sweet!!

仔犬

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Peace!

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「さんざんビクついてたクセに寝やがった……」


氷怜先輩に掛かればあの唯もウサギのようで、氷怜先輩の色気に当てられ固まったその反応を楽しむように氷怜先輩が煽る。
しかし、次第に唯その目がまどろんでついに穏やかな呼吸をし始めた唯に氷怜先輩が呆れたようにため息をつく。

思えば俺たちもそんなに寝てなくて、暖かさで眠気が来たのかもそれない。
でも普通寝ないよね、唯そういうところ。

それでも照れてる唯を見れたのはここ数年の付き合いでも氷怜先輩達に出会ってからだ。


「唯が男の人を意識してるだけでも異常事態ですから」

「だって、氷怜」

「…………はあ」


諦めたように顔を埋めた氷怜先輩はもう一度眠るようだ。肩を震わせて笑う暮刃先輩がまたやられたねと呟いたので首をかしげる俺。それがさ、と話し出した。

「昨日の夜もさ……君たちが寝た後に氷怜が唯構いにいったの、もちろん起こさないようにね。でも唯起きちゃって」

かちゃりと小皿を置いて代わりにグラスを持ち上げた。香りを楽しんで一口煽る。
暮刃先輩は一挙一動が綺麗。


「そしたら彼、寝ぼけてたみたいで氷怜押し倒したんだよ……あの子色気ある顔ちゃんと出来るよね」

「だてに女の子エスコートしてないですからね」

「でも案の定というか、氷怜の上が暖かいからか猫みたいにすりついてそのまま上で寝ちゃってね」

「……可哀想に」

俺の言葉に暮刃先輩がくすくすと笑った。
つまり今、押し倒したのは仕返しという事か。
結局また寝られてしまったわけだから、引き分けかな。


「氷怜先輩は……というか先輩達きっと死ぬほど経験豊富じゃないですか。優しいですよね。別にもう唯なんてあからさまに氷怜先輩大好きだし、それこそ恋人なんだから本当にぺろっと食べちゃえばいいのに」

「わあ、すごいこと言うね……」


あははと笑った暮刃先輩が俺の髪に指を通した。
宝石みたいな目が少しだけ力を入れる。この人意外と表情が出る。いや先輩達みんな表情豊かなんだけどさ。


「それ、俺に言わない方がいいよ」

「……誰か食べる予定でも?」


正直、わざと聞いてみた。
この言葉遊びに多分暮刃先輩は付き合うのだ。俺が避けないことも、目の動きも、どの程度の心構えなのかも全部知ってるから余裕なはずだ。
それに俺も色々見えてることもあれば考えている事もある。俺の性格は素直と好奇心が強めだ。

俺の言葉にグラスを口つけたまま、うーんと困った顔をする暮刃先輩。これがそんなに困ってないことはお見通し。

「まあ、前はね選んでつまみ食いしてたんだけど」

「へえ」

そりゃこれほどの美貌に器量、余裕を持っていれば選び放題なはずだ。まさかそんな話を聞けるとは思わず思わず食いついてしまった。


「ちなみにどんな人ですか?男の人?女の人?」

手をつけて覗いた俺に暮刃先輩がなんとも言えない顔をした。君たちそう言うところあるよねと小さくため息。こればかりは唯のせいではなく俺たちの共通の個性かもしれない。


「……せっかく話してるのにもうちょっと可愛い反応してよ」

「ええ、わがままですよそれ」


ほっぺた引っ張られてもしょうがない。こんな物語から出てきたような人の人生を覗き見したくもなる。

そもそも俺も秋も唯も嫉妬の感情を聞いた事がない。感じた事がないものは演技派ではない俺は表現出来ないし。

いつかする時が来るんだろうか。この人に。

いつのまにか考えにふけっていたのか暮刃先輩の声でハッとする。


「なんか」

「はい?」


にっこり。


「むかついた」

「え」



笑っているのに目が笑っていない。
すごいなこの人かなりの演技派だ。呑気に考える俺は顔に出ていたのかもしれない、暮刃先輩の瞳の色が濃く深まった。
しかもこんな綺麗で品のある人がむかついたって言ったのが面白くてついに笑い出してしまった。


「あはは」

「ここ笑うとこじゃないんだけど」

「だって……ははっ」

「まったく…………」



ツボに入ってしまってみんなが寝てるのに大きな声が出てしまいそうだったから、堪えるために手で抑えようとするとその手を掴まれた。

「その笑顔に惹かれたんだからしょうがないか」

暮刃先輩のいい笑顔にびっくりして笑いも引っ込む。
どれほどの経験でその甘い表情ができるのか。

息をする間も無く、暮刃先輩の唇で塞がれた。
そのまま移動して首筋にもリップ音。
最後は肩に顎を置かれ暮刃先輩の手が腰に移動していくと間に空間がないほど抱き寄せられる。


耳元で息がかかると甘い声がくすぐったい。



「優夜、君が欲しい」


返事の代わりにその背中に腕を回した。
全部伝わるように精一杯の力で。


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