sweet!!

仔犬

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care!!!

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以前、元ネロのあの3人の事件の時に式は唯達の送り迎えを任された。あの時は全て赤羽の指示により合流場所や時間が言い渡されていた。

その時はまだ自分のチームの一員としての責任との戦いに必死で深く考えていなかった。今思えば確実に唯達はそこにいたし、その情報が間違っていた事がない。その仕組みを適当に企業秘密と言ったものの式本人も分かっていなかった。


「あいつらに発信機でもついてるんですか……」

「どうでしょうか」


どんな力と、どんな人脈を使って割り出したのか、いつもの爽やかな笑顔の赤羽に恐ろしくて聞けない桃花と式がいた。

狼か獣か、3人が黙っている重い空気の中でパソコンの音が響いていく。唯一笑顔の赤羽だけが彼らに話しかける。


「誰か連れて行きますか」

「俺らだけで良い」


タバコを口に運ぶその動作こそゆっくりだが、その目は渦巻くほど激しさを帯びていた。正直式も桃花も話しかけられたものではない。

「ひ、氷怜さん俺も連れて行ってください」

「俺もお願いします」

それでも2人がなんとか頭を下げると氷怜は静かに承諾した。内心どっと安心して頭を下げる。桃花も式もここで行かなければ後で後悔すると思ったのだ。

他のメンバーも志願したがいつもの試合とは話が違うため、クラブで待つこととなる。短時間だが、唯たちが築いたチームとの関係性は濃い。


「さて行きましょう、場所は割り出せました。主犯格のしっぽを掴んだ程度ですが」

「そんなの後でどうにでもなる」


火を消して氷怜が一定の口調でそう言いながら立ち上がった。部屋を出ていく氷怜たちに残りのメンバーが頭を下げる。

「流石に今回はお怒りだねひー」

「同じような顔した奴が何言ってんだよ」

「ほら、早く行くよ」

やっと口調だけがいつも通りだが、それでも今の氷怜達には近寄りがたい。すこし間を開けて式と桃花、赤羽がその後を追う。

クラブから外に出て、暗闇の中にあるいつもの車に向かう。暮刃が外の寒さを感じるとあの子達は大丈夫なのだろうかという心配と同じくらい怒りがこみ上げる。もし傷つけたら許せなかった。許す理由も見つからなかった。

車にいざ乗り込み赤羽がエンジンを付けたその時、暮刃のポケットでスマホが振動し連絡を告げていた。いつもならこんな時に電話に出るようなことはしない。でも何故か引っかかったのだ。

取り出したその画面には優からの着信と映し出されている。真顔のまま通話のボタンを押した。連れ去った相手だろうと思うと心が冷えていく、今すぐにでも握りつぶしてやりたい。


スピーカーにして全員に聞こえるようにスマホを手に乗せた。


「あ、暮刃先輩?」


あろうことか連れ去られたはず優からだ。声色もいつもと変わらない。暮刃の目が少し和らいだ。でも何故彼が、まさか脅されたのかと暮刃の目が鋭くなる。

「優……」

「あ、ちゃんと優ですよ。すみません心配かけて。なんか色々あって、今のところ大丈夫そうなんですけど、このまま良い感じに行けばそもそもの犯人に会えそうなんで、会ってきます」

持っていたスマホを落としそうになる。

「は?」

畳み掛ける言葉が頭のいい暮刃にも一瞬理解が出来なかった。同じくそれを聞いていた全員の表情も動きも固まるが電話の向こうはせわしなく、いろいろな音と声がした。


「優!来ちゃう来ちゃう!」

唯の声に氷怜が目を見開いた。元気な声でいつも通り、呆れるほどに今の状況に似つかわしくない。

「唯斗……?」

「あ、氷怜先輩もいるんですね。こっち手伝ってくれる人も居るので大丈夫なのですが、もうすこし経って良い感じの時にお願いしたい事があって、もし来れたらで大丈夫なんですけど……愁、ここどこだっけ?」

誰だ。
知らない名前に小さなスマホを見て全員が殺気立ち、その光景に式と桃花は身を縮こませた。

「カナメ港の28番倉庫、その事業所の廃墟!優夜、脚軽く縛り直すから座って話せよ!」

「らしいです」

らしいですじゃない。
全員がそう思った。何かに反応した暮刃がさらに冷気を帯びたように感じ式の顔が青ざめた。恐らく、縛るという単語だろうか。

優は珍しく早口でまくしたてる。

「すみません、話したいんですけど。時間が……え、なに、また縛るの?まあ、そうか最初と同じにしなくちゃいけないか……後でまた連絡します。俺じゃないかもしれないけど、無理そうだったら自分達で帰るので!」

「…………ちょっと待って。まずダメだから」

頭が痛くなってきた。
しかも向こうはスイッチが入っているのか全然聞いてくれない。遠くで秋の声がした。さらに知らない恐らく男の名前を呼んでいて、もう桃花は隣の瑠衣の顔が見れない。

「紅、時間まだあるって言ったんじゃん!優、ついでに絶対に怪我しないんでって伝えて~!」


怪我をしなければいいと言うもんじゃねぇだろ。式は心の中で突っ込んだ。また、車内の冷気が増える。


「戻ってきたのは電話したやつじゃねぇから、お前ら良いから、縛られてるフリすんだ、座れってば!」

「今度は腕前にしてよーーー!あれ痛いじゃん!」

「分かった!分かったから静かにしろって!」

「えーと、じゃあまた後で!ごめんなさい!」


今までの張り詰めたこちらの空気感も電話もブチッと音がして切れた。

知らない男2人の名前に手も足も縛られるという事態、また、と言っていたからすでに縛られた事が有る事が分かる。しかも犯人を突き止めるなんて無茶。


なんて馬鹿なことを、心の中でそう思いながら桃花と式は自分の膝を見ることに決めた。運転席にいる赤羽が羨ましくなるほど、今顔を上げては一生トラウマになると確信している。冬の寒さのせいではない、今この車は暖房がついているのに冷や汗が止まらない。


 
「…………後で、お仕置きだ」



氷怜ではない。
地を這うような低い声があの暮刃から出た。
誰を、とは誰も聞けない。





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