sweet!!

仔犬

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care!!!

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「いやー、相変わらずですね!」


優からの電話が切れ、氷点下を迎えた車内ですでに自分を取り戻していた赤羽がいつも通りの笑顔で話し出す。ミラー越しに心なしか嬉しそうに見えるのは無事だとわかったからなのか、それとも予想外の動きをする唯達をさらに気に入ったのかは定かではない。


「も、申し訳ありません……」


友人でありクラスメートである3人の無駄に高い行動力に式は思わず声を漏らす。捧げたい人間と守りたい人間に挟まれると言うのは時に肩身の狭い思いをするらしい。隣の桃花も唯達の思わぬ方向へ進む様には青白い顔をするしかない。

肩身を縮こませて頭を下げる2人に呆れとも諦めとも取れる溜息を吐きだした。


「…………いい、謝るな。誰も責めてねぇよ」


そもそも腹立たしいのは連れ去られるような原因を作った人間だ。そして今回ばかりは自分たちに非があると氷怜は思う。あのサイト、氷怜達を狙う趣味の悪いシステムは賞金の高さから言ってどう考えても狙いは氷怜、暮刃、瑠衣に絞られる。巻き込んだ原因はどう考えても自分達の問題だ。




「赤羽……掴んでる情報出せ。時間が出来たしな」




誰かさんのお陰で。
そんな言葉が聞こえたような気がして、誤りたくなる口をつぐむことで防いだが、氷怜から思わず視線をずらした式と桃花。しかしその先に見えた暮刃と瑠衣も目を瞑りたくなるほどだった。



「暮刃、タバコ」



いつもなら自分で持ってきなよ、とか、人に頼るなとか、そんな軽口が交わされると言うのに穏やかな微笑みは何処へやら無言で煙草を瑠衣に渡した暮刃。瑠衣も上機嫌は影すら無くし、無表情なのに怒気を含んだ顔で煙草を咥える。

今度はいち早く反応した式と桃花が火をつけた。考えるより先に身体が動き、ボスが自分たちに危害を加える事は無いとわかっているけれどこれほど緊張したのは初めてだった。

だがそれも赤羽の言葉で一瞬忘れてしまう。

「まず、唯斗さん達を捕まえた中にあの3人が居ます。リュウジ、マサト、ヒカル」


赤羽が覚えていますかと聞いてきた。桃花にとって忘れるはずもない名前だ。体の血が沸き立つような感覚が桃花を襲う。


「……あいつらまだ!!」


思わず力んで立ち上がった桃花を式が抑える。


「落ち着けよ、桃花」


腕を引いて座らせるとタイミングを待って赤羽が続けて話し出した。


「ただ、今回は唯斗さん達を捕まえる側にいる……つまり彼らは賞金稼ぎ。ただのプレイヤーです」


彼らが犯人だとすればわざわざサイトを立ち上げ、自ら捕まえると言う矛盾したものになる。憎たらしいことに変わりはないが、彼らを捕まえたところで何も生まれない。


「犯人は随分と金回りがいいそうで、それを狙ったんでしょう。彼らの親は随分と丸くなりましたからね。世間一般の人間に近づかせるよう教育をしているらしいですよ」

「アイツらを……?」

サクラの影響が子供の教育にまで出るとは恐ろしい。桃花はそう思ったがもちろん顔に出す事はしなかった。触れてはいけないような気がしたのだ。それは勘でしかないが、正しいような気がする桃花は頭を振って気を引き締め直す。赤羽の次の言葉に耳を傾けた。


「それで、一連の主犯格ですが…………名前を榊李恩さかきりおん。サイトも全てそいつの仕事です」

「1人か?」

「はい、単独です。チームには入っておらず前科も無し。出身も年齢も動機も不明です。名前しか掴んでいないのは申し訳ないですが……」


赤羽にしては珍しく弱気な回答。それでも唯たちの連絡前から彼らの居所は掴んでいるし、その短時間でそこにいる人間を掴めるのはやはり赤羽の仕事の速さだ。


「ただ、逆にそこまで情報のない人間の方がおかしいです」

「そうだな……でも、まあ」


動機がわからずとも怨みを買う覚えはある。消して綺麗な道ばかりでは無いのだから。

だからこそ彼らが眩しくて掴みたくて、自分のものにしたくて堪らない。



「相手が誰だろうと関係ねぇよ」



誰だろうと、触れる事は許さない。


おもわず見惚れるほどの雰囲気を醸す氷怜に赤羽は目を閉じて笑った。瑠衣も暮刃も黙ってはいるが同じ目だ。


するとふいに考え込み、俯いた式が小さく声を漏らす。

「どうしたの式」

「声が……」

あの3人と榊と言う男が関わっている事は分かったが、それならば電話から聞こえたあの声は誰なのか、そう考えると式はその声に聞き覚えがあったと気づいたのだ。
桃花が首を傾げたところで式はの顔をあげる。

「あ……さっきの声の奴、あの、唯がカラオケで突っかかってきたって言ってた奴と声が似てるんです。もしかしたら……」

「ああ、その2人のことも掴んでますよ。堂本紅どうもとべにと弟のしゅうです。その2人の情報は特質したものではなくて……一般家庭の普通の人間ですよ、暴力沙汰も記録にない。何故そんな人間が加担してるのか不思議なくらいです」


しかも唯達を手伝っているところを見ると、何か理由がありそうだ。氷怜は怒りも忘れて納得した。


「ああ……持ち前の慈愛が発動したわけか」

「アッキーも優たんもそう言うところソックリだよね~」


理由が見えてきた事でいくぶん気分を取り戻した瑠衣が話し出した。それでも納得ではなさそうに、暮刃の膝に手加減のない勢いで頭を乗せた。


「瑠衣、俺の足で寝るなよ……はあ、全く本当にやってくれるね。だって、俺達にかけたんだよ」


呆れたような声に含む余裕を乗せた声。
待てすらも楽しむ表情の暮刃が笑った。




「たまにはイイコで愛犬でもしてやるよ」




脚を組んだ氷怜もまた、どう見ても可愛らしい犬には見えなかった。狼か百獣の王か。



「ご褒美、期待してもイイよね?」

「そりゃそうだろ」



暮刃の携帯が着信を告げ、それを操作する綺麗な指に鋭い爪はない。それでも舌なめずりをし始めたらきっと止められないだろう。






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