sweet!!

仔犬

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care!!!

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この甘さに流されているような気がして、むくれてみせたものの恥ずかしさを消すためにそうしていることはお見通しだと喉を鳴らす。


「俺たちはさ、グレーゾーンどころか完全にブラックなところ正直いくらでもあるしね。悪魔なんて称号はそれで良いしそれが当たり前なんだから、気にしなくて良い。それに、やっぱり猫かぶってるよ、君たちに嫌われたくないから」

「猫……狼じゃなくて?」


優がそう言うので暮刃先輩は笑みを深くして優の腰に手を回す。
優雅な微笑みにその甘さで色をのせる。

「嫌いになる?」

「なりませんけど……」


むくれる優に堪え切れないといった風に口づけを落とす。優は思わず視線をそらすが顎を掴まれ首ごと向けられてしまう。


「……ご機嫌過ぎです」

「だってねえ……?」


それを見ていた秋は溜息を吐いて後ろにぶら下がる瑠衣先輩に首だけを少し向けた。

「あの人のことなんで気に入ったんですか?」

綺麗な顔がにんまり笑って犬歯が見え、そのまま頰に噛み付いくので驚いた秋が声を上げる。

「いっ」

「だってさあ、今までにない強さだからオレとしてはもう一回やりたいワケ~。だいたい結果としてアイツがやった事ってサイト作ったくらいだし。だから余計に怨みよりも好奇心が勝ったんダヨね~」

最後にぺろりと舐めるとぶら下がっていた腕に力を込め秋を抱きしめる。痛いとかなんとか言いながらも解くことはしない秋がまたため息。

「……まあ確かに」


連れ去ったのはサイトを見た人だし、それにより襲われたチームの人達は全員返り討ちにしている。しかも間違えて載せられ、連れてこられた一般人は放り出されていただけで傷ひとつないらしい。目的がさっぱりだ。

それでも思い出すとむっとしてまう。そんなおれを観察していたのか氷怜先輩が可笑しそうに笑った。


「だからそんな怒んなよ。むくれてんのも可愛いけどな」

「だって……」

「俺らとしては最高のプレゼント貰ったくらいだな」


氷怜先輩がもはや失念していた骨折の腕を持ち上げそこにキスなんてするから、おれはもう言うことがなくなってしまった。さっきのキスの時点で頭は一度ショートしたワケだが。


「ほら、上行くぞ」


腰を引かれて階段を登り外に出る。

港は風が強くて真っ暗な外は凍えるように寒く、出てきた建物は外もボロボロで港の風でいたんだペンキが剥がれている。少し離れたスペースに今日乗るはずだった大きな車。赤羽さんが降りてくると流れるようにコートが肩にかけられた。


「お帰りなさい」

「ただいま、赤羽さん」


きっとおれたちが連れ去られたことに気づいても、今みたいな爽やかな笑顔だったんだろう。そう思っていたのに彼が言った言葉が意外なものだった。


「もっと警戒するべきでした」

「……赤羽さんが落ち込んでる!」


声をあげた秋に失礼ですよとからりと笑っている赤羽さんからは想像もできない言葉だ。優もきょとんとしている。

「赤羽さん、驚くことはあっても落ち込まない人かと」

「君たちもだいぶ俺に対して図太くなりましたね」


失礼な事を言っているのにどちらかと言えばうれしそうに笑うのでおれたちは意外と彼に気に入ってもらえるのかもしれない。話しつつもマフラーまできっちりと巻かれていく。

秋がマフラーで口まで隠しつつ覗くように赤羽さんを見る。

「実際、驚いてはくれました?」

「赤羽っち珍しくキレてたよ」

「え?!」

「ははは!」


暴露されてもさわやかに笑う赤羽さんからはとてもその様子は伺えない。それでも、心配させてしまったのは申し訳ないけど嬉しいな。


「おい!」

泣きそうな顔でおれたち気づいた似てないようで似てる兄弟2人がおれ達に駆け寄る。掴まれた手が冷たくて、ずっとここで待っていたんだろう。握り返すと食い気味に声を出した。

「怪我は?!」

「ううん」

おれが笑ってあからさまに安心した彼らは一気に全身の力を抜いた。紅の視線がおれの顔に移ると怪訝な顔をする。今度は腕に視線が移ると悲痛そうに顔を歪め勢いよく下がる頭。


「え?ちょ、どしたの」

「あんなやつのところに置いて行った自分が許せない……そもそも捕まえたのも、本当に悪かった」

「俺も……悪い」


弟までも下げたことで思わず後頭部のつむじを探してしまった。発見、同じ位置で同じ向き。遺伝子の繋がりって奥が深い。

潔く良さも責任の強さも。


「うん、もうこんな事しちゃだめだよ」


ゆっくり顔をあげた2人は困ったような、それでもすっきりした顔で笑う。よかった、もう大丈夫そう。

愁がポケットから優の携帯を取り出し返すと、優が忘れてたと呟いてそれを受け取った。
すると今度は紅がおれの胸にあの茶色の封筒を押し付けられる。


「へ?」

「お前らにやる。正直これは俺らの努力じゃないし……あれだけど」

「でもそれじゃあ、てゆか残りもおれが」

「いや」

首を振られてしまうが、それだと問題の解決にならないじゃないか。
困ったおれたちに瑠衣先輩がニヤリと笑った。

「元から返させるから」

「でもあいつらお金がないって……」

「大丈夫大丈夫、それもサクラちゃんがネ」

「サクラ姉さん?」


また?と秋が首を傾げたが、瑠衣先輩はにーっこりと笑うだけで口を開こうとしない。うーんと悩んだ秋が慎重に問いかける。


「……とにかく、大丈夫なんだな?」

「ああ、ありがとな!」


本当に大丈夫そうなのでまあ、いいかと割り切ると兄弟が突然先輩達を褒め出した。先輩達を呼んでくれたのは2人のハズなのでその時に話したのだろう、その短時間で2人を夢中にさせてしまう先輩達ってやっぱり格が違う。

「まさか男の恋人がいるとはびっくりしたけど、なんかお前らなら納得だわ。俺たちのことも話ちゃんと聞いてくれて電話一本で解決までしてくれた……マジで尊敬した……それから今回の借り全部、いつか必ず返すから」

「先輩達が最高なのは分かるけど、お礼とか別にいらないよ」

「うわお前、ノロケたりするんだな」


優の素直な感想に暮刃先輩が横で肩を震わせて笑った。全部聞かれた事だし開き直っているのだ。弟なのにおれたちに兄のような目をして愁が可笑しいと笑った。

「だって兄ちゃん、捕まってる時に試験勉強するような奴だぜ」

「……そうだったわ」

「なに、そんな事してたの?アホすぎ!いやマジメなの??でもアホ!!」


ゲラゲラ笑った瑠衣先輩。
でもあほはどちらかと言えば褒め言葉なので思わず照れる。


「いやー、緊張感の無さには自信が…………」


そう言いながら心の中で試験、という単語が引っかかり言葉が止まる。秋と優がそれぞれ違う方法で顔を隠す。完全に頭から抜け落ちていた。


「ああ……そう試験ね、試験……」

「うわあ、完っ全に忘れてた…………ていうかいま何時だよ…………」

「午前四時」

いつのまにか横に来ていた式と桃花が絶望するおれたちの問いに答えた。四時?四時って何時?


「もう次の日……?」


当然呆れ顔の式は呟く。


「相変わらず締まりがねぇな……」

「そこが良いんですよ」


桃花がくすりと笑ったが秋と優は土日のバイトを挟んで月曜のテストを迎えることになる。おれは初めて、骨折によりバイトが休みということに感謝したのだった。




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