sweet!!

仔犬

文字の大きさ
上 下
165 / 379
next!

5

しおりを挟む
ようやく全員が席についてしばらくは団欒が続いていた。
こうして大勢でする他愛もない話は意外と久しぶりのようで、何だかんだバタバタと忙しなく過ぎる時間。それでもまだ出会って間もないのだから随分と濃い冬だ。

「赤羽さんも特別講師ですか?」

「ん?そうですね。氷怜さん達と同じですよ」

「こいつ俺達のスケジュールで動いてるからな」

「面白いものが見れますので」


所謂、予測不能な事が赤羽さんの生きる糧なんだろう。今日はタブレットが見当たらないけどカバンの中に入っているのだろうか。

「うわ、こんな時間かよ……あーあー俺はこれから会議だからとっととお前ら帰れ」

1時間くらい居たところでぴよちゃんが立ち上がるとしっしと払われる。不満げな声をあげてみても、ありえない力でバンバン廊下に出されてしまう流石の腕力で外に出される。部屋は暖房が効いていたけど当然廊下は寒い。

「さんむ!」

「あのさーー」

瑠衣先輩が寒がって縮こまるおれにぶら下がって猫なで声でお腹すいたーと子供みたいに言う。今日の髪型襟足が外ハネのせいで余計可愛いんだな。

それにおれも同意。頭使ったらお腹すくんだ。

「ねぇ~、たまには食べに行こーよー」

「そういえば最近クラブか家だね……良いよ、この前良いところ見つけたんだよね。みんな辛いもの平気だっけ?」

「いけます!」

秋と優とおれ同時にぶんっと頷いた。
暮刃先輩はコートに袖を通しながらおちゃめなウインク。

「四川料理、パフォーマンスもしてくれるから暇つぶしになるよ」

「わーい!」

「バンザーイ!」

喜んだのはおれなのに瑠衣先輩によって勝手にバンザイをされる。でもそれくらい嬉しいのでされるがままできゃっきゃと騒ぐ。

「パフォーマンスってカンフーとかですか?」

「うん、色々と」

「楽しみ……」

秋と優はどちらかと言えばパフォーマンスに興味があるようで目をキラキラさせていた。クスリと笑った暮刃先輩が2人の頭を撫でる。

「あの俺は、やめておきます……辛いのが」

その横で絶望する桃花に暮刃先輩が笑って辛くないのもあるからおいでと優しくフォローした。
桃花辛いのダメだったの?何でこう可愛いかねと動きそうになる口をつぐんだ。褒め言葉なんだけどむくれる事を流石に学んだ。

忘れ物すんなよーと鍵をかけながらぴよちゃんが羨ましいと嘆く。

「学生はお気楽だ」

「郷」

ドアの施錠を確認したぴよちゃんの横に近づいた氷怜先輩が唐突に名前を呼ぶ。氷怜先輩の雰囲気を悟ったのかぴよちゃんが身体を向き直した。


榊李恩さかきりおん知ってるか」


その名前を聞くと、もやっとするのは仕方がない事だがその不機嫌さを顔に出すまえに相手が驚いた顔をした。

「榊?まさか会ったのか?……懐かしいな、陰険そうな奴だろ」

「え、ぴよちゃん知ってるの?」

おれが反応した事により、今度はぴよちゃんが反応すると今までと全く違う重いオーラ。まるで氷怜先輩のような低い声。やっぱり似てる、怒りの表現が似てるんだ。

「おい……氷怜、何で巻き込んでんだこいつら」

「……そうだな」

ふいにした悔しそうな顔を今まで見せなかったのは隠していたせいだろうか。優しいこの人は気を使っていたのだろうか。どちらにせよ氷怜先輩にこんな顔させてるのはおれだ。

それに先輩達はいつも遠ざけようとしてくれていたのだから。

「巻き込まれてないよ」

「お前は黙ってろ高瀬」

「巻き込まれてない。それに、おれはあの人に先輩達がどれだけ良い人か次会ったら教えるんだから」


何も答えなかった氷怜先輩の黒い目が見開いた。
ぴよちゃんのシャツの袖を掴んだ事により視線がおれに向き、おれの言葉が頭に入って理解して、その結果受け入れ不可と判断したようだ。

赤羽さんだけが笑みを深める。


「…………はあ?」

「そう、おれちゃんとレクチャーの段取りまで決めたんだから。次会ったら絶対講義するの。あの人の凝り固まった概念をこう」

「待て待て、何言ってんだ」

顔を片手で覆ったぴよちゃんがだからこいつはと唸りだした。

「言い出したら聞かないっすよ。それに今回は俺も賛同」

「残念ながら俺も」

秋も優も手を挙げて、宣誓のように声を上げる。むっとしているだけじゃ始まらない。おれたちが得意な会話で覆して見せるのだ。にっと笑ったおれたちの横で桃花も仕方なさそうに笑って同じく手を挙げた。

「じゃあ、俺もです」

桃花のそういうところが本当に好きだ。
ようやく外した手からのぞいた瞳はもう怒っていない半ば諦めたように先輩達を見ると眉間にシワを寄せた。

「にやけてんじゃねェよ」

ぴよちゃんの言葉にその視線を辿ったが先輩達の顔はいつも通り綺麗で最高に美形でなんら変わりなかった。
それでも一言、綺麗に揃ってこう言うのだ。


「最高だろ」




その言葉そのままお返しします。



しおりを挟む
感想 179

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

変態高校生♂〜俺、親友やめます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
学校中の男子たちから、俺、狙われちゃいます!? ※この小説は『変態村♂〜俺、やられます!〜』の続編です。 いろいろあって、何とか村から脱出できた翔馬。 しかしまだ問題が残っていた。 その問題を解決しようとした結果、学校中の男子たちに身体を狙われてしまう事に。 果たして翔馬は、無事、平穏を取り戻せるのか? また、恋の行方は如何に。

a pair of fate

みか
BL
『運命の番』そんなのおとぎ話の中にしか存在しないと思っていた。 ・オメガバース ・893若頭×高校生 ・特殊設定有

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

異世界で、初めて恋を知りました。(仮)

青樹蓮華
BL
 カフェ&レストランで料理人として働く葉山直人(はやまなおと)24歳はある日突然異世界へ転生される。  異世界からの転生者は、付与された能力で国を救うとされているが...。自分の能力もわからない中、心の支えになったのは第二王子クリスと、第一騎士団団長アルベルト。  2人と共に行動をすることで徐々に互いに惹かれあっていく。だが、以前失恋したカフェ&レストランのオーナーがちらつき一歩踏み出せずにいる。 ♯異世界溺愛系BLストーリー ⭐︎少しでも性的描写が含まれる場合タイトルに『※』がつきます。 読まなくてもストーリーが繋がるよう努めますので苦手な方はご遠慮ください。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

親衛隊総隊長殿は今日も大忙しっ!

BL
人は山の奥深くに存在する閉鎖的な彼の学園を――‥ 『‡Arcanalia‡-ア ル カ ナ リ ア-』と呼ぶ。 人里からも離れ、街からも遠く離れた閉鎖的全寮制の男子校。その一部のノーマルを除いたほとんどの者が教師も生徒も関係なく、同性愛者。バイなどが多い。 そんな学園だが、幼等部から大学部まであるこの学園を卒業すれば安定した未来が約束されている――。そう、この学園は大企業の御曹司や金持ちの坊ちゃんを教育する学園である。しかし、それが仇となり‥ 権力を振りかざす者もまた多い。生徒や教師から崇拝されている美形集団、生徒会。しかし、今回の主人公は――‥ 彼らの親衛隊である親衛隊総隊長、小柳 千春(コヤナギ チハル)。彼の話である。 ――…さてさて、本題はここからである。‡Arcanalia‡学園には他校にはない珍しい校則がいくつかある。その中でも重要な三大原則の一つが、 『耳鳴りすれば来た道引き返せ』

処理中です...