sweet!!

仔犬

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care!

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「うん、ヒビ入ってるねー」


白髪混じりのヒゲを生やしたお医者さんがレントゲン写真を見ながら呑気に呟いた。

赤羽さんの言った通り腕にはヒビが入っていた。左手の手首の上あたり。

「綺麗にピシってね、はは」

ここ笑うところなの?
つられておれも笑ってしまったほどだ。

あのホスト社会体験の日はイノさんが紹介してくれた病院まで車を出してもらい、氷怜先輩も付いて来てくれていたので2人に診断結果を話したら眉間にヒビのようにピシリとシワが入ってしまった。

この2人こう言うところが似てる。
思わず眉間めがけてプッシュ。


「赤羽の言った通りだな」

「すごいですよねぇ赤羽さん。ちょっと触っただけなのに」

「……呑気なやつだな唯」

自分の腕のことなのに赤羽さんに関心したおれをイノさんと氷怜先輩が笑った。眉間のシワが薄くなりホッとする。

帰り際、ニヤリと笑ったイノさんがこんなことを教えてくれた。

「唯、お前今日売り上げトップだったぜ」

「へ?」

「レイラさんもあとアゲハ達もかなりお前に入れてくれてたからな」

アゲハさん達とはあの後すっかり意気投合し、美容女子というグループチャットを立て挙げたほどだ。しかもあの騒動の中、他のお客様の誘導をしっかりと手伝っていたと聞いて感動の涙が止まらない。

思い出して感極まっていたらイノさんに肩を引かれた。


「氷怜、悪いけど本気でこいつ誘うからな」

「……言ってろ」

「うんうん、イノさんまた遊びましょうね」


遊びの誘いに頷いたら氷怜先輩とイノさんが同じような顔をした。なんとも言えないそんな顔。

「これさえ無ければ……」

「そこが良いんだけどな……」

「え?え?」

「ま、遊びに行くよ」

「はい!」

ぶんぶん手を振って腕を痛め、氷怜先輩に怒られながらその日はお別れした。


そんなこんなで今日はみんなにヒビ報告をすると、みんなで集まることになった。
しかも今日は初めての場所で集まっている。


おれの隣でクッションを持っていた優が眉をひそめてスマホを取り出す。

「バイトは休むしかないね」

「え、働くよおれ。片手で」


当たり前だと言ったおれに優は冷たい視線を送り、指はもう電話をかけ始めていた。

「馬鹿、ダメに決まってるでしょ……あ、お疲れ様です。唯のことでちょっと……はい、実は怪我して腕にヒビが入って……いや元気はありますよ、大丈夫です。今隣居流ので変わりますね……唯、春さん」


ほらと渡されたスマホには春さんの文字、右手で受け取ると穏やかな声で名前を呼ばれた。電話越しでもマイナスイオン感じるね。

「唯斗、大丈夫?」

「春さんおれ働きた」

「残念だけど、それはダメ」

「…………ぐすん」


あの春さんに断られてしまってはもう動けない。ショックを受けたおれの頭に大きな手が乗った。後ろのソファに座っている氷怜先輩が慰めてくれているのだ。

「ううう、治ったらすぐ働きますから忘れないで下さい」

「大袈裟だなぁ、当たり前だよ」

くすくすと笑われながら、早く治るように遊びにきたら美味しいもの出してあげると優しいお言葉を頂いたのでバイトレスになったら行こうと決めた。バイト好きも困ったものである。


「超落ち込んでるネ」

「バイトはまあ俺でも落ち込むっすよ」

「好きだネェ~!」


テレビの前で電話を聞いていた秋がおれに同意すると瑠衣先輩がけらけら笑い出す。キッチンに立っていた暮刃先輩がにっこり笑いながらご馳走を持ってきた。

「じゃあ早く治さないとね」

「美味しそうー!!」


どうしてこう、イケメンは料理までできてしまうのか。暮刃先輩が持ってきたお皿はキラキラのコース料理みたいに完璧だった。


「氷怜、小皿どこ?」

「ああ」


ゆっくりと立ち上がる氷怜先輩の背中を見送りつつ部屋を見渡した。

走り回れるほど広い空間はシンプルで最低限置いてある家具はどれも高級な雰囲気。映画かと思うほど大きいテレビと、白い壁がスクリーンにもなると言われて顎が外れそうになった。
ガラス張りのお風呂に、おれの部屋より大きいウォークインクローゼット。
極め付けは景色の良さ、最上階の一室のここは主人に良く見合う。


「氷怜先輩のお家でっかすぎ……」

「いつでも来いよ、鍵作っとく」

「わーい!遊びにいきます!」



手を挙げて喜んだおれは聞き逃しそうになっていた。
今なんて言ってた?


「…………鍵?」

「今スルーされてたら流石に怒ってたわ」



ちゃんと耳が機能してよかった。にやけたおれに優が良かったねと意味ありげに笑ってくるので恥ずかしくなって優のクッションを奪い取った。

「あいた!」

すぐ腕の故障を忘れてしまうのだ。
あーあと呆れた優がピシッと人差し指を立てた。

「今日はなんのためにみんな集まったと思ってんの、大人しくしなさい!」

「ひー!ごめんなさい!」


優様のお叱りはごもっとも。
今日はおれがひとりだとあれこれしてしまうので、みんながおれの相手をしながら不必要に動かさないようにする優しい会である。

又の名を氷怜先輩の家に行ってみたいおれのお願い叶えてあげようの会。




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