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Peace!
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しおりを挟む数分歩いて、大通りに出たところで声をかけられた。
「あ、いたいた。皆さん乗って下さい」
いやにでっかい黒い車が横付けされたと思ったら見知った爽やかな笑顔。
「赤羽さん!」
「氷怜さんに後ろ姿を見つけたら連れ去れって伝言が」
氷怜先輩、セリフが誘拐犯です。
今日の予定は拉致監禁なのか?
窓から顔を出した赤羽さんにこれはちょうどいい頭の高さとばかりに数秒でリュックから取り出したカチューシャをぐさっと頭につける。
「……これは」
「おお可愛い。お土産です!」
すぐに写真に収めて満足していたら桃花と式が青い顔をしていた。
「おま、なんて恐ろしい事を……」
「これは!驚かしがいがありそうです!」
「え?」
やっぱり赤羽さんは喜んでくれると思ったよ。ピンシャーカチューシャをつけたままさわやかに笑う赤羽さんと拳を合わせた。カチューシャは取る気がないのかさあ乗ってと再度促す。
高級車に犬のカチューシャつけたイケメン運転手。カオスだ。
「さすが唯……もう赤羽さんと仲良くなってる」
「才能だからあれは」
秋と優が見慣れた様子で話す。
歩こうと決めたばかりだが目の前にまできてもらっては乗るしかない。桃花がドアを開けてくれて中に入り込めば当たり前のようにあったかくて広くて、座り心地バツグンのシートは今日も最高。
「まーた、甘やかされてる~」
「このシートは力が抜けるよなぁ」
「相変わらず飲み物完備……」
すでにとろけ始めたおれたちに桃花は笑い、式はいつものごとく眉間にシワ。
「俺たちまで……」
「式もなんだかんだ気に入られてるんだよ」
「そうかぁ?」
2人の会話に、おれもそうだと思った。チームの人間にも優しいあの人たちがおれも好きなのだから。
嬉しいのか恥ずかしいのか式はふんっと鼻を鳴らす。
「お前らは重役出勤までしてくるしな」
「あう、それは本当にすみません」
遅刻したおれたちにいち早く説教したのは式だった。優しい事に3人一緒で遅刻とかいくらお前達でも目付けられるぞという注意だったけど。
「いやーすっかり幸せに浸ってたら時間ってすぐすぎるんだよねぇ」
隣の秋に寄りかかれば意地悪そうに秋が笑った。
「唯が氷怜先輩にでれでれしてるから」
「秋が瑠衣先輩と朝食ずっと食べてるから」
ふざけるおれたちに優は自分を棚に上げる。
「俺は起きたし1番早くに食べたよ」
「優は暮刃先輩と優雅に食後のティータイムしてたじゃん」
言い合いを始める俺らに式がハイハイと窓の外に視線を向けてしまう。
桃花が綺麗な笑顔で笑った。
「楽しそうだ」
「桃花も遊びに行こうね」
「はい!」
話しているうちに居心地のよさに思わず眠りそうになりながらもついたクラブ。
相変わらず裏から入ると幹部の人が頭を下げる。
顔を上げた瞬間に赤羽さんのカチューシャにギョッとしていた。赤羽さんの肩が震えているのをおれは見逃さなかった。楽しんでくれて何より。
驚きながらも幹部の人がおれたちにも手を振ってくれたので手を振り返すと赤羽さんになにかを報告していた。
その目が少しだけ見開く。
「珍しい」
「どうしたんですか?」
「部屋、覗いてみてください」
さわやかな笑顔の裏になんだか含みのある目。みんなで目を合わせながらも変わらずの豪華なVIPルームに足を運んだ。
少し慣れてしまった自分がいて、それもそれで不思議な日常だ。
それよりもこのVIPルーム、天幕付きの大きなベッド付きなのだが。
「こ、これは……」
「さっきまで連絡してたんでそのあと寝ちゃったみたいですね」
大きなベッドは氷怜先輩の身長でも余裕で余っている。暮刃先輩が掛け布団をかけて綺麗に仰向けで寝ている横で氷怜先輩が横向きで眠っている。さらにそのお腹あたりで瑠衣先輩が丸くなって同じく眠っているのだ。
この頭を見せるのは後でになりそうですね、と残念そうな顔で用があるので下にいますと言う赤羽さんを見送った。
すぐさま忍び足でベッドに向かうと声のトーンを落として秋がつついてきた。
「唯真顔で写メ撮らない」
「かわいぃぃ」
「暮刃先輩まで……」
暮刃先輩の横から顔を覗いた優が仕方なさそうに笑った。その横で式が驚いたような顔をした。
「先輩達がこんなに寝てるの初めて……」
「え、そうなの?」
泊まった時はいつのまにか寝てたから気にしていなかった。桃花がふむと考えて小さく話す。
「もしかして……寝れてなかったんじゃないですか唯斗さん達といたから」
「いや、氷怜さん達に限ってそんな……」
桃花の言葉に反応した式の視線がおれたち3人に移るとあからさまに呆れ顔になった。
「やっぱお前らのせいだわ……」
「え、唯だけでしょ」
「ちげえよお前ら唯のせいにしがちだけど、毒されてんだから秋も優も。そりゃ感染源の唯は飛び抜けてやばいけどな」
「式……ちゃんとおれだけ線びくところさすがだね」
はあと、ため息をついて桃花を引っ張りVIPルームを出ようとする式。ならばおれたちも出て行って先輩達を静かに寝かせようと一緒に立ち上がった。
「お前らはこれからアニマルセラピー」
ぴっと人差し指を立てて振り返った式はそう言い放ってドアを閉めた。しかも外から鍵を閉めた音がする。
秋と優は呆然としていたが、おれはピンときた。
「ああ、おれらがワンダラに行って学んできた癒しを使えってことか!」
「絶対違うから」
手を合わせたおれに優がぴしゃりと突っ込む。
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