そう見えるのか、そう言うことを楽しむ節がある。


鹿野にしては珍しく試すように笑ってみせた。


「たまには強敵がいた方がいいだろ?いざという時動けなくなるぞ」

「えー強敵?ミエマセーン」


どこー?とふざける瑠衣に暮刃が笑った。唯や秋や優がいる時ならば頼り甲斐を見せるものの、このメンバーだと末っ子役はぴったりだ。

その様子にぱちりと目を動かしたイノが腰に手を当てる。

「なんだよ思ったより元気じゃねえか。胡蝶もそれくらいにしとけ」

「じゃあイノが今日の相手してね」

「しねえから……」


式と桃花は声こそ出さないが、聞いてはいけないものを聞いてしまったかとお互い目を合わせ慌てる。そんな式と桃花を胡蝶が目に止めた。


「うん、中々だ」

初めて男に身の危険を感じた2人だが、客人に手を出すわけにもいかない。多分勝てるがどうしたものか。腕にだけ力を込めた2人を見ると氷怜が煙を吐き口を開いた。


「おい、手出すな……そいつらかなりやるぞ」

「そうなの?残念、痛いのはごめんだな」

「可愛いもんだろ」

氷怜がこういう時しっかりと手助けをするところはメンバー誰もが慕う理由の1つだ。胡蝶は悪びれる様子もなく穏やかに笑うとイノに顔を向けた。


「まあ美人よりも可愛さかなやっぱり。だからほら、イノ」

「だからほらってなんだよ!って腰に手を回すな!」

「ヤッタレヤッタレ~」


ちゃちゃを入れる瑠衣はついにケーキを食べ終え、けたけた笑い出す。


「あーもう行くぞ!あんまりつまんなそうな顔してんなよ。じゃあな」

「たまには店に来いよな」

「じゃあね、良い夜を」


イノが振り向きもせずひらひらと手を振ってまた数人女性をはべらせてフロアへと降りていく。それに続いた鹿野と胡蝶はご機嫌に笑いながらその腕を女性に取られている。おそらくタイミングを見計らって居たのだろう。


「貴方達が不機嫌だから人払いしてくれたのよ」


その背中を見ながらサクラがくすくすと笑い出す。


「知ってる。年長者の親気取りだな」

「長話に付き合ってあげたのはコッチ」


それでもだいぶ気分が紛れた。
あの3人とのポンポン飛ぶ会話は嫌いではない。

「変わらないな」

初めてホストクラブで出会った時からあんな感じだ。当時からその知名度を背負っていた氷怜達に特別扱いはしないし、なんなら挑発や説教までするようなところも変わっていない。子供のような大人は大歓迎だ。

些かの性格の曲がりは2名ほどあるが、こちらも相当捻くれているのは承知の上。

「式くんと桃花くんは知ってるの?」

不意にサクラにそう聞かれた2人にはその質問に聞き覚えがなかった。首を傾げたサクラは少し驚いたようだ。

「徹底してるのね」

「妙なとこ凝るからな」

くつりと笑った氷怜。
肘掛けから瑠衣の向かいのソファに移った暮刃がサクラの手を取って先に座らるせその横に足を組んで腰を下ろす。

今度は隣に座る氷怜に体重をかけた瑠衣がグラスを煽った。宝石のような目に一瞬の獣が宿る。


「それに俺らのお目付役はどこいったワケ?」

「随分とお楽しみだなぁおい」

「そろそろ返してくれないと、良い子にしてる意味がない」


そう、シナリオは思い通りにならないものだ。




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