sweet!!

仔犬

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care!!

3

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「こ、声枯れた」

かすかす、空気みたいな声が出る。
カラオケが盛り上がりすぎて秋が教えてくれたダンスを今度はおれが教えてみんなで踊り、さらに知らない曲を適当に歌うと言う見事な楽しみ方だった。歌が上手い優がいれば綺麗な歌声が聴けるんだけど、俺はポップな声にしかならないので必然的にノリノリの曲ばかりになる。

それがまた喉を酷使するはめとなったが腕を死守したおれは成長したと思う。

「唯斗がリクエスト全部歌うからだろ」

「求められたらやるのがウェイター精神というもので……」

「サービス精神だろ……?」

おれのサービス精神に佳乃が呆れながらも喉に良さそうなハチミツ入りの甘い紅茶をくれる。
カラオケはお開きとなりそれぞれの方向に向かってパラパラと帰路に着いていた。
おれはクラブに行くつもりなのでみんなを最後まで見送る。

残るおれ、佳乃、みーちゃん。
みーちゃんもおれと佳乃に向けて手を振る。

「私もそろそろ帰るね」

「みーちゃん遅いけど帰り道平気?」

「うん。えっと、お迎え来てくれて……」

ぽっと頰を染めたみーちゃん。ははーん。彼氏さんのお迎えな訳ですね。可愛いみーちゃんが心配できてくれた訳ですね。

ニヤニヤするおれをみーちゃんが同じくニヤニヤしながらつつく。

「もー唯斗くんがニヤニヤしてどーするの」

「だって~」

「はいはい、女子会はまた今度な。遅くなるから、みーちゃんも彼氏さん待たせてないで早よ帰る!」

「はーい」

最後までしっかりまとめ役を果たした佳乃がおそらくみーちゃんの彼氏さんであろう人を指差した。こちらに向けてぺこりと頭を下げた男の子はみーちゃんが近づくとその手を取った。

その横顔が笑顔になると見つめあって恥ずかしそうに一瞬目を外す。それでもまた顔を見て嬉しそうに笑うのだ。ああ女の子ってなんて可愛いんだろう。

「みーちゃんしわあせそう」

「くっおれも彼女欲しいわ」

「佳乃ならすぐ出来るよ!」


みんなに頼られる佳乃ならほんとにすぐ出来るだろうな。それなのに佳乃からジト目を受ける。


「……俺の周りで1番モテてる奴に言われたくないわ」

「え、誰?」

「そう言うと思ったよ……あれ?」


佳乃が呆れながらそう言うと少し驚いたようにおれの後ろに視線を動かした。振り向く前に声がする。


「唯に自覚なんて求めたら日が暮れるぞ」

「式じゃん」

もうどっぷり日はくれているが。
実はこの前先輩の家で式に新しいヘアスタイルを提供してみたところ見事にマッチ。ツーブロックと束感をだしながら短い黒髪を立たせた式は男前度が上がった。

「やっぱかっこいいよその髪~」

「うわ、なんだその声」

おれの声に一瞬にして眉間にしわ。
それでも声かけたからここまで寄ってくれたのだから優しいんだよな式は。佳乃がスマホを眺めながら話す。帰りの電車を調べているらしい。

「カラオケ終わったぞ」

「知ってる。クラブ行くから唯拾いに来た」

「くっ式もそっち側の人間だったか……!」

このパリピめと何故か泣き真似を始めた佳乃はすぐにじゃあ俺は帰るわ!あと一本で終電!と手をブンブン振って駅の方に駆けていく。

また明日と大きく手を振れば式が顔を除いてきた。

「ちゃんとヒビ入ってる方使わなかったか?」

「イエスボス!」

ピシッと敬礼したおれをフッと式が笑った。

「桃花が母親かってくらい心配してんだわ」

「困った顔も可愛いよねぇ桃花」

「……お前に可愛いって言われるなんてあいつも可哀想に」


それは一体全体どういうことだいと聞きたかったがカラオケから出てきた2人組のあの柄の悪い男子高校生に注意を持っていかれる。紺のブレザーに灰色のスラックスは覚えやすい。

「あそこに獅之宮氷怜しのみやひさとがいんのか」

「今回はそいつらじゃねぇから、狙いは……」


目が合ってしまった。だって氷怜先輩の話なんかしてたら見ちゃうよ。


「お前さっきの……何見てんだよ、ああ?」


みーちゃんに当たってきたときのおれを覚えているらしい。不機嫌に上がった眉が怒りを表す。
式まで巻き込みそうでおれが口を開こうとしたが思わぬ力により遮られる。


「悪いけどたまたまだよ、見て悪かったな」


おれの手を掴んでズンズン進んでいく式。いちゃもんには慣れた様子で構う気はなさそうだ。睨んではいるが追う気は無いようで距離で小さくなった人影はすぐに何処かに行ってしまった。

「式、もう来てないよ」

「あいつらなんかしたのか?」

「みーちゃんに肩当ててきたからちょっと口が出まして……」

「お前のその男らしさ良いところなんだけどさあ」

また怒られる。と思ったらため息だけでまたクラブの方に引っ張られて行く。


「なんだったんだろねいまの人……」

「一応氷怜さんに報告するから心配すんな」



暗くなった世界を街頭が照らしていたがひとつだけ消えそうに灯っていた。

少しだけ胸騒ぎ、こういう時の勘はだいたい当たる。





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