sweet!!

仔犬

文字の大きさ
上 下
108 / 379
Peace!

3

しおりを挟む




数分歩いて、大通りに出たところで声をかけられた。


「あ、いたいた。皆さん乗って下さい」


いやにでっかい黒い車が横付けされたと思ったら見知った爽やかな笑顔。

「赤羽さん!」

「氷怜さんに後ろ姿を見つけたら連れ去れって伝言が」
 

氷怜先輩、セリフが誘拐犯です。
今日の予定は拉致監禁なのか?

窓から顔を出した赤羽さんにこれはちょうどいい頭の高さとばかりに数秒でリュックから取り出したカチューシャをぐさっと頭につける。

「……これは」

「おお可愛い。お土産です!」


すぐに写真に収めて満足していたら桃花と式が青い顔をしていた。

「おま、なんて恐ろしい事を……」

「これは!驚かしがいがありそうです!」

「え?」


やっぱり赤羽さんは喜んでくれると思ったよ。ピンシャーカチューシャをつけたままさわやかに笑う赤羽さんと拳を合わせた。カチューシャは取る気がないのかさあ乗ってと再度促す。
高級車に犬のカチューシャつけたイケメン運転手。カオスだ。

「さすが唯……もう赤羽さんと仲良くなってる」

「才能だからあれは」

秋と優が見慣れた様子で話す。

歩こうと決めたばかりだが目の前にまできてもらっては乗るしかない。桃花がドアを開けてくれて中に入り込めば当たり前のようにあったかくて広くて、座り心地バツグンのシートは今日も最高。


「まーた、甘やかされてる~」

「このシートは力が抜けるよなぁ」

「相変わらず飲み物完備……」


すでにとろけ始めたおれたちに桃花は笑い、式はいつものごとく眉間にシワ。

「俺たちまで……」

「式もなんだかんだ気に入られてるんだよ」

「そうかぁ?」

2人の会話に、おれもそうだと思った。チームの人間にも優しいあの人たちがおれも好きなのだから。

嬉しいのか恥ずかしいのか式はふんっと鼻を鳴らす。

「お前らは重役出勤までしてくるしな」

「あう、それは本当にすみません」

遅刻したおれたちにいち早く説教したのは式だった。優しい事に3人一緒で遅刻とかいくらお前達でも目付けられるぞという注意だったけど。

「いやーすっかり幸せに浸ってたら時間ってすぐすぎるんだよねぇ」

隣の秋に寄りかかれば意地悪そうに秋が笑った。

「唯が氷怜先輩にでれでれしてるから」

「秋が瑠衣先輩と朝食ずっと食べてるから」

ふざけるおれたちに優は自分を棚に上げる。

「俺は起きたし1番早くに食べたよ」

「優は暮刃先輩と優雅に食後のティータイムしてたじゃん」


言い合いを始める俺らに式がハイハイと窓の外に視線を向けてしまう。
桃花が綺麗な笑顔で笑った。

「楽しそうだ」

「桃花も遊びに行こうね」

「はい!」


話しているうちに居心地のよさに思わず眠りそうになりながらもついたクラブ。

相変わらず裏から入ると幹部の人が頭を下げる。
顔を上げた瞬間に赤羽さんのカチューシャにギョッとしていた。赤羽さんの肩が震えているのをおれは見逃さなかった。楽しんでくれて何より。

驚きながらも幹部の人がおれたちにも手を振ってくれたので手を振り返すと赤羽さんになにかを報告していた。

その目が少しだけ見開く。

「珍しい」

「どうしたんですか?」

「部屋、覗いてみてください」


さわやかな笑顔の裏になんだか含みのある目。みんなで目を合わせながらも変わらずの豪華なVIPルームに足を運んだ。
少し慣れてしまった自分がいて、それもそれで不思議な日常だ。
それよりもこのVIPルーム、天幕付きの大きなベッド付きなのだが。

「こ、これは……」

「さっきまで連絡してたんでそのあと寝ちゃったみたいですね」


大きなベッドは氷怜先輩の身長でも余裕で余っている。暮刃先輩が掛け布団をかけて綺麗に仰向けで寝ている横で氷怜先輩が横向きで眠っている。さらにそのお腹あたりで瑠衣先輩が丸くなって同じく眠っているのだ。

この頭を見せるのは後でになりそうですね、と残念そうな顔で用があるので下にいますと言う赤羽さんを見送った。

すぐさま忍び足でベッドに向かうと声のトーンを落として秋がつついてきた。

「唯真顔で写メ撮らない」

「かわいぃぃ」

「暮刃先輩まで……」


暮刃先輩の横から顔を覗いた優が仕方なさそうに笑った。その横で式が驚いたような顔をした。

「先輩達がこんなに寝てるの初めて……」

「え、そうなの?」

泊まった時はいつのまにか寝てたから気にしていなかった。桃花がふむと考えて小さく話す。

「もしかして……寝れてなかったんじゃないですか唯斗さん達といたから」

「いや、氷怜さん達に限ってそんな……」

桃花の言葉に反応した式の視線がおれたち3人に移るとあからさまに呆れ顔になった。

「やっぱお前らのせいだわ……」

「え、唯だけでしょ」

「ちげえよお前ら唯のせいにしがちだけど、毒されてんだから秋も優も。そりゃ感染源の唯は飛び抜けてやばいけどな」

「式……ちゃんとおれだけ線びくところさすがだね」

はあと、ため息をついて桃花を引っ張りVIPルームを出ようとする式。ならばおれたちも出て行って先輩達を静かに寝かせようと一緒に立ち上がった。



「お前らはこれからアニマルセラピー」



ぴっと人差し指を立てて振り返った式はそう言い放ってドアを閉めた。しかも外から鍵を閉めた音がする。

秋と優は呆然としていたが、おれはピンときた。




「ああ、おれらがワンダラに行って学んできた癒しを使えってことか!」

「絶対違うから」

手を合わせたおれに優がぴしゃりと突っ込む。





しおりを挟む
感想 179

あなたにおすすめの小説

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

変態高校生♂〜俺、親友やめます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
学校中の男子たちから、俺、狙われちゃいます!? ※この小説は『変態村♂〜俺、やられます!〜』の続編です。 いろいろあって、何とか村から脱出できた翔馬。 しかしまだ問題が残っていた。 その問題を解決しようとした結果、学校中の男子たちに身体を狙われてしまう事に。 果たして翔馬は、無事、平穏を取り戻せるのか? また、恋の行方は如何に。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...