sweet!!

仔犬

文字の大きさ
上 下
126 / 379
host!

6

しおりを挟む

「ありゃもう、がっつりモード入っちゃってますね。優さん」

「まあ、そうなるよね……」


優とスタッフオンリーの入り口を少し開けてフロアを覗けば角の席で唯を発見。跪いて美人なお姉さんの手をマッサージしていた。顔つきでわかる、あれはもうフェミニスモード120%だ。あの体制で女の人に接するときは元気付ける時だから、大方何か気になるところがあったんだろうな。


たっかい天井に見合ったひっろいフロアにはシャンパンタワーがいくつも並んでいる。すでに六個以上あるから今日はそもそも売り上げがものすごい良い日なのかもしれない。
値段を聞いてしまった今、いつ倒れてしまわないか恐ろしい。


「それにしてもどうしよう、引っ込めさせるにしてもまだ指名入ってんのかな」

「さあ……しかも俺ら向こうに勝手に突撃出来ないし」

「それなんだよなぁ」


うーん、と2人で考え込んでいるとドアが大きく開いた。一歩下がれば見覚えのあるスーツにキラリと光るメガネ。

「あれ何してるんだ。秋、優」

「鹿野さん!」


きょとんとした顔もクールビューティな理系男子。俺には絶対呼ばれない称号の彼がにっこりと笑う。俺たちが連れ戻そうとしている唯を指差した。


「唯すごいや。お酒一滴も飲んでないのに今俺と胡蝶といい金額までいってる」

「それが狙ってやってるなら良いんですけどね……」


優が眉間にシワを寄せたので俺は苦笑い。とは言えはのんびりしている場合ではない。知り合いがいるならば話は早い。


「唯を連れ戻したくて、鹿野さん手伝ってくれませんか?」

「え、なんで?」

「ぬああ、そっち側の人かあ」


がっくりうなだれた俺に鹿野さんが手を口に当てて笑っていた。遊ばれている。

「うそうそ。ま、売り上げ伸ばしてほしいし唯から学べるものも多いから返したくないんだけど……どうせ飼い主の怖ーい嫉妬でしょう」

イノさんは熱血だがこの人は案外さっぱりしているようだ。その言葉に俺と優は曖昧な笑顔を返した。

「嫉妬……今回ばかりは嫉妬というかなんというか」

「流石に尻拭いというかなんというか」

「まあ、唯お世話してる風に言いますけど何だかんだ俺たちも唯がいないとイマイチダメなんすよね……あ、これは内緒です」

そう、楽しさが唯がいるといないでは違いがありすぎる。調子にのるから言ってあげないけどな。


「それに……」

優が少し悩んだように言うべきか言わないべきか数秒悩んだ。でもすぐににこりと笑う。

「俺たちがどうするのか先輩楽しんでる節もありましたので」

「それなぁ……」

あれはあれで先輩達のなかなか見れない貴重な面だ。俺はなるほど、この人達こう言う所もあるんだなと納得した所だ。

鹿野さんは意外だとでも言いたげに目を少し見開いた。


「へえ、そういうの分かるんだ?君達みんなもぽやぽやしてるのかなって思ったよ」

「そんなアホなの唯くらいです」

もう一度隙間から覗けば唯がさっきの人とすっかり笑いあって話している。すげえ美人さん相手でもどんな人でも唯が女性にその態度を変える事はない。唯のそういうところはマジで尊敬。  

笑い声が聴こえて顔を鹿野さんに戻したら何と言えない面白そうな顔をしていた。

「な、手伝ってあげるかわりに聞いても良い?」

流石に対人を接客業としているプロなだけあって人と人との距離や関係に注視するらしい。悪気もないが興味津々だ。あの先輩だからなのか、元からその性格なのかはわからない。知的な目が欲求を含んだ。

優と目を合わせ頷く。
別に聞かれて困ることも無かった。

「どうぞ」

「優は暮刃と付き合ってるよね」

「はい」

優が素直に頷いた。
うんうん納得と頷いて今度は俺に視線が移る。

「秋は瑠衣と?」

「いえ俺は違いますね」

「へえ、瑠衣があそこまで人に構うなんて珍しいんだけどな」

「好意には気付いています」


目を見開いた鹿野さんを見ていた視界の端で優の目が俺に向いた。そして小さく笑うはずだ。
きっと気付いてる俺の気持ちに。
あの唯だってきっと少し気付いている。


この曖昧な気持ちを。


俺が言った言葉はどうやら鹿野さんのツボだったらしい。
メガネを取って涙をためて笑い出す。


「君達……なんか、いいな……あはは!」


うわこの人眼鏡とってもイケメンだよ。いや、当たり前なんだけどさ。笑い方も軽やかで人当たりがいい、まだ話し足りていない俺たちにちょっとしたジャブを入れたのだ。

ひとしきり笑い終えた鹿野さんは意味ありげに笑って見せた。きっとその笑顔でたくさんの女性を夢の中に連れて行ってあげているのだろう。


「気に入ってる理由がよくわかったし」


カチッとメガネをかけ直し、スーツを正す。


「良いよ、手伝ってあげる」









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

眺めるほうが好きなんだ

チョコキラー
BL
何事も見るからこそおもしろい。がモットーの主人公は、常におもしろいことの傍観者でありたいと願う。でも、彼からは周りを虜にする謎の色気がムンムンです!w 顔はクマがあり、前髪が長くて顔は見えにくいが、中々美形…! そんな彼は王道をみて楽しむ側だったのに、気づけば自分が中心に!? てな感じの巻き込まれくんでーす♪

室長サマの憂鬱なる日常と怠惰な日々

BL
SECRET OF THE WORLD シリーズ《僕の名前はクリフェイド・シュバルク。僕は今、憂鬱すぎて溜め息ついている。なぜ、こうなったのか…。 ※シリーズごとに章で分けています。 ※タイトル変えました。 トラブル体質の主人公が巻き込み巻き込まれ…の問題ばかりを起こし、周囲を振り回す物語です。シリアスとコメディと半々くらいです。 ファンタジー含みます。

嫌われものの僕について…

相沢京
BL
平穏な学校生活を送っていたはずなのに、ある日突然全てが壊れていった。何が原因なのかわからなくて気がつけば存在しない扱いになっていた。 だか、ある日事態は急変する 主人公が暗いです

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

嫌われ者の僕

みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈学園イチの嫌われ者が総愛される話。嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。 ※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。改行多めで読みにくいかもです。

処理中です...